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「穏やかに立ち話が出来るってことは、俺を突き出そうってわけじゃないって解釈してもいいか?」
「どつきたい気持ちはあるがね」
カネルがわざとらしいため息をついてヒスイへ視線を送る。
「君って本当に隠れんぼが上手だよね〜。小生たちも探してたんだけど全然見つからなかったよ。もうすっかり闇魔法の申し子って感じ」
「それ聞いて安心したわ。睡眠時間削って必死に家全体に隠蔽魔法かけてる甲斐がある」
「ゴホン。雑談はもういいだろう。本題だ。ベルガモット嬢に全て聞いた。全く――早く話せと言いたいが、まあ、もういい。それよりこっちも話してなかったことがある。結論から言うと、俺はヒスイに協力するつもりだ」
殿下が協力してくれるのなら、かなり楽になる。ヒスイはバレぬように安堵の息を吐く。
「別に聖女を救いたいと言う訳ではない。俺には俺の目的がある。ココデルを助けたいんだ」
「ココデル?」と不思議がるヒスイに、カネルが「教皇さ」と口を挟む。
教皇を助けるだって!? 冗談じゃないと顔に出すヒスイに殿下は沈んだ口調で語り出す。
「ココデルは聖女システムに関わってないんだ。教皇になるつもりなんてなかったのに、ゴルシェン前教皇に無理やりさせられている……体を奪われて」
「体を……? レノンの魔法か」
「いや違う、そうだったら倒すべきものがはっきりしていて幾分か良かったんだが……ココデルの体には今――ゴルシェンの意識が乗り移っている」
ヒスイはどう言う意味だと無言で続きを促す。殿下は「ドマニク教皇家の血統魔法の話からしようか」と言って強張っていた表情を解いた。
「教皇家の血統魔法が星魔法ということは知ってるだろう? 運命の観測――すなわち占いめいた魔法なんだが、特に記憶と繋がりが深い」
「記憶……」と呟くと殿下は「お察しの通り、他者の記憶を奪うことも出来る」と頷いてみせる。
「ゴルシェンは常々永遠の命を熱望していた――それで、自分の記憶もいじれることに気がついた」
ヒスイがまさかと思い殿下を見ると神妙な顔つきでコクリと頷いた。
「他者と丸々記憶を入れ替えれば、永遠に老いない。新たな体となって永遠に生き続けることが出来る――」
言葉が続かなくなってしまった殿下に変わってカネルが「つまり今ココデル皇子様の体にいるのは。前教皇ってわけ」と付け足す。
殿下は悲痛な面持ちで唇の端を噛んだまま思い詰めた顔をしている。
あの朗らかな高笑いを響かせていた裏で、ヒスイと同じような絶望を味あわされていたのかと、不思議な仲間意識が芽生えた。
聖女の件もそうだが、教会は聖属性の人間が集まっていると思えないくらい闇深い。
「そういうわけで、俺の方が記憶に関しては詳しい。聖女の記憶は俺がどうにかするから、お前がゴルシェンを倒してくれないか? 俺はココの顔をしたゴルシェンに攻撃することは出来ないからな」
「……元よりそのつもりだよ。俺には記憶の戻し方なんて分かんねーから前教皇をぶん殴って聞くつもりだった」
「頼むから体に傷はつけないでくれよ……ってそれは難しいか……俺が治せる範囲で頼む。あくまでも降伏させたらいいんだからな」
「殿下って実際どの程度の聖魔法の使い手なの?」
「体が五割残っていれば治せる」
「まじ……?」
やはり実力を隠していたわけか。ヒスイがゲっと顔を顰めると、カネルが「君も大概だよ」と肩をすくめた。
「決行日は追って連絡する。俺とカネルは、ココを保護して聖女の記憶が保管されている場所を探す。お前はベルガモット嬢と一緒にゴツシェンを倒す。いいな?」
こんなに心強い味方がとんとん拍子で湧いてくるとは思っていなかった。それだけ教会を恨む人が多いということなのだろう。ヒスイは「ああ」と力強く頷き、殿下の目を見る。
「絶対に前教皇を倒す。教会の悪事を全て止める」
「フッ。天下の大犯罪者、聖女誘拐犯が一転してヒーローになる日が来たらいいな」
真面目に言ったのに殿下に鼻で笑われ、ヒスイは改めて自分の状況を思い出す。
「……コレ、しくじったら極刑コース?」
「そりゃーね。まあ、大丈夫。そうなる時はクラシス様も小生も一緒だから」
「うへえ……野郎三人仲良く首並べてもねえ……」
「ああでも――」
カネルが流し目を向ける。
「三人だけじゃないんだよ。君はベルガモット嬢にもっと感謝した方がいい。決行日に護衛につく聖騎士は味方になるよう調整してくれるそうだ」
「は!? まじで!?」
「なんたったって彼女の父親は聖騎士総帥。しかもあの最強の聖騎士、メルル聖竜騎士も味方につけたらしい。彼女はベルガモット嬢の上長だからね」
ヒスイは口を開けたまま固まる。ベルガモットがそこまでしてくれているなんて全然知らなかった。
「あいつにとっても兄の仇だからな……」とヒスイがユーベルを思い浮かべていると、今度は殿下が口を開いた。
「いや、レノンという男はあれから姿を消した。もっとも、前教皇のための記憶操作の実験体として聖属性の子供を操って攫っていたようだから、前教皇が仇といってもいいのだけれど、ほとんどヒスイのためだと思うぞ」
「小生も殿下と色々調べてなければ、とんでもなく怪しい君のことなんて絶対に切り捨てていたし、本当に彼女には礼を尽くすべじゃないかな」
「……言われなくともベルガモットには礼を言う。って今なんて?」
「ごめんごめん! 流石に小生も我が身可愛いからさ」
「それもムカつくが、お前の言葉じゃなくて殿下のだよ。前教皇の指示でユーベルはあんなことになったってことかよ」
「ああ、そうだね。全ての黒幕はゴルシェンさ」
ゴルシェン……。ヒスイはシワクチャな老人の顔を思い出す。聖女もユーベルも前教皇の被害者――前教皇がいなければみんな幸せになれていた。
ベルガモットを通して決行日を知らせることになり三人は別れた。あと数日で剣術をあの頃以上に仕上げなくてはならない。




