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「一個訂正すると、絶望して跪いて許しをこうのはお前だ、よ!!」
ヒスイはスッとあげた腕でゴルシェンを指差すと、勢いよく地面を指差した。それが手印だと気がついた時にはもう遅い。
「跪け!!」
ゴルシェンの膝がカクリと折れる。レノンが使っていた闇魔法の傀儡操法だ。
――俺のは一瞬しか体の自由を奪えねえ。だが、剣術と掛け合わせればいける!
今なら奴は結界を張れない。ヒスイは今までで一番素早く剣を振り下ろした。確かな手応えと共に血飛沫が舞う。
「舐めプばっかしてっからだよジジイ!」
ヒスイは手を緩めることなく第二撃を放った。動けるようになったゴルシェンが慌てて身捩り飛び退き、患部を抑えて回復魔法を施し出す。
「……あいつ、これを隠しておったな……忌々しい裏切り者め……」
なんだ? 何を言っている? ヒスイが尋ねようと口を開きかけた時、ゴルシェンの目つきが変わった。
景色が一変する。夥しい量の光球が浮かび視界の大半を占めたからだ。
ヒスイは次々に降ってくる光球を剣で弾いていく。後ろに聖女がいるので避けるわけにはいかず次第に体に傷がついていった。
「この光の中攻撃に転じることが出来れば大したものよ」とゴルシェンは余裕綽々で前髪を撫で付ける。
ヒスイが「くっ……」と声を漏らして片膝をついたのを見て「なんの実力もないくせに、無謀に猛進出来るのは才能だな」と冷めた目つきで言い放った。光の雨が止む。
腕にはいくつもの傷。鎧を着ていないヒスイは服が切り裂かれ肌が見え隠れしている。肩を大きく抉った傷から滲み出た血で黒い服が濡れていた。地面に剣を突き立ててヒスイは顔を上げる。
――くっそ……勝ち目がねえ!! 魔力どんだけあんだよ!! バケモンじゃねーか!
ヒスイは剣にグッと力を入れて立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。よろめいたヒスイを見て聖女が叫ぶ。
「ヒスイ!!」
祈りの手印を組んだ聖女から光が溢れ、ヒスイの傷がみるみる塞がる。疲れも全回復して荒い呼吸が治った。
「うーむ……聖女が厄介だな。あれはまだ役にたつんだが……回復役には先に死んでもらう他あるまい」
ゴルシェンが指を鳴らすといくつもの光球が出現して四方八方から聖女を狙った。
――まずい!!
ベルガモットが慌てて聖女へ結界を張る。だが、ベルガモットの結界がそこまでの強度を持たないことをヒスイは知っていた。ヒスイも結界を重ねるも、聖魔法の結界がベルガモットより上手いわけがない。
ヒスイが体を張って聖女を守ろうと駆け出した時――。
「世界を断絶す神の御技、我が手に降りたて――空を編む黄金の糸」
やたら中二病めいた詠唱が聞こえ、明らかに格が違う結界が聖女を包み込む。
襲いかかってきた全ての光球を吸収すると、なぜかゴルシェンの真後ろから出現し綺麗に送り返した。あの量の光球の対処をする羽目になったゴルシェンは余裕な表情を崩して結界を何重にも重ね出す。
やはりあの攻撃はゴルシェンが何重も結界を張るくらいの代物だったのだ。ベルガモットと、ヒスイのチャチな結界の二枚じゃ到底防ぐことは出来なかった。
ヒスイは冷や汗を拭うと、詠唱の聞こえてきた方を振り返る。
――佇んでいたのはマリナだ。
「マリナ上長……?」
ヒスイが困惑していると、横でベルガモットが「流石、結界魔法のパイオニア、第四枢機卿の孫娘。空間系魔法はお手のもののようだね」と呟いた。
今何と言った。ヒスイは驚いてベルガモットを見る。
お嬢様とは思っていたがまさか枢機卿の血縁者とまでは思っていなかった。ベルガモットは知り合いのようで軽く手を降っている。
「結局こっちの味方して大丈夫なのかい? お祖父様は?」
「うん。私は私の道を行く。でも、その……お祖父様が敵でも、ヒスイは私のこと……?」
「信じる!!!!」
間髪入れず叫んだヒスイに、マリナのしなっていたアホ毛がピンと立ち上がる。
「今助けてくれたんだから信じるに決まってんだろ! 俺だって猫被ってたんだ。隠し事の一つや二つあったほうが魅力的ってもんだ!」
「私は別に隠してなかったんだけど」
「細えことはいいんだよ!」
ヒスイは再び剣を構え敵を見据える。
「バディーで五年もやってきたんだ、マリナ上長のこと俺は信じるよ。助けてくれてありがとう」
「ヒスイ……」
もう少し話したかったが、そうもいかない。
ゴルシェンが睨め付けるようにゆっくり瞼を上げた。




