20.妹の襲来(2)
「ねえねえ、一緒に帰ろうよぉ。佐藤君」
くそっ! 帰ったんじゃなかったのか!
「いえ、仕事がたまっていますので」陽介はディスプレイに視線を戻した。
芽衣子がそばにいようが関係ない! 何時間でも無視して仕事してやる!
そういき込んだ直後に、芽衣子はパソコンの電源ケーブルを引き抜いた。ディスプレイが真っ黒になり、陽介は唖然とした。
「さあ、帰ろう、ねっ」芽衣子は陽介の耳を引っぱる。
陽介は一度うつむいてから、顔をあげた。
明日も明後日も同じように喫煙所へ逃げる、なんてわけにはいかない! 今日中に決着してやる!
陽介の心に炎が灯った。
「ああ。いくぞ!」陽介は立ちあがって芽衣子の腕をつかむ。
「そんな強引にしないでよぉ」などとほざく芽衣子の言葉など無視して、出口扉に早足で進んだ。
ビルから出て、めったに人が通らない細い路地に入る。
「どういうつもりだ! 会社にまで来やがって!」
「その態度はどうかしら。私は『主任』だから、ヒラのヨースケよりエライのよ」
「ふざけるな! 明日も会社に来たらゆるさねーぞ!」
「ゆるさなかったら、どうするのよ?」いいながら、芽衣子は陽介の胸に指を置いた。
「魔法か」
「うん。電撃魔法だよ。凄く痛いんだから。覚悟しなさい」
「魔法を使うには、それに集中する必要はあるか?」
「読みあげた精霊文字に魔力をこめて配置していき、魔法起動体を構築する。そして、起動体に魔力を流し込むことで発動! すごく集中力がいる作業よ」
「だったら、俺は魔法を防ぐとこができる」
「はい?」
「俺が魔法を封じたら、いうことを一つだけきけ」
「煎じて呑むから爪の垢をくれ?」
「あほか」
「会社には来るな?」
「それだ」
「ヨースケを痛めつけるていどの魔法なんて、三秒で発動できるわよ」
「三秒あればじゅーぶんだ!」陽介は芽衣子の肩をつかんで、顔をよせる。
「なによ!」と芽衣子は陽介を睨みつけながら、何かを唱えだした。
同時に陽介も、声を張る。
「うんこ、ちんこ、うんこ、ちんこっ! どうだ! 集中力をなくす呪文だ。魔法は唱えられまい!」
「ほんと、バカね」芽衣子がいうと、身体を貫くような痛みと衝撃があり、陽介の意識は消し飛んだ。
自室のベッドで目が覚め、すぐに掛時計を見た。夜九時だ。
まさか……また一日以上寝てたってことはないよな。
陽介は、慌ててスマホで日付を確認し、本日であることが判明して安堵の息を漏らした。
「寝かせるにしてもネクタイぐらい取ってくれよな」
やや的外れな愚痴をこぼしながら起きあがり、一階に降りた。
リビングに入ると、ミオリがノートパソコンをさわっている。パソコンで何をしているのか気になったが、今重要なことではない。
「芽衣子はどこへ?」
「えーと、コンビニですぅ」
「何時ごろ帰ってくるんだ?」
「わかりませーん」
ミオリは柔らかそうなホッペに手を当て、小気味よく首を傾けた。
「母さんと、他の連中は?」
「お母様は入浴中で、シグゥアちゃんとジン君はメーコ様のお供です」
芽衣子が帰るのを、待つしかないようだ。
「ところでミオリさんは、なにやってんの? ゲーム? 動画見てたの?」
陽介はミオリの後に立ち、眉をよせた。プログラム開発アプリが起動されているのだ。
「プログラムの勉強です。お兄様のお手伝いができるように」
「手伝い?」
「はい。お兄様が遅くまで会社にいなくてもいいように、私が手伝いますぅ」ミオリが微笑む。
なんて優しいんだ……実の妹とはえらい違いだ! 陽介は感動のあまり、目頭が熱くなった。
「そうかそうか、でもいいんだよ。さすがに、数日勉強しただけじゃ、仕事で使えるレベルのプログラムにはならないよ。その気持ちだけで充分だ。ありがとう」
「でも、プログラムと魔法の起動は似ているんですよぉ。精霊文字を、順次・分岐・繰り返しの規約で紡いでいき、それをコンパイルして、魔法起動体を作成するんですぅ。ね、似ているでしょ」
「ん?」
陽介は首を捻った。聞き覚えのある単語と、アルキアスっぽい謎単語がごちゃ混ぜになっている。
「ともかく、プログラムは無理だよ。ゲームでもしてな。それとも、動画でも見る?」
「できますっ!」ミオリは頬を膨らませ、口を尖らせた。
「いやいやいや」と陽介は首をふりながら、ミオリを納得させる言葉を探したが、玄関が開く音がして、ベクトルが切り替わった。
「芽衣子っ!」怒鳴りながら、リビングを出た。
靴を脱ぎながら、「おはよー」と軽い口調で芽衣子がいった。
後ろには大きな買い物袋を持った苦い表情のジンと、真面目な顔をしたシグゥアがいる。
「おはようじゃねー! だいたいどうやって会社に入った!」
「ジンの悪知恵とミオリの魔法があればチョチョイのチョイよ」
「とにかく、明日は絶対、会社に来るんじゃねーぞ!」
「やなこった」芽衣子は舌をだしてから、陽介を指差す。
その指先が光る!




