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「え? 何それ?」
「だから、教皇派と国王派で今国内がバチバチで、テロリストどもがお前を狙っているかもしれないって話。昨日のパレードも危なかったんだぞマジで」
ヒスイは昨日聞き齧った話をさも自分が詳しいかのように語る。
降臨祭の日はどこの店も開いていないのでその日は夜遊びもお休みした。一日明けても大きなニュースになっていないので、昨日のあの出来事は秘密裏に沈静化出来たのだろう。
ジュスタンの店に次々と入って商品を眺めていた聖女が振り返る。
「それでなんで私が狙われるのよ? 国王派にとっても私は超重要でしょう?」
「自分達でほんの少し聖女様を傷つけて、やーい、お前ら聖女様を守れなかった無能〜って聖女の預かりを国王管轄にする算段なんだろ。あいつらは裏側を知らねーから、お前の怪我はすぐ治ると思ってるし下手したら何しても死なねーと思ってる」
「私だって命のストックがない時は死ぬよね。人間だもの」
「そうだな、人間だもんな――んで、お前なんでショッピングしてんの? 金持ってんの?」
「ヒスイが持ってるもん」
でしょうねとヒスイはため息をつく。
先ほどから聖女が真剣に眺めているのはアクセサリーの類で、ヒスイに買ってもらうつもりなのは予想がついていた。
「いいじゃないの! 降臨祭ってつまり私の誕生日なんだから。――本当の誕生日じゃないと思うけど……」
聖女は言葉尻を濁して俯く。
――聖女にならされた日がおめでたいわけがないわな……。
ヒスイは聖女の頭を大袈裟に撫でて言う。
「いつかちゃんと本当の誕生日を祝ってやるよ」
聖女は瞬かせた後、パーっと顔色を良くして何度も頷いた。
「うん! うん! 絶対だよヒスイ! やりたいことにそれも追加で!」
「おう、分かったから。んでどれがいーの?」
「え! いいの?」
「誕プレだからな」
聖女はいくつかのネックレスを首に当ててヒスイに見せてきた。
ヒスイが似合うと思うやつにすると言われ、ヒスイはトップが小花のような形になっているネックレスを選んだ。
購入した後すぐに付けてやると、聖女はご機嫌が限界突破したようでずっとニマニマと表情を緩めていた。
単純なやつ。
そう心の中で言いながらも、ヒスイの表情も緩んでいるのだから単純なのはお互い様だろう。
飲み会終わりの集団を避けるために小道に入ったところで聖女が「ぼーっとしてどうしたの?」とヒスイを見上げた。
ヒスイは「いや……」と煮え切らない返事を返す。
聖女と誕生日の話になって思いついたことがあったのだ。
ヒスイは例の村の集合写真を取り出す。
「お前の誕生日だけどこの小ささなら写真を撮った時期さえ分かればある程度絞れるんじゃ……」
「あれぇ? ヒスイじゃん!」
ヒスイが写真に目を落としていると突如横から声が掛かった。
聖女は肩を跳ねさせヒスイの後ろへ隠れ、ヒスイも即座に聖女に気配遮断をかける。
聖女との時間を邪魔するのは誰かと思えば、カレンだ。
ジュスタン皆勤賞なのではないかというくらいカレンにはよく会う。
今日もバッチリメイクで、ラメが散った瞼が煌めいている。
ヒスイが適当にどっかにいくよう促そうとすると、カレンは派手な爪しか目に入ってこない手でヒスイの肩を叩くと写真を覗き込んきた。
「へえ〜これ南地区の方でしょう? 誰の写真なの?」
ヒスイは目を見張る。
確かにこれは南方にあったトボソ村の写真だ。
ヒスイがなんでそう思うのか尋ねると、カレンは「だって、ほらここ。シシの実がなってる。南の名産だよ? 何を隠そう、あたしも南地区出身なんだよね〜」とヒスイを見上げた。
「この実っていつなるんだ?」
「ん〜秋ごろだったよ! これはまだ熟れてないから八月かもしれないけど」
ビンゴだ。
ということは聖女は初夏ごろに生まれた可能性が高い。
ヒスイは高揚して後ろにいる聖女を小突くと、聖女も背中をトンと叩いて返してきた。
「あたしが小さい時、南で蔓延病が大流行して、それでシシの実も危ないとか風評被害を受けちゃってすごい大変だったんだよね〜あたしの街は無事だったんだけど」
街と言われ、ヒスイはカネルが見せてきた地図を思い出す。
トボソ村の上の方に中規模な街があった気がする。
ヒスイは藁にもすがる思いでカレンに尋ねた。
「ここ、その蔓延病で廃村になったんだけど、知り合いとか何か心当たりねえ?」
「ん〜お母さんに聞いてみるよ――その写真借りていい?」
カレンは写真に手を伸ばす。
カネルが持ってきたこの写真はおそらくこれは複製写真だが、写真と同様、複製写真を作るのにもそれなりの金がかかる。
またカネルが元写真のところに忍び込めるのかも分からない今、この写真を渡してしまってもいいものかとしぶっていると、はたと違和感が頭を掠めた。
――カレンはなぜ高価な写真を遠慮もせず受け取ろうとしているんだ?
写真を見つけた時のカレンの第一声が頭に蘇る。
『へえ〜これ南地区の方でしょう? 誰の写真なの?』
写真を持っていることに対する反応よりも先に写真の内容に触れるなんてことがあり得るのか。
カレンはヒスイが貴族ということも神官ということも知らない。
ホストかプロのヒモだと思っているはずだ。
普通なら「それって写真だよね!? どうしたの!?」という反応になるのが自然だ。
ヒスイの中に育った疑念が徐々に形を持っていく。
ヒスイはあることを確かめるために、聖女にかけてる魔法を目の認識阻害魔法のみにしてカレンを見る。
カレンの視線は写真から動かない。
「カレン」
「ん? 何?」
「――お前、最初からこいつが見えているな?」
「……ああ、その子ね。私はヒスイと話したいんだから別にその子に話しかけなくってもいいでしょ? もう嫉妬しちゃう!」
「見えるって何って聞かないんだ」
「……」
「――知ってるんだな? 俺の身分も、闇魔法を使うことも」
ヒスイがそう言った途端、カレンの体がカクンと折れる。
そして何かに操られているかのように写真を掴みにきた。
ヒスイは慌てて写真を引っ込める。
「おい、カレン?」
注意深くカレンを観察していたヒスイの目が見開かれる。
ヒスイはこの状態の人間を見たことがある。
「そんな、いや、まさか……」
次にこのカレンもどきが取る行動がヒスイには簡単に想像出来てしまった。
ヒスイは聖女を突き飛ばすようにして身を捩る。
ヒスイが動いた途端、案の定カレンは闇魔法を放ってきていた。
ヒスイと聖女に当たるはずだった闇魔法を肩代わりした壁は黒く澱んでいる。
前回の俺はあんなのに当たったのかとヒスイは青ざめた。
ユーベルの時と同じだ。
――カレンは何者かに操られている。




