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「神の御加護があらんことを」
聖都中央教会の司祭様が代表してそう諳んじると、全員が祭壇に向かって片膝を付き祈りを捧げる。
中央教会に務める神官全員が揃って祈る朝の時間に、ヒスイは昨日のことを思い出していた。
神はいいとして、聖女にどう祈れってんだ……。
神官たるもの、信仰深く聖女を崇拝するべきなのだろうが、聖女と盟友とやらになった今、崇拝する対象として見れなくなっていた。
ちっとも祈る気になれないがやらない訳にはいかない。
ここは教会、信仰深い神官だらけなのだから、少しでも妙な態度でいれば怪しまれてしまう。ヒスイは目を閉じ形だけの祈りを捧げた。
礼拝が終わって持ち場へ戻ろうとすると後ろから声を掛けられる。
「おはようヒスイ」
「おはようございます。マリナ上長」
肩で切りそろえた水色髪ボブカットのどこか眠そうな雰囲気を纏った女性がヒスイの横に並ぶ。
ヒスイよりも若く小さいが、正真正銘直属の上長である。
見習いから上がったばかりの三級神官には、バディ制度で上長がつく。
大抵は一級神官の中から選ばれて、准二級神官に上がると共にバディは解消される。
だがしかし、ヒスイとマリナはバディになってもう五年になる。
理由はもちろんヒスイが万年三級神官であるからだ。
こんなに長くバディを組んでいる神官はまず居ない。
マリナはすでに数字位の下級神官を卒業して、准中級神官、中級神官、准上級神官と順調に出世していっている。
「もうすぐ進級試験があるから、そろそろ勉強会しようと思うんだけど?」
マリナは首をコテっと傾げてヒスイを見上げる。
言葉を最後まで話さず相手に推測させるように聞いてくるのはいつもの事だ。
もうすぐというマリナに、ヒスイは呆れつつも態度に出ないように努め言う。
「もうすぐって二百四日後の事ですか?」
「そう。――よく二百四日後って分かったね」
「昨日、上長が二百五日後って仰ってましたからね」
ヒスイは歩きながらアホ毛がひょこっと揺れているつむじを見つめる。
「……あと半年以上ありますね」
「もう半年しかない、ヒスイは万全の準備が必要」
「……仰る通りです」
マリナ上長は人見知りだ。
バディになってすぐの頃はとても面倒みの良い上司とは言えなかった。
放任主義の上長に、ヒスイはこれ幸いとサボりまくったのだが、長くバディを組むうちに進級試験の面倒見るまでになった。
今では、超ベッタリでサボれやしない。
「ヒスイは真面目に頑張ってるのにどうしていつも?」
――どうしていつも落ちるのか。
純粋な目で見上げ問うてくるマリナに、節穴にも程があるだろというバカにした視線を向けてしまう。
――そりゃ、真面目にやってないからだよ。
筆記と実技があるのだが、ヒスイは筆記の段階で毎回落ちているため実技は受けたことがない。
基本中の基本の三級筆記を何故落とすのが理解できなかったマリナは、初めは何が分からないのか分からない、といった様子でいたのだが、今ではヒスイに合わせて半年以上前から勉強を見るつもりのようだ。
「なんででしょーね……」
「大丈夫、今年は受かる。今日から仕事終わり第三会議室に集まる?」
仕事終わり、その言葉にヒスイの肩が僅かに跳ねる。
昨日からずっと、ヒスイの夜は聖女様との予定で埋まってしまっている。
一方的な約束ではあったが、行かないわけにもいかない。
聖女が一人でふらついて大騒ぎになったら目も当てらない。
「まだ早いですよ。本当にもうすぐになってからお願いします」
「そっかー」
流石にその頃になれば聖女もやりたいことをやり終えてくれるはず――そう望みをかけて一旦勉強会を先延ばしにした。
聖女のことを考えていて、いつの間にか足取りが遅くなっていたヒスイの数歩先を歩いていたマリナが振り返って言う。
「ヒスイならできるよ」
ヒスイにしか見せない、ふんわりとした微笑みが真っ直ぐとヒスイの心にぶつかる。
ヒスイは目を逸らしたくなるのをグッと堪えてお礼を言った。
マリナが今日の持ち場である診療所の定位置へ向かっていくのを見送ってヒスイは目を伏せる。
「……もっと根本的な問題があるんだよな」
ヒスイの独り言は誰に捉えられることもなく宙に漂う。




