↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/41

40

 


 光を集めるのに集中しているようでヒスイは思考が安定してきたが、目の前の光景に冷や汗が止まらない。

 切望的な気持ちになっていた時、ヒスイの手が暖かいことに気がついた。

 剣を持っている方の手だ。ヒスイはそっと持ち上げて剣をまじまじと見る。


 ――あーなるほど。


「四人じゃなくて五人だって言いたいのね」


 ヒスイはふっと笑うと剣に身を任せた。なぜかそうするべきだと思ったのだ。どんどん魔力が吸われていき剣が光だす。光属性に適性が無いヒスイが生み出せる光ではない。


 ヒスイの脳裏にある単語が浮かんだ。魔法名なのだろう。剣をしっかり握ったヒスイはゴルシェンが撃ってきた光へと構え口を開く。


「聖剣召喚――エクスカリバー」


 剣から出た光線がゴルシェンの光線とぶつかり合いただでさえ真っ白な空間が巨大な光で満たされていく。

 唇を震わせたベルガモットが「それ、うちの家の血統魔法……お兄ちゃん」と呟き腕で目を強引に拭った。ヒスイの持つ剣に手を重ね、ガンガン魔力を注入し始める。  


 拮抗していた競り合いが少し動いた。


「ック……なぜその魔法を! ここ数年ヘンホート家の血統魔法は途絶えていたはず……」


「魔法は気持ちなんだよ!! うおおおおおお!!!!」


 ヒスイは身を任せるままだったのをやめて、自分の意思でガッと魔力を込めた。金色に黒色がマーブル模様のように混ざり勢いが増す。


「はああああああ!!!!」


 とうとうゴルシェンが回復しきれないような致命傷を一撃で与えることに成功した。ゴルシェンが「グアア!!」と叫び声をあげ、異界から教皇の部屋に戻される。


 マリナが素早く教皇を結界で拘束し、命に関わらない程度まで微量に回復する。これでもう反撃されることはない。

 勝ったのだ。


 聖女が駆け寄ってきてヒスイにダイブする。


「私のぜい、で、みんなが死んじゃったらどうしようって、おぼってぇ……」


「あー泣くな!! 死んでねーって!」


 ヒスイは懐かしさで泣きそうになりながら聖女の頭を強引に撫でた。グズグズと鼻を鳴らしてるその姿を見ていたら記憶があってもなくても聖女は聖女なのだなと実感した。実は記憶が戻っていると言われたら信じるだろう。


 ヒスイの足元にいたマリナが「でも、一体何が起きたの? なんで勝てた?」を結界を維持しながら振り返る。アホ毛がまるでハテナのように曲がって見えた。


「俺もさっぱり……」

 

 ヒスイは剣をチラリと見ると赤い目をしたベルガモットの頭をクシャりと撫でた。ベルガモットは綺麗に揃っていた前髪を崩したままヒスイを見上げると「何さ」と唇を尖らせる。


「いや別に」


 お前も素直に泣けばいいのにと思っただけ――。

 ヒスイが心の中で言うにとどめて笑っていると、頰をプクーっと膨らませたマリナがもたれかかってきた。


「マリナ上長? どうしたんです?」


「……別に」


 別にで被せてきたマリナに苦笑していると、後ろから足音がしてきた。



「どえらいハーレムだ。ご歓談中すまないね。――エクストラヒール」


 殿下が現れてゴルシェンに回復魔法をかける。

 ヒスイがギョッとしていると、「そいつはもうココデルだよ」言って部屋に入ってきた。

 

 後ろから顔を出したカネルが「やあ」と手を挙げ、そのまた後ろから「ベルちゃ〜ん!」と手を振るメルルとホッとした顔つきの総帥、そして第四枢機卿が現れた。


「お祖父様……」と動揺で結界を揺らしたマリナに、カネルが「ああ、皆疑問に思っているようだねぇ。第四のは生きて罪を償うとのことだよ」と説明した。


「私は間違いに同調していた愚か者だ……」

 その声を聞いたマリナが弾かれたように立ち上がって駆けていく。



 入れ違いになるようにこちらへ来た殿下が、しゃがみ込んでココデルの手を握った。ココデルの目が開かれる。


「迎えに来たよ」


「戻れた……ははは……めちゃくちゃ嬉しいや……」


 しばらく殿下はココデルの背を叩いていたが、やがてヒスイを見上げた。


「聖女の記憶はちゃんと持ってきた。これだ」と殿下が金平糖のような物体が入った小瓶を掲げる。

 記憶ってこんなお菓子みたいに保管するものなのかと釈然しなかったが、そういえば星魔法だったな、星に見えないこともないと思い直す。


「それで、肝心な前教皇は? あいつがいないと戻せないんだろ?」


「ココが戻せる。ゴルシェンがわざわざココを後継者に選んだのは、ココのが記憶の魔法能力が高いからだろうしな――ゴルシェンはもう必要ない」



 カネルが咳払いをして口を挟む。


「前教皇様は不慮の事故で亡くなってしまってねぇ。ほら、若い体の感覚で老体を動かすから階段から落っこちたってわけだよ。いや〜おいたわしいね」


 神官と聖騎士が何人もいてどうやって不慮の事故で亡くなるんだと突っ込みたくなったが黙っておいた。聖女の記憶を戻せるのならなんでもいい。


 ヒスイは初対面に加えて病み上がりのココデルに声をかける。



「聖女に記憶を戻してくれないか?」


「ああ、分かった」


 ココデルが聖女の記憶の入った瓶を手に取る。聖女の額に手を当てると目を閉じて詠唱を始めた。


 ――これでやっと聖女の願いを叶えられる。

 ヒスイは張り詰めていた緊張の糸をゆっくりと解いていく。


 聖女を辞めさせられた。記憶も取り戻せた。仇も取れた。記憶が戻れば名前だって分かる。これから何十回何百回と名前を言い続けよう。自由になってやりたいことをなんでもしよう――。


 ココデルが手を離すと、聖女の瞳から涙がポロポロと溢れ出す。


「聖女!」

 涙を拭おうとしたヒスイの手を聖女が掴んだ。長いまつ毛に縁取られた七色の瞳強い光を放ちヒスイを捉える。




「――リリー。リリーって呼んで。これが私の名前……。全部、全部思い出した」




 良かった――心の底からそう叫んだヒスイはリリーを力一杯抱きしめる。


「リリー。リリー……お前にぴったりな名前だよ」


 ヒスイの腕の中から顔を出したリリーが「やだもうヒスイったら、力が強すぎるわ」と苦しそうにしながらも太陽のような笑顔を見せた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。