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「わーありがとう! ヒスイ大好き!」
聖女がクレープを受け取りながら満面の笑みで言う。
「あのさ、羞恥心はどこやった? 家に忘れてきた?」
「私家ないって」
「そういう屁理屈はいいから……」
聖女は好きとバレただけであれだけ顔を真っ赤にしていたというのに、いつの間にか好きとポンポン口にするようになっていた。
しかも、ほっぺのキスは嵐のように降ってくる。夜遊びを習得した時のように一度で慣れきってしまったらしい。
こんなことまでスポンジのように吸収しなくていいんですけどねと思いながらヒスイはされるがままになっている。
近くにあった椅子に、相変わらず密着して腰を下ろして二人はクレープを食べ始める。
「今日はどこに行くんだ?」
ヒスイがそう尋ねるも聖女は「そうね〜」と口にするだけで全然考えている様子ではない。
ヒスイは妙だなと思いながらもクレープを貪り食う。
「あっ! 待って待って!」
「あん?」
食べようとしたところを止められ、ヒスイは口を開けたまま聖女を見る。
「なんだよ」
「ヒスイのクレープ、チョコレートが入ってて美味しそうだよね! 私のいちごも美味しいわよ〜? やっぱり美味しさは分かち合わなくっちゃ!」
ヒスイのクレープを覗き込んでは、自分のクレープを差し出そうとする聖女を見て、ヒスイは何かを察知した。
「……さてはお前、次にやりたいことは間接キスだな?」
「あら、勘がいいじゃない」
「さっきから何か企んでいると思ったらこれかよ……」
ヒスイはため息をつく。
「あのな、間接キスは下手したら魔力が混じるだろ。唾液がついてるかもしれねーんだから」
「直接じゃなければ大丈夫! 魔力は空気に触れると死滅するの」
「そんな、せ……ゴホンッ。アレみたいな設定なんだ」
なんのことか分かってない聖女は首を傾げ「とにかく大丈夫だから、それ一口頂戴?」とヒスイを急かす。
聖女は一度やると言ったら聞かない。
こうなった以上、適当に終わらせなければならない。
聖女の言うことを半分しか信じていないヒスイは「ほらここを齧れ。その後俺が同じ場所を齧ってやっから」とまだ触れていない綺麗な部分を指す。
これなら聖女にヒスイの魔力が混じる心配はない。
「まあ、それでもいっか」
聖女がヒスイの元へグッと寄る。
ホワイトプラチナの髪が掛らないよう耳へ掛けながら、クレープへ顔を近づける。桃色の唇が小さく開き、下を向いた聖女の髪と同じ色のまつ毛、その間からのぞく虹色の輝きがヒスイをグッと引き寄せた。
聖女がヒスイの指定した箇所を齧り離れていく。
「おいし〜♡ さぁ、ヒスイどうぞ!」
聖女の期待の眼差しに、ヒスイはそっと齧られたクレープに目を向ける。
食べにくい。
ヒスイは今まで間接キスなんて意識したことなかったというのに柄にもなくそんなことを考える。
クラブでは酒の回し飲みは当たり前だったし、なんなら口移しのような馬鹿みたいな飲み方だってしていた。
そもそも普通にキスをしていたのだ。今更間接キスなんかを気にするはずもない。ないのだが、目の前の聖女がこうも固唾を飲んで見守っているとなると話が変わってきた。
「ほらヒ〜ス〜イ! 早く」
「チッたかだか間接キスくらいではしゃぎやがって……」
なんの抵抗にもなっていないが、ヒスイは聖女の齧った跡だけでなく、辺り一体をまるまる齧り取る。
聖女は「キャー! これで間接キスも達成よ!」とひとしきり騒いで満足した後、自分のクレープを食べるのを再開した。
ヒスイも残りを食べ干す。
「ほら、早く食え。行くぞ」
「待ってよ。あ! ヒスイ! ほっぺにクリームがついてるわ!」
ああ、いつものようにほっぺにキスがしたいんだなと、ヒスイは聖女の方を見る。
クレープのクリームがほっぺにつくってどんだけ食うの下手なんだよと自嘲していると、聖女が首を傾けて顔を近づけてきた。
――ん? やけにまっすぐ近づいてこないか?
