表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/16

第8話 ラピスの願い

 私の願い。

 それはダンジョンの謎を解き、ダンジョンを作ること!


 報告書通りなら、ダンジョンは人の意思を読む。

 これで『願いを叶えるまで出られないダンジョン攻略』が始まるはずだ!


 ラピスは何が始まるのだろう? ダンジョンを作るという願いを叶えさせるため、ダンジョンの意思はどんな工房を用意してくれるのだろう。ワクワク、ワクワクと、何かが起こるのを待つ。


 ――が、何も起こらない。


「あ、あれ? 口に出したがいいかな……」


「そうかもしれないわね? ラピス、ニヤニヤしてないで願いを言ってみなさいよ」

「そうそう。口にしたら話せるかもしんねぇぞ? ラピスはこのダンジョンの『意思』の正体も知りてぇんだろ?」

 

 使い魔たちの呆れまじりの声に頷き、ラピスは声を張り上げる。

 

「私は願う! ダンジョンの謎を解き、ダンジョンを作ることを!」


《…………》


《…………》


「あの、駄目……?」


 もしかして、ここは本当に『愛が叶うダンジョン』だったのか?

 ラピスの見立ては間違いで、ラピスの願いは場違いなものだったのだろうか。だとしたらダンジョンに悪いことをした。


 そう思った時、しばらく沈黙していたダンジョンの声が聞こえた。


《その願い、叶えてみせよ》


 ダンジョンがそう言葉を発した瞬間、部屋がキラキラと輝き、部屋の中で渦を巻き始めた。


「すごい魔力よ!」

「魔術だぞ、これ!」


 テティとセティが跳び上がり、ラピスの腕にしがみついた。

 使い魔二匹は魔力で歪んでいく空間に、恐ろしさを感じたのかもしれない。


 そして、渦巻き輝く魔力が消えると、そこは見慣れた塔の工房だった。


「……なんで!?」

 

 つい先日、最後の調合をした大鍋に、調査依頼書を置いてきた机がある。それに錬金道具や調合機材が置かれた棚に、書棚も――。


「あれ?」


 見慣れた書棚に本が一冊も入っていない。そういえば壁のスケジュール板はあるが、重ねて貼ってた依頼書が一枚もない。


「ラピス、森よ。ここは王都の塔じゃない」


 いつの間にか窓辺にいたテティの声に、ラピスは振り向いた。

 確かに窓から見える景色は森の中。しかも目の高さに見えるのは木の幹で、地面も見える。


 ラピスの工房は『誓約の塔』の最上階にあった。しかしこの部屋があるのは地上。王都ではない。


「願いを叶えるために、使い慣れた工房を用意してくれたのか」


 なんて気が利くダンジョンなのだろう。

 そして、招き入れた人間の意思どころか、記憶まで読むとは……。

 ラピスは期待以上のダンジョンに、胸をときめかせる。


「お、開いた」


 いつもの窓辺に飛び乗ったセティが、おそるおそる窓に手を掛けた。

 現れた建具や家具は、飾りではなくちゃんと機能するようだ。益々暮らしやすそうでいい。


 さらにセティは、そーっと顔を半分外に出してみた。


「お? 顔が出せたぞ……?」

「あら? この塔、上もあるみたいね。外壁に沿って咲いていた藤の花まであるわ」


 ラピスは二匹の言葉に目を瞬いた。


「他の階も模倣してくれたのかな。というか、外観も『誓約の塔』と同じなんだ!?」


 ラピスたちが入ったのは大岩のダンジョンだったはずだ。

 岩に彫刻された扉に触れ、その中に入ったと思っていたが……。


「ここ、あの岩の中じゃなくて別空間なのかな……?」


 あの大岩は確かに大きかったが、塔と同じ広さがあったