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視界が光でチカチカする。
至る所で光魔法や回復魔法が飛び交い、暗くなり始めた修練場を明るく照らす。
終業後にヒスイとマリナは教会の敷地内にある修練場に来ていた。
ずっと筆記で引っかかっているヒスイにマリナは座学を勧めたが、正直毎回手を抜いていただけなので座学は間に合っている。
「詠唱で補強しても弱いね」
「……随分はっきりおっしゃいますね」
マリナはほとんど初めて見たヒスイの聖攻撃魔法、光線の貧弱さに疑問を抱かずにはいられないようで、ずっと顎に手を当てて首を傾げていた。
「うーん。魔力効率が悪いのかな……」
殆ど正解を言うマリナにヒスイは心の中でその通りですと苦笑する。
准二級神官試験は、回復魔法だけだった三級とは違って攻撃魔法も見られるから困るのだ。
回復魔法の方は毎日業務で使うのでそれなりのものになっているが、攻撃魔法なんて学院を中退するまでの一年ちょっとしか練習してなかったので、見ただけで違和感がつきまとう。
これをなんとかあと一ヶ月で、『ちょっと弱いけどまあこんな人もいるか』と思ってもらえるレベルまで引き上げなければならないわけだ。
無謀でもやれるだけやってみようとヒスイはマリナにコツを問いかける。
「気持ち」
「……ずっこけてもいいですか?」
ヒスイの反応を見たマリナは不思議そうに首を傾げながら「これ本当だよ」と言った。
「ヒスイの詠唱、基本から変えてないよね。手印も」
「ええ。そうですが」
「気持ちが乗りにくいなら変えてもいいんだよ。私はこうだし」
マリナはそう言うと、右手で右目を覆い隠すようにして人差し指と中指の間から目を出した。まっすぐ的を見据えて口を開く。
「世界を割く閃光、我が元へ現界せよ――聖なる光線!!」
まるで瞳からでたかのような光線が的を穿つ。
ヒスイのものとは比べ物にならない光線に的は大破し、周囲がざわめく。
ヒスイの方を見たマリナがむふと口元を緩めて「どうよ?」とドヤった。
一般的な手印は聖女がやっているような両手を組むものだが、マリナの手印は相当変わっている。
それは詠唱も同じで、ただ『ホーリーレイ』といえばいいものを相当カッコつけられている。見ているだけで恥ずかしい。
「……この方がマリナ上長は気持ちが乗ると?」
「うん。カッコイイ方が気持ちが入る」
「意外な一面が見れた気がします」
あれはヒスイには真似出来ないと渋い顔をしていたら、快活な声がヒスイたちに降りかかった。
「ははは! これは凄い! 気持ち、うん気持ちこそ全てだな!」
「クラシス殿下」
煌めく金色の髪をポニーテールにした殿下が颯爽と歩いてくる。
ヒスイは無意識にレノンを探したが珍しく一緒にいないようだった。
「魔法は確かに気持ちだ! 自分の心に素直になって解き放たないと威力は出ないぞ。その点を鑑みるに――」
殿下はヒスイの顔を観察するように見つめるとニカっと笑って言う。
「ヒスイ君は猫をかぶっているだろう?」
声を出さなかったのを褒めてやりたい。
ヒスイはなんとか平然を装って「どういう意味でしょうか?」と問い返す。
「そのままの意味さ! ヒスイ君は元来もっと粗野な性格と見た! 祈るなんて柄じゃないだろう? 僕の第六感がそう告げている!」
なんで分かんだよ!! すげーな第六感!!
そのでかい声でこれ以上余計なことを言うんじゃないとヒスイが殿下の目を見たら、殿下はウインクで返してきた。
水色に光る瞳は透明度が高くいかにも優しい王子様らしいが、こっちは全く透明なんかではないので見透かさないでいただきたい。
ヒスイが苦笑いを返していると、マリナが不思議そうに「猫……?」と呟く。
電波系二人を相手にしていられない。
鈍感な電波系ならまだしも、勘の鋭い電波系とは絶対に相性が悪い。
どう追い返そうかと頭を捻っていると、電波二人が勝手にヒスイの手印について相談し始めた。
「殿下こんな感じはどうでしょうか?」
マリナが右手の人差し指と中指を重ねたようなポーズをとる。
「うん! いいじゃないか! 攻撃的でヒスイ君にぴったりだ! 銃のようでカッコイイしな!」
銃――殿下の口から出たその単語にヒスイはピシリと固まる。
「銃……? ですか?」
「最新の魔法いらずの火器がこんな形をしているんだ。な! ヒスイ君」
ヒスイはギョッと目を見開いた。
なぜ自分に話を振ってきたと訝しまずにはいられない。
どう答えるのが正解か分からず、ヒスイは「ええ……いや、はい」とどっちにでも取れるように返事をした。
「あれ、おかしいなー! 男子たるもの、新武器はチェックしているものかと思ってたが違ったか! そういえばこれ上層部しか知らない情報だったかもしれないな! あっははは! 聞かなかったことにしてくれ!」
殿下はヒスイの肩をバシバシと叩く。
これはどっちだ? 何か探りを入れにきたのか、それともただのアホか。ヒスイは慎重に殿下の顔色を伺ったが、眩い笑顔が覆い隠して何も読み取れない。
――ダメだ……全然分かんねー。
とにかくもう追い返してしまおうとヒスイは口を開く。
「従者の方を置いてきていいんですか? きっと探していると思いますよ」
「ん? 私に従者などいないが?」
「……え?」
周囲の音が一気に引く。他人の読み上げる詠唱の声も、的を穿つ魔法の音も、何も聞こえない。
「僕は第六王子だし、大した才もないからな。僕に従者をつけるくらいなら優秀な兄弟の従者を一人増やすだろうな! 有り体に言ってしまえば、僕は教会に差し出された人質で大した価値もないってわけさ」
固まったまま何も言わないヒスイに代わって、マリナがフォローを入れるのを呆然と聞き流す。
やっと我に返ったヒスイは殿下に詰め寄った。
「いるだろ!! ……でしょう。レノンっていう……いますよね?」
様子のおかしいヒスイに、殿下は困ったように眉を下げてマリナの方を見た。マリナが口を開く。
「ヒスイどうしたの? レノンって前も言ってたけど、私その人知らない。誰?」
「知らないって……いつも殿下の側にいる……紫紺の長髪ストレートで左目に泣きぼくろがある柔和な顔つきの男……」
レノンの特徴を言った途端、殿下の顔つきが変わった。
「ヒスイ君、場所を変えようか」




