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「気が変わった」
レノンが大きなため息をつくとともに、左手をチョチョイと動かしてヒスイを椅子に座らせる。
やはりリンクが切れてなかったか!? と身構えたが、無理に座らせられたわけでもなくどこにも痛みはない。
ヒスイは「何……を? は? どういうこと?」と訳もわからずレノンを見つめる。
「私はこの件から手を引くことにしました。ていうかすっごく後悔してます。貴方、私と最初に会った時は闇魔法そんなに得意じゃなかったですよね?」
「は? いきなりなんだよ。答えるわけねーだろ」
「私が思に、貴方に遠隔マーキングした時――ああ、えっと傀儡操法の前処理のもやのこと。あの時から闇魔法がなんたるか理解できるようになったんじゃないですか? ――ふーんやっぱりそうなんだ」
ヒスイの表情があまりにも分かりやすかったのか勝手に納得したレノンは、頬杖をついて完全に戦う気を無くしている。
「お前が今更後悔しようとカンケーねえ……」
「ん?」
「カンケーねーんだよ!! ユーベルは! カレンは! 行方不明になった生徒たちは! お前に襲われた聖女は……俺はお前を許せない」
ヒスイはギリギリと歯を噛み締める。
あまりの形相にヒスイがもう一度同じことをやってくることを察知したレノンは慌てて口を開いた。
「待って! ヒスイは聖女の方に行くべきですよ。私とそうこうしている間にもう始まってしまったかも」
聖女という単語を出した途端血走った目で見つめてくるヒスイに、レノンは興味を引けたと口の端を釣り上げる。
「今夜、命を貯めるって教皇が話していた。勝手に死に際の人間を蘇生したのが気に入らなかったみたいで満タンまで入れるんだってさ」
「――だからなんだよ」
「あれ? 知らないんですか?」
「あんなの何度も続けたら体がもたないに決まってるじゃないですか」
「もた、ない……?」
「ええ。老けた聖女見たことありますか? ないでしょう? 引退した聖女は? ないですよね。みんな二十年もせずに天界に帰るらしいですからね。天界は天界でも死後の天国……なんちゃって」
ふざけたことを言うレノンの態度が気にならないくらい、ヒスイは動揺していた。
信じたくない話だが、よくよく考えれば確かに体が耐えられるわけもない。聖女は一番大切なことを隠していたのかと唇を噛み締める。
「今代の聖女様は十二年目か。あと五年も持ったらいい方かもしれませんね」
指を鳴らして異界を解除したレノンがヒスイへ剣を差し出す。
「早く行ったらどうなんです?」
すでに体の硬直が解けていた。
差し出されるまま剣を受け取り、ヒスイはどうすべきなのかぐるぐると考える。
こいつは絶対に倒したい――が、これ以上聖女に命の器の役目をさせるわけにはいかねえ……くっそ、そもそもこいつの言うことを信じていいのか!? 今夜命を入れると言って俺を遠ざけたいだけなんじゃ――。
いや、そんなことをしなくても戦えばこいつは俺に楽に勝てる。
ヒスイは顔をゆっくりあげる。剣をギリギリと握りしめて口を開いた。
「お前のことは絶対に許さない」
「いいですよ。少し寂しいですけどその方がまた会ってくれそうですし」
ヒスイは索敵魔法で聖女の居場所を探ると聖女塔へ勢いよく駆け出した。




