28
「クラシス様とヒスイが一緒に小生の店に来るなんて、いよいよ大詰めって感じだねぇ〜」
酒に匂いが充満した空間、応接用のソファーに三人で腰掛ける。未だにカネルの店に住み込んでいるカレンが飲み物を配ったが、ちゃんとしたお茶だというのに誰も手をつけない。
「白状すると小生は思いっきり国王派――いや、第六王子派かな」
「そんな派閥はない」
殿下が落ち着いた声音で制すとカネルは肩をすくめて笑った。
何が、猫をかぶっているね、だ。猫をかぶっているのはお前じゃないかとヒスイは心中で呟く。
「初めに断っておくけど、小生たちは君の敵ではないよ。この間君を襲ったやつとはなんの関わりもないし、聖女様を襲おうとも思っていない。そもそも君を襲ったのは国王派じゃなくて教会の人間じゃないかな」
「……ああ、信じるよ」
「種明かしをすると、君に聖女のことを調べるように依頼される前から、クラシス様の依頼で色々調べていたからあんなに早く村の情報を調べられたってわけさ。凄腕の情報屋だと思われたままでいたかったが……嘘をつくのは心苦しいのでね」
嘘はつかなくとも意図的に話さないでいたくせに何を言ってるんだと、ヒスイは呆れてカネルを見やる。
「どうでもいい話は後でしろ。カネル、ヒスイが俺のそばにいつもいたというレノンという男がいる」
「ふーん、それで?」
「その男はヒスイ意外には見えていない。そしてその男の特徴なんだが――カレン殿の言っていた男と一致する」
「カレンが言っていた男……?」
ヒスイは驚愕で目を見開く。そこから導き出される結論はただ一つ――。
「あぁ、そう……なるほど。その男が犯人なんだね」
目の前が真っ暗になった。それから何を話したかはよく覚えていない。気づいたら無我夢中で走っていた。
*
「なんだヒスイか、どうしたんです、こんな夜遅くに」
夜の教会、窓から差し込む月明かりが振り返ったレノンの顔を照らす。
「よく私がここにいるって分かったね?」
「ああ、最近話せてなかったから探したんだ。今ならレノンも自由だろ? お前、人がいるところじゃ話さないから」
「私は、ヒスイと違って真面目なんですよ。おしゃべりしながら殿下をお守りすることは出来ない」
「あのなー俺も真面目だよ」
「確かにそうだね」
レノンは優しく微笑み椅子を勧める。
「そういえばこの間、私来ないほうがいいって言ったのに来てましたよね」
「悪かったよ。でもパレードに行かない選択肢は普通にないだろ」
「本当に危ないんですよ? 今何がどう動くか分かんないんだから」
レノンは小さくため息をつくと、未だに立ったままのヒスイに体ごと向き直った。
「そうだ聞いてください。私のあの華麗なる対応がなかったことにされたんですよ。騒ぎは初めから起こってないことにされて、私への労いもなし。嫌になっちゃいますねほんと」
「レノンって意外とちゃんと護衛してたんだな」
「どういう意味です〜? それ」
「良い意味。あの爆弾さ、どう処理したんだ?」
「元から対策は用意してあったんだよ。それに入れただけです」
「下に投げてなかった? 下にあったんだ?」
「そうですが……なんか今日のヒスイ変じゃないですか?」
「そんなことないさ。夜だからじゃないか?」
ヒスイは一歩二歩とレノンに近づく。寮の手には自室から持ち出した剣があった。忌避感も震えも抑え込んで強く握る。
足元を見ていたヒスイが暗く沈んだ瞳をゆっくりとあげる。
「あの爆弾さ、影の中に入れたんだろ?」
「影? 私も一応神官だから聖魔法属性なんですが……?」
その時、月を覆う雲が流れ、暗かった教会内が照らされる。
ヒスイの顔をやっとまともに見たレノンはその視線をヒスイの手元に下げた。
「……あれ? なんだ、そういうこと?」
半笑いを浮かべてレノンは立ち上がる。
「目が良すぎるもの考えものですよね、見えすぎるとかえって区別がつきにくいらしい」
レノンは片手をあげて指を鳴らす。
空が異様な暗さに書き変わっていき、レノンの異界に包まれたのはすぐに分かった。
レノンがあの犯人だと目の当たりにしたヒスイは絶望にうちひしがれる。
「お前、何者なんだ」
「教皇の側近とでも言っておきましょうか。クラシスを監視していたら貴方がこっちを見ているんですよ? おかげさまで訳のわからない演技をする羽目に」
「最初から全部……俺のことを騙そうと思って近づいたのか?」
「女々しいこと聞くなよ」
レノンは相変わらずヒスイと世間話をしているかのような笑みを浮かべながら影から剣を取り出す。
「どうでも良いだろそんなこと。これから死ぬんだから――」




