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先に教会裏の待ち合わせ場所に着いたヒスイはいつぞやのようにしゃがみ込んでこっそりタバコの火をつけた。あの時のような間抜けなことにならないよう周囲は地下に至るまで索敵済みだ。
あの後、カネルに銃について問いただすと拾ったと答えた。
写真を渡してきたカネルが写真を奪おうとした国王派と繋がっているとは到底思えないので本当に拾っただけなのだろうが、胡散臭いカネルのことだ、本当のところは分からない。
それでも頼れる人なんて今のヒスイたちにはいないので、カネルに追加で国王派革命軍についての情報を依頼し、カレンを預けて解散した。
何を言ってもすぐに理解した様子だったのでことのあらましは大体知っていたのだろう。
「ふぅーーーー」
ヒスイは夜空へと煙を吐く。
昨夜命懸けの戦いをした後からずっと憂鬱な気分が晴れない。正直精神的に相当参っていた。
ユーベルの死はヒスイの人生を変えた。まだ全然乗り越えられていない。
それはひとえにあの事件に謎を残したまま蓋をしたから――。
公爵家の嫡男が何者かに操られたなんてスキャンダル、世間に知れ渡れば大々的に調査が入っただろう。
だがヒスイはユーベルの名誉を選んだのだ。
連続失踪事件の方はそれなりに力を入れて調べられていたが、結局未解決のまま自然消滅し、犯人を辿る手立てがなくなった。
あの犯人はまだ同じことを繰り返している――今度こそ逃してはならない。
まずは操っている魔法行使者本人を見つけなくてはならない。
そんなことをグルグル考えてヒスイは大きなため息をつく。
いつの間にか短くなっていたタバコに気がついて脳死で地面に擦り付けた。
「あ、やっべ!」
地面に擦り付けたら喫煙がバレるじゃないかとヒスイは慌てて黒ずんだ地面を擦る。
その時に初めて散乱しているタバコの吸い殻が目に入り、今のタバコが一本めじゃないことに気がついた。
――あれ、どれだけ時間が経ったんだ……?
ヒスイはすくりと立ち上がる。
隠し地下通路の出入り口を凝視するも、聖女の気配は感じられなかった。
今日ちょっと遅いなとヒスイは首を傾げる。
いつも時間をしっかり決めているわけではないが、張り切った聖女が大体この時間くらいに来るのでヒスイも合わせて来ていた。
昨日の今日で外出自体が怖くなって尻込みしているのかもしれない。まあ、もう少し待ってみるかとヒスイは再び座って空を見上げた。
いくら待っても聖女は現れなかった。
*
「大丈夫ヒスイ?」
「……え?」
突然かかった声に慌てて意識を戻すと、マリナが「隈」と言って自身の目元を指さして首をコテンと倒す。
「ああ、ええ。大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
ヒスイはメガネをとって目元を擦ると笑みをつくる。
仕事中に寝るだなんて、マリナ以外にバレていたら大目玉をくらっただろう。マリナでよかったとヒスイは安堵の息を吐く。
「寝てないの?」
「まあ……」
聖女に会えなくなって三日が経った。
聖女を攫おうとしている輩がいることは教会の人間も知っているのだから、警備が強まったのかもしれない。
それに、もしかしたら聖女の力を使ったことがバレて知らぬまに聖女が出かけていることも気づかれてしまったのかもしれない。
バレたとしても秘密の地下通路さえバレなければ問題ないと思っていたが、ベッタリ張り付いて警護されていたとしたら抜け出すのは無理だろうなと思い至ったヒスイが、索敵魔法を行使するも、聖女の部屋には聖女本人しかいなかった。
今までの警護と何も変わらない、部屋の外に聖騎士が二人――。
聖女は自分の意思で部屋にこもっている。
おそらくこれ以上迷惑はかけられないとかそんな理由なのだろう。
あれだけどうフェードアウトするか悩んでいたというのにいざ会えなくなると気に食わなかった。
ヒスイはここ三日、無駄だと分かっていても連夜あの場所に腰を下ろして星を見上げる羽目になっていた。
優等生の神官ヒスイが夜更かしをする正当な理由なんてあるのかと思考を巡らしていると、マリナが「頑張ってるんだね」とヒスイの頭を撫でてきた。
不思議そうな顔をしたヒスイにマリナは続けて言う。
「あと、三十五日」
あっ、とヒスイはわずかに目を瞬く。
試験だ。マリナはヒスイが試験勉強をしていて寝不足になっていると勘違いしているらしく、ヒスイはそれに乗っかって適当に相槌を打った。
「進級出来れば、聖女様から直接お言葉がいただけるもんね、あの距離で会えるのが進級式の醍醐味……」
そうだ! 聖女に合法的に会えるじゃねーか! 会って、いいから何も気にせず来いと伝えられたら――。
ヒスイの判断は早かった。
「実は一人で勉強するのも限界で。マリナ上長、今日からご指導お願い出来ますでしょうか?」