そう思った時にはもう遅かった。聖女の舌がヒスイの口の端を這いクリームを舐めとる。
唇が触れるだけとは違う感触に、ヒスイは目を見開いて聖女を凝視してしまう。
やられた。
頬にキスの次が間接キスじゃ難易度が下がる気がしていたんだ。
こいつは――こいつは初めから口にキスをするつもりだったんだ!
ヒスイはじっとり聖女を睨め付けながら口を開く。
「……今のはほっぺだったか?」
「捉え方次第ね」
聖女はなんでもないように言うが、その頬は赤に染まっている。
照れを隠しきれていない聖女に、ヒスイは何も突っ込むまいと「じゃあ、うん。ほっぺで」とあしらった。
「あら、じゃあもう一度しないとね」
「は?」
決意のこもった眼光に掴まれてヒスイは動くことが出来なかった。
その隙にあっけなく二人の距離は縮まり、やがてゼロになる。
「――これはちゃんと口ね」
聖女は今までとは違った真剣な眼差しでヒスイを捉えていた。
ヒスイの顔もまた真剣だった。真剣――を通り越して蒼白だった。
「お、おま、おま……魔力――」
「大丈夫よ」
「……大丈夫ってそんなんなんで分かんだよ」
「唇じゃそこまで混ざらないから」
「……本当か? 本当なんだな? 奇跡の回復魔法が使えなくなった感覚とかはないんだな?」
「全然問題ないわ」
「はぁ――生きた心地しないわ」
一番大事なことを確認し終わったヒスイはすっかり緊張を解く。
「……ねえ、そんなことより何か無いの?」
「あん? 何かって?」
ヒスイが眠そうな目を向けると、聖女は真剣だった顔を徐々に赤く染め、下を向いてもじもじしだす。
「わ、私とキスして何もないのって聞いてるの!」
「あ〜キスねえ……」
ヒスイは面倒くさそうに息を吐く。
「まあ、キスくらいで何かって言われてもなあ。キスなんて珍しくもなんともないし」
変な空気にするものかとヒスイはわざと聖女を突き放すように言う。
このまま幻滅してもらって、好きという感情は勘違いだと気づいてもらった方が都合がいい。
「お前に仕方なく付き合ってるだけで、キスする女くらい――」
意気揚々と話し始めたヒスイだったが、そこで言葉を続けられなくなる。
聖女が悲壮な顔で涙を堪えていたからだ。ヒスイはギョッとして聖女の顔を見る。
「おい、何も泣くこたぁないだろ!」
「うっ……だって、ヒスイがああ」
聖女は虹色の瞳に涙を浮かべて鼻を啜る。
「私がヒスイのこと好きって知ってるのに、そんな酷いこと言おうとするから……」
聖女の瞳が細められ、とうとうダムが決壊しそうになる。
虹色の瞳から出る涙までも特別なもののような気がして、ヒスイは慌てて聖女の涙を拭った。
「あーもう、えっと――ドキドキしたよ。うん、ときめいた。お前ほどの美女とキス出来るなんて幸せだって思った」
「ほんと?」
「本当だって!」
明らかにその場しのぎ。
それでもヒスイの言葉ひとつで聖女の機嫌は上を向いた。
「もう、ヒスイったら、嘘ばっかり」聖女は目尻を拭ってヒスイを見上げる。
まるで雨上がりの虹のように晴れやかな笑みを浮かべた聖女は瞳に決意を込めて宣言する。
「――でもいいよ。いつか本当にヒスイをドキドキさせるから」
調子の戻った聖女に安心したヒスイは安堵の息を吐いてタバコを取り出した。
「……勝手にしろよ」
かなり親密になってきた( ^ω^ )
よければ評価よろしくお願いします!




