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他人に勘違いされて聖女の純潔を散らされるよりかは、事情が分かっている自分がやった方が早い。
そう思ったヒスイは投げやりな口調で提案した。
聖女はキョトンとした顔で「え? ヒスイが?」と首を傾げる。
「なんか文句あっかよ。俺ならいろんな心配をしなくて済むだろ。おまけにお前のリクエスト通りイケメンだ」
「イケメン? ……まぁそうね、そういう考え方もある」
「はっ倒すぞ」
ヒスイは聖女の腕を掴んで物陰へと足を進める。
聖女は意外にもおとなしくついてきた。
とっとと済ませてしまおうと、ヒスイは聖女を抱き寄せる。
「わっ」
聖女が小さな声をあげて、ヒスイの胸にぽすんと収まった。
花のような香りがヒスイの鼻腔を掠める。
もがきながら顔をあげた聖女は長いまつげをパチパチと上下させた。
ヒスイの視線はそのまつ毛の下、虹色の瞳へ吸い寄せられて目が離せなくなっていく――。
こんなに近い距離から聖女の瞳を見たのは初めてだ。
もしかしたらヒスイが初めてなだけでなく、全人類初なのかもしれない。
緑、ピンク、水色、様々な色が混在している宝石の瞳――多面的にカットされているかのような深みのある瞳は、見る角度によって色合いが変わって見える。
本当に瞳なのか疑ってしまうほどキラキラと輝いていた。
ヒスイが瞳を熱心に見ていると聖女の目が逸らされる。
――おっと、いけない。見本通りやらなくては。
ヒスイは、聖女の髪に手を添わせスルッと毛先まで撫でる。
なんの引っ掛かりもなく指の間をすり抜けていく感覚が癖になり、二、三度繰り返した。
あとはなんだったか――ヒスイは先ほどの男女を思い出す。
ああ、そうだ。馬鹿みたいに何度も顔を近づけてキスをしようとしては「だぁ〜め」と言われなくてはならない。
聖女を見下ろしていたヒスイはそのまま下へと首を伸ばす。
落ちてきた影に聖女が再び視線を上げた。
聖女の美しい瞳が近づいていく――。
ん? 近づきすぎじゃねーか?
ヒスイはピタリと止まって近距離のまま聖女を見つめる。
ヒスイの視線に狼狽した様子の聖女は視線を不安定に揺らし、その顔は湯気を吹き出しそうなほど真っ赤に染まっている。
空気がおかしい。こんなのまるでキス待ちじゃないか。
自分じゃなければ勘違いして聖域に踏み入っていたことだろう。
本当に自分が買って出てよかったとヒスイは安堵の息を吐く。
「おい。んだよその顔」
「え!? だって……」
「だってじゃねーよ! さっきの女みたいにダメって言えよ!」
ヒスイはわざと茶化すような声を出して腕の中から追い出す。
「え? あぁそうだったわね。思った以上のハグに感動して動けなくって……」
「あのなあ……お前がしろっていうからしてやったのによ」
「うん。ヒスイありがとう! ハグって凄いのね」
「何が?」
「だって超心臓がドキドキしたんだもの。生きてるって感じ!」
聖女は大袈裟に胸を押さえて頬を染める。風に靡くホワイトプラチナの髪をそっと耳にかけて、ヒスイへ笑顔を投げかけた。
優しく目尻が下がった眩い笑顔。白い歯が覗く飾らない笑顔。
薄暗い月明かりの下が真っ昼間の太陽の下になったかのような感覚がして、ヒスイの心を照らしていく。
「ははっ、そりゃ良かったな」
「うん!」
聖女がヒスイの腕を絡め取り、引っ張って歩き出す。
「おい、抱きつくな」
「いいじゃない、さっきのがいいならこれは全然大丈夫」
「お前が決めるな」
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