13.アルキアスの客人たち(6)
「ええ、それから二ヶ月後。メーコ様は『ワラモ村の虐殺』を公にして、イコウル帝国の民衆だけにとどまらず、アルキアス五大国家のハイングランド共和国、太陽王国、メインエヌ公国、ドット自治都市連合も巻き込んで、イコウル皇家の退陣を迫った。イコウル皇帝も負けじと、メーコ様を逆賊とし、討伐を宣言した」
「そうか……」陽介はチラリと芽衣子を見た。先ほどと態度は変わっていない。「それで、イコウル帝国の刺客とやらが、俺や母さんを人質にするために、異世界からわざわざ日本に来るというのか?」
「すでに来ていると思われます。コダイモンが使用された形跡があった」
「コダイモン?」
「はるか昔、古代神へ生贄を捧げるために使われたとされる遺跡です。石でできた鳥居のような形の門で、メーコ様が往き来したことで、アルキアスと地球を繋ぐトンネルだと、認知されるようになりました」
「じゃあ……その古代門を通ってやって来たイコウルの騎士がどこかに隠れていて、俺や母さんを虎視眈々と狙ってるというのか?」
「ええ、そうです。だから、私たちがこちらの世界に、陽介君とお母様を守るためにやって来ました」
「なるほど。じゃあ、あんたらは、その刺客を倒すまで、この家にいるってことか?」
「そうなります」
「そんなのは解決とはいわんだろ。今の刺客を倒しても、新しいのがやってくる。結局は、芽衣子とイコウル皇帝が和解しないことには、俺たちはずっと狙われることになる」
「和解なんて無理よ!」芽衣子はやっと顔をあげた。
「じゃあ、どうすんだよ。一生狙われたまんまなんて、俺はイヤだぜ」
「だったら、いい方法があるわ!」芽衣子は挑むような視線でいった。
「なんだ?」
「もうこっちに来ちゃった刺客を倒したあとに、アルキアスに戻って古代門を壊せばいいのよ。それなら、もう刺客はここの世界に来れないわ。私もだけどね!」芽衣子はフンッと顔を背けた。
陽介は何度かの深呼吸で気分を落ち着かせてから、ジンに視線を戻す。
「少し現実的な話をしていいか?」
「どうぞ」
「刺客との戦いが長期戦になった場合、金のことが心配だ。オヤジの保険金でこの家のローンはどうにかなったが、別にウチは裕福なほうではない。サラリーマンの俺の給料じゃ、いきなり三人も扶養家族が増えたら、そのうち破産する。だから、半年を超えるようなら、芽衣子とジンにはバイトしてほしい」
陽介は神妙な表情でいったが、心の中ではほくそ笑む。
長期戦、けっこうだ。刺客のリスクがある限りは、芽衣子は我が家にいるのだ。
「心配ありません」ジンは頷き、横にあったカバンを開けた。中から一センチほどの厚みがある札束を取りだす。一個、二個、三個と畳に積み上げ、「三〇〇万あります。当面はこれだけあれば問題ないでしょう」
「ちょっと、まて! なんだ、この金は!」
「本人の希望から名は伏せますが、とある総合病院の院長から頂戴しました」
「その院長、もしくは子供か孫を、炎の魔法で燃やすと脅したのか!」陽介はジンを睨みつけた。
「いやいや、その逆です。ミオリ様の魔法で、お孫さんの命を救ったのですが……」ジンは首を傾げた。「あれ? ひょっとして、メーコ様の魔法で……なにか酷い目にあいましたか?」
陽介は芽衣子を睨んでから、「別に」と返した。
「ともあれ、ミオリ様の魔法で贅沢するつもりはありませんが、お金の心配は特にありません。それと……」ジンはカバンからさらに、A4サイズの紙を取りだし、机の上に置いた。
「院長に手配してもらいました。季節外れではありますが、インフルエンザの診断書です。とりあえず一週間、陽介君には会社を休んでもらいます」
「俺が会社を休む? 意味がわからん」
「いやいや。陽介君が出勤すると、ボディガードが困難になる」
「アンタが、用意周到なデキル人だっていうのは理解した。だが、俺が今仕事を休むのはありえない」
「仕事熱心なのですね」ジンは肩をすくめた。
「少し違うな。俺も休みは大好きだが、他人に尻を拭かせるのがイヤなだけだ。今回納品したシステムの基盤プログラムは俺が作っているが、保守用資料はまだない。だから本格稼動となればバグも多くでる。そんな状況で俺がいなけりゃ、他の誰かがワリをくう」
「お金の話ではないということは、理解しました」ジンが、ふふ、と笑みを落とした。「自分がどうだ、ではなく、他人を思いやるのですね。やはり、似ています。メーコ様と陽介君は」
「全然似てない!」陽介と芽衣子の声が重なった。
陽介は舌打ちをしてから、「とにかく、仕事を休むなんて論外だ。俺は寝る!」と残してリビングを出る。
「知らないわよ! 危ない目にあっても!」芽衣子が声を荒げるが、陽介はかまわず階段をあがった。
自室に入ると、スーツがハンガーにかかっているのに気がついた。母がやってくれたのだろう。
陽介はスーツのポケットに手を突っ込んでスマホを取りだし、恐る恐るロックを解く。上司である鬼塚主任からの着信が沢山並んでいた。
留守電もあったが、それを聞く気にはなれず、大きく深く息を落とした。




