6
なんでこうなっちまったかな……。
そんなことを考えながら、ヒスイは聖女を眺める。
「フゥ〜! パーリーピーポー!」
爆音の中、声を張上げて周りの人たちとハイタッチしたり腕を突き上げたりと、はしゃぎまくっている聖女――。
聖女――あれが聖女かぁ……。
「はぁ……」
ヒスイの溜息は爆音に掻き消される。
一緒にいればいるほど聖女のことを信仰できなくなっていくのをヒスイはありありと感じていた。
ヒスイがいつも遊んでいるところに行ってみたいというリクエストに答えて、ここ数日はヒスイがいつも通っているクラブに連れてきていた。
一週間前までオロオロと周りを見ていた聖女は、今では曲に合わせてこなれた感じで踊ったり、周囲を盛り上げたりと独り立ちして遊んでいる。
やたらとダンスが上手いのが尚更更が立つ。
聖女塔の中、深窓の令嬢もびっくりなくらい温室育ちの聖女は娯楽に飢えていたのだろう、ヒスイ流の遊び方をものすごい勢いで吸収していた。
白いキャンパスはもうしっちゃかめっちゃかである。
「ヒスイ〜! 飲んでる?」
「あぁ、うん」
「なぁーに? 元気ないじゃん。あの子が原因でしょ?」
飲み仲間のカレンがテキーラをヒスイに押付けながら、「ヒスイが女漁りじゃなくて女の子のナイトをしてるなんておかしいもの」と下から観察するような目線を向けた。
「俺だっておかしいと思ってるよ」と嘆きつつテキーラを一息に飲み干す。
「彼女なの? それともただの知り合い? 今日ずっと一緒にいるよね?」
「ただの知り合い。ちょっとしばらく面倒ることになって」
「ふーん。そうなんだ! 一番仲がいい女は私だと思ってたからちょっとジェラる〜」
「カレンは誰とでも仲良いじゃねーか」
「それはヒスイも同じじゃない」
カレンと適当に喋りながら聖女をぼんやりと見つめる。
どれだけ人がひしめき合っていても、聖女の姿はすぐにヒスイの目に入ってきた。
腰まであるホワイトプラチナの髪が聖女が跳ねるたびに揺れ、回転している照明のライトが聖女を掠める度に、髪の色がカラフルに移り変わっていく。
白いキャンパスを染めている感覚が可視化され、いっそうヒスイの罪悪感を駆り立てたがもう腹は括ってある。
聖女がいるだけで、腐るほど見てきたただのフロアが王城の舞踏会ホールのように見えてくるから不思議だ。
キラキラした笑顔を振り撒く聖女を、ヒスイはいつの間にか優しい笑みを浮かべて見守っていた。
そんなヒスイを見ていたカレンが「保護者か」とヒスイにツッコミを入れる。
「あ? 保護者?」
「やだ〜自分がどんな顔してたか自覚ないの〜? すっごい優しい眼差ししてたんだから」
ヒスイは自分の表情を確かめるように、顔を片手でつまむんで故意に顔を歪めていると、弾けるような声が降りかかった。
「ヒスイ〜!」
聖女が大きく手を振っている。
親指で出口を指差して顎をクイっと動かすとニヤリと笑った。
――いつもの聖母のようなたおやかな微笑みはどこ行ったよ……。
聖女が変なキャラに染まっている。
おそらくDJの真似だろうが、可憐な顔つきの聖女に似合うはずもない。ヒスイは呆れながら出口へ向かう。
聖女は一足先に階段を降り始めていた。
「なんだ? もう出るのか?」
「うん! クラブはもう十分堪能したから、今日は次のステップに進もうと思ってたの!」
「次のステップ?」
「やりたいこと沢山あるって言ったじゃない? まだまだ沢山あるから、そろそろやりたいこと第二弾よ!」
聖女は夜空に意気揚々と細腕を突き上げる。
第何弾まであるのか分からないが、ここまで来たら付き合うしかあるまい。
「はぁ……まぁいいや。んで何がしてーんだよ」
「え〜、えーとそれは……」
聖女は急に照れだして何も言わなくなる。
道行く人達にキョロキョロと視線を送ってはチラリとヒスイを見上げた。
「んだよ?」
「……笑わない?」
「笑わねーよ」
ヒスイが「さっさと言え」と促すと、聖女は指先をいじいじしながらはにかむ。
「あのね、私恋がしてみたいな〜って」
「……あ?」




