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「セントラル半島行きはこの魔導列車に乗ればいいよ。お兄さんたち外国から来たの? 新婚旅行?」
「いや、移住なんです」
「へえ〜ま、ここは海が近くて飯がうまいからな! いい判断だと思うぜ!」
ヒスイとリリーは二人仲良く手を繋いでお礼を言うと車内に乗り込んだ。大荷物を棚に上げて座席に座る。
聖神教国は今混乱に陥っている。
聖女システムが明るみに出たことで教会が崩壊した。神官や聖騎士なんて職業はもうない。
とはいえ有能な人たちの集まりだ。そのほとんどは医療魔法士として各地にある救護院で働くか、王国騎士団へ入り王城の警護や魔獣の対応にあたっている。ベルガモットもマリナも例外なくそうしていた。
クラシス殿下は第六王子だというのに一気に王太子候補に名があがり、ココデルもクラシス殿下の庇護下で楽しそうにバカやっているようだ。ただの金食い虫のようだが、クラシス殿下が許容しているようなので何も言うまい。
意外なのはカネルで、あの騒ぎの後「小生はまた別の国に行くよ。もう面白みも残ってないし、これだけ目立ったら嗅ぎつかれそうなんでね」と言って旅立ってしまった。最後まで何者なのか謎な人物だったなと苦笑する。
「でも本当に良かったの? クラシス殿下が重役ポストを用意しれくれるって言ってたのに」
「ああ、いいんだよ」
ヒスイも騎士団に来ないかと誘いがあったが断った。ヒスイはツバの広い帽子を被ったリリーへ一瞥をくれると腕を組んで眠る体制を取る。
騎士団に入れば聖都から離れることは出来ない。
リリーは自由になったが、流石に聖都では顔が知られすぎていた。真に自由に生きるには生きづらいだろう。ヒスイの中でリリーと一緒に生きることは揺るぎない決定事項だった。
それに実を言うとヒスイにとっても聖都は生きにくい場所になっていた。聖女様を救い出した英雄としてヒスイが祭り上げられているからだ。
聖女様を救うために地味なフリをして教会に潜入し、夜な夜なデートを重ねながら救い出す算段を立てていたただとかの噂が回った日には、羞恥心で頭がおかしくなりそうだった。
それで、国を出ることにした。
出ると言っても隣国なので帰ろうと思えばいつでも帰れる。家族とはまだ和解できていないのでそのうち帰る予定だ。リリーが「次はヒスイの願いを叶えなくっちゃ!」と張り切っていたのでおそらくそう遠くない未来に帰ることになるだろう。
「ヒスイ起きて、降りるところ次でしょ?」
「ああ」
寝てはいなかったのだが、ヒスイは伸びをして肩を下ろす。リリーが荷物を取ろうと立ち上がろうとしてすぐまた腰を下ろした。足首を触っている。
「どうした?」
「いや、痛くて」
「あー靴擦れしてんな〜」
リリーの足首が赤く擦りむけていた。ヒスイはサッと回復魔法を唱えると、リリーの代わりに荷物を取った。
――リリーにはもう聖女の力はない。あの戦闘で出し切ってしまったのだ。
でもリリーは普通の女の子として自由に生きたかったのだからこれで良かったのだ。それに過剰に命を溜めたままだと体の負担が大きい。正直、早死にしてしまわないかの不安はまだ残っているが、もし寿命が来たとしてもなんとかしてみせる心づもりでいる。
魔導列車が小うるさいブレーキ音を響かせて停車する。降りる人たちでざわめき始めた車内でヒスイとリリーは出るタイミングを窺っていた。
「この駅めちゃくちゃ人降りるね」
「まあ、綺麗な海で有名な避暑地だからな」
人の波が切れたところでヒスイたちは通路に出る。列車から出たところで次の行き先を確認すべく地図を開いた。
――あーくっそ、カネルの地図見ずれーんだよ……。
ヒスイは親切にしてもらったくせに悪態をつく。大きく広げて見ているとまだ停車している車内から声がかかった。
