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 ガギィィィィィィン!!!!


 剣が激しい火花を散らしてぶつかり合う。

 人を傷つけてしまわないか不安でたまらなかった剣も、はなから殺すつもりなら容赦なく振れた。


 戦いは互角、いやむしろヒスイの方に分があった。

 レノンの長髪が宙になびき、ひと房が地に落ちる。何度目かの撃ち合いの後レノンが口を開いた。


「……この剣筋、私知ってるな――ああ、なるほど……」

 額に青筋を立てたレノンが大きく剣を弾いて距離を取る。


「ヒスイ君っていつも私の邪魔をするよね。あの時のガキも貴方でしょう?」


「今更気づいたのかよ!!!」

 ヒスイは叫びながら剣を振り上げる。


「妙に長引くから変だと思ったんですよ……貴方当時剣術の天才って言われてたじゃないですか。もっと早く気づいたら剣術には付き合わなかった」


 突如出現した黒い棘にヒスイは慌てて体を捻る。


 くっそ、魔法を出されたら近づけねぇ!!


 ヒスイは教会内をめいいっぱい走り回って攻撃を避ける。

 椅子の裏に隠れようとしたら椅子を消され、レノンの異界の中だったことを思い出す。舌打ちをしたヒスイは再び走り出す。なんとか近づこうとするも全然前へ進めなかった。


 そうこうしているうちに黒い棘の雨に気を取られていたヒスイを黒いモヤが包み込んだ。


 ――しまっ!?


 一瞬意識を失いそうになるもグッと堪える。

 思いっきりかぶってしまったが、状態に変化は見られない。

 不思議に思ったヒスイはレノンを見やる。


「それ、あの時……ああ、貴方が学生の時の方ね。その時に貴方にかけたやつと同じだよ。やっぱり耐性があるんだね、なんでかな。まあ、流石に直接かけたら繋がったんだけど」


「……? 何が言いたい」



「つまり私の勝ち――ってこと」



 レノンはゆったりとした歩みで教壇へ寄ると、不敬にもどっしりと座って足を組んだ。

 左手を前へ突き出し指を幽霊のように垂らす。それをヒスイが手印だと気づいた時にはもう遅かった。

 レノンは男のくせに艶やかな唇をひと舐めすると――


「傀儡操法――私の愛しい人形マイディアマリオネット」 


 愛しむかのような穏やかな声でそう言い、突き出した左手の指をまるで何かを操作するようにバラバラに動かした。


「っつ!?」


 ヒスイは驚きで声を漏らす。

 いつの間にか両手を後ろに回していた。無理に締め上げられた肩が痛い。剣がヒスイの手から滑り落ちて無機質な音を立てる。


 ――行動を操られている!? 分かっていたのに油断した!!


 力任せに腕を前に戻そうとするもビクともせず、ヒスイはキッとレノンを睨みつけた。


「流石に心までは無理か……。お人形に心はいらないんだけどなあ……。おまけに顔まで動くみたいですし」


 レノンが左手を招くようにクイっと動かすとヒスイは見る見るうちに引き寄せられた。

 足がもつれて転け、膝をついた形で滑るようにレノンの足元へ辿り着く。


「くっそ!! なんだよこれ!! 死ね!! こんな人の心を踏みにじるような魔法!!」


「黙って?」


 レノンは喚くヒスイの顎に剣を差し込むと、自分の方を見上げさせるように固定した。

 後数ミリでも押し込まれたらアウトだ。

 唾を飲んだ際の上下でヒスイの喉から血が一筋流れる。

 

 ――レノンの手がピクリとでも動けば俺は剣に自ら首を捩じ込むことになる……。


 クイっと引かれたままの左手の指が徐々に丸め込まれるのを想像してヒスイは顔を青くする。背中に冷たい汗が流れた。


 とにかく体が動かないのをなんとかしなければとヒスイは動く箇所を確認する。


 ――目は動くな。口は……動くだろうけど今は剣が怖くて動かせねえ。他は――。


 手が動く。


 それに気づいたのは僥倖だった。手さえ動けば手印が組める。ヒスイは背中の後ろでレノンにバレぬよう手の感覚を確かめる。


 結局あまり練習出来なかった聖属性魔法を使う気にはなれなかった。

 ヒスイが真価を発揮するのはやはり闇魔法――。


 闇魔法の練習も、もちろんしたことがない。だが今、ここでやらなければならなかった。

 ヒスイは一か八か覚悟を決めて拳を握る。手のひらにはじんわり汗が滲んでいた。


 『魔法は気持ち』『手印も詠唱も変えていいんだよ?』などのマリナの声が頭に浮かび、ヒスイは自分が思まま、これだという詠唱を言うべく、喉を動かさないように薄く口を開けた。


 ヒスイの目に光が宿る――。



「どけろ」



 詠唱と共にヒスイは右手を何か紐を引っ張っているかのように動かした。


 レノンの右手が真横に吹っ飛び、剣もすっぽ抜ける。

 勢いよく動きすぎて肩が脱臼したのか、レノンが苦悶の表情を浮かべ左手で肩を押さえる。

 そのおかげで手印が解除されヒスイの体の自由が戻った。

 

 肩をはめたレノンは目を丸くして唇を振るわせる。


「ヒスイ、今……私と同じ魔法を使った?」


「ああ、俺が身近で見たことがある闇魔法なんてレノンの以外ないからな」


 レノンの真似をして、レノンを操って剣をどかしたのだ。

 詠唱があまりにもそっけなさすぎるかと思ったが、無事に成功したので自分の直感を信じて良かった。


 成功したと言っても、レノンの体を動かせたのはほんの一瞬に過ぎない。

 おそらく継続して操るにはレノンが最初に打ってきたモヤのような魔法が必要なのだろう。

 これ以上動かせないがとにかくピンチから脱出することは出来たので良しとする。


 お互い剣は遠くに落ちたまま。ヒスイがどう拾おうか画策していた時――。



「気が変わった」




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