「ふふ。典型的なミスをするね。逆さまだよそれ」
「おお〜まじかよ、助かったわ」
ヒスイは地図をひっくり返して声をかけてきた男をチラッとみる。
黒いハットをかぶっていて顔はよく見えないが、右下でまとめた紫紺の髪にかんざしを差している和洋折衷な格好をした人だった。
「いーえ。それにしてもずいぶん道に迷っているようだね。私から一つアドバイス。闇魔法の勉強をしてみるといい。さすれば道は開かれる――なんてね」
「え?」
「じゃあまたね、兄さん」
プルルルルルル。
「発車します! 離れて」
車掌が叫びドアが閉まる。
闇魔法の勉強で道が? 最後の方は発車のベルにかき消されてよく聞こえずヒスイは聞き返そうとしたが、すぐに列車は走り去って行った。
なんか変なこと言う人だったなとヒスイが首を傾げていると、「あ! ここじゃない? ここでしょう。今日取ったホテル」とリリーが指を差した。荷物を抱えて歩き出す。
*
無事にホテルに着いたヒスイたちは夕食のためにレストランのテラス席にいた。波の音が聞こえてくる。
「ねえ、ヒスイ! ご飯食べ終わったら海に行ってみようよ!」
「おう」
初めての海にリリーはテンション上がりっぱなしだ。いや、初めての海というより、初めてのなんの制限もない自由な行動に。
「ほい! サービスです! お姉さん綺麗だから!」
「え〜! ありがとうございます」
今のリリーは気配遮断もかけてなければ認識阻害もかけていない。目は相変わらずカラフルだったが、外国では聖女の瞳の話もメジャーじゃないと判断してこうしている。バレても多少面倒なだけで、以前のように極刑にはならないので問題ないのだ。
店員はヒスイたちにパンを配るとリリーに見惚れているのかニコニコとしたままなかなか立ち去らない。
「いや〜それにしてもここまでの美人は見たことないね! 聖女様うちの店に来てくれてありがとうございます」
――な!? なぜバレている!?
ヒスイはギョッとして店員を見る。早速面倒なことになるのかと焦っていたら店員が不思議そうに首を傾げた。
「あ、お兄さんたち外国人? これはミハルダ諸島国の文化みたいなもんだよ。美人のことを聖女様として扱うってやつ。言われた方は神の祝福あれって返すんだよ」
そんな不敬な文化があるのかよ!? 紛らわしい!!
ヒスイは心中でツッコんでホッと肩の力を抜くとドリンクをガッと掴んでゴクゴクと飲み干した。思ったより緊張して喉が渇いていたらしい。
「……あれ! もしかして聖神教国から来た!?」
「いえ……違いますが」
「っぶね〜教国人は不敬だっつって怒るからな。俺これしょっちゅう言うからたまにやらかすんだよ。――あ、でも聖女ってなんか大変なことになったんだろ?」
「……らしいですね」
「こりゃ、聖女として扱われても嬉しく感じなくなるかもしれねーなぁ……いや〜時代も変わったねぇ」
店員は「どうしたもんかね」と唸りながら下がっていた。リリーと顔を見合わせて笑い合う。
「びっくりしたね」
「だな」
「聖女に様をつけないのも新鮮だし、外国って感じ」
リリーは「アチッ」と言いながらパンをちぎるとジャムをつけて頬張る。
「気さくな人が多くていい街よね。この辺りで家探す?」
「あーいいんじゃね……てか一緒に住むってことでいいんだよな? いいの?」
記憶が戻った日からナチュラルに一緒にいるが、ヒスイとリリーは正確に恋人というわけではない。聖女塔から抜け出す時に両思いだと察せるような会話はしたが、結局リリーが記憶を失ったことで告白出来ずじまいだ。
「いいに決まってるじゃない。私たち命友だし。シロの時も一緒に住んでたでしょ?」
「あれはだな、緊急事態で」
――命友ねぇ。
ヒスイは小さくため息をついてパンを齧る。
「俺、命友は今日からやめようと思ってんだけど」
「え? やめるってなに?」
ヒスイは不安そうにしているリリーを見てふっと笑うと「食べたら外へ行こうか」とリリーの手を取った。
夜の海へと二人は歩いていく。砂浜に降り立ったところでヒスイは「ファイヤー」と小さく詠唱を唱えた。暗かった浜が一気に明るくなっていき無数のキャンドルがあるのが見えた。リリーは幻想的な光景に目を輝かせる。
「わああ! 綺麗! ヒスイこれ準備したの!?」
「お前が言ったんじゃん、告白は夜景、海辺、花畑って」
「――え?」
「まあ、花畑はこれになっちまったけど。ほい」
かけていた隠蔽魔法を解いてリリーの前に花束を見せた。色鮮やかな花々が美しく咲いていて百合が何本か混ざっている。
差し出された花束を反射で受け取ったリリーが「え? え? ヒスイ……?」と困惑して上目遣いをする。
「あー……マジでほんとかわいい」
「え!?」
リリーはヒスイの口から出たと思えない発言に目を見開く。ヒスイはバツが悪そうな顔つきで頭を掻くと大きく深呼吸した。膝をついてしゃがむと、ポケットから取り出したジュエリーボックスを開く。
ヒスイは真剣な表情でリリーを見つめる。
「リリー、愛してる。俺と結婚してください」
穏やかな波の音、夜の砂浜に浮かぶキャンドルの灯り、花束から香る花の匂い、リリーの潤んだ瞳に高揚した頬、海風に靡いて光るホワイトプラチナの髪――。五感の全てから入ってくる情報がヒスイの体に焼き付いて離れず、返事までのたった数秒が無限にも感じられた。リリーがヒスイに飛びつく。
「はい! こちらこそ、喜んで!」
ヒスイは湧き上がる幸福感に身を任せてリリーを抱き上げるとクルクルと回った。はしゃいでいるヒスイが珍しくてリリーはおかしそうに笑う。ヒスイがリリーの顔を見上げると、リリーがヒスイの耳を塞ぐように頭を包み込んでキスを落とした。
唇が離れた後もおでこをくっつけて二人だけの空間でくすくすと笑い合う。
「友達をやめるから命友も終わりってことなのね。でも一気に結婚って、付き合うところからじゃないの?」
「次は俺のしたいことを叶えてくれるんだろ? だから結婚だよ」
「記憶がない時に言ってたあれ本気だったんだ」
「当たり前だろ」
次の日の朝、二人仲良く寝転んだベッドの上で繋がれた手には銀色に輝くお揃いの指輪が光っていた。
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これから二人で暮らしながら学校に通い直したりするんじゃないかな。学生夫婦ものっていいよね。
闇魔術勉強する過程で、あれが血統魔術だったということに気がついてレノンとの血縁関係が明らかになったりするんだろうと思います笑
なんか別の事件に巻き込まれて犯人がやっぱりレノンの一族で、ラスボスが親父!?って展開になるはずなんで脳内補完してください笑
もうちょっと自分に力があったら、殿下サイドの話も書きたかったけど力尽きましたね。クラココはB Lです笑
ココ(中身教皇)の違和感に戦慄して「お前、誰だ」って言うシーンとか書きたかったけどなあ。
これからの殿下は、結局王位継承権は自ら手放して、ココデルに「もったいねぇ!! 金がぁぁ」って言われ、誰のために手放したのか全く分かってねえなこいつ……って頭痛くなる感じです。
カネルは理不尽に追放されて国際犯罪者に仕立て上げられた大賢者です。元いた国はきっと首が回らなくなってざまあされてます笑 でもとんでもなく怪しいので、国際犯罪者の噂を聞いた主人公に、一回ガチの犯罪者と誤解されるターンを挟みたいですね。しれっと、主人公たちが移り住んだ街に酒屋を開いていて、「何だ、君たちもこの街に?」って感じで早すぎる再会をします。
やってみたい設定を全部盛り込んだんで、急展開のごっちゃっとすんごいことになったけど、やりたかったんで仕方がないですね笑
お付き合いありがとうございました。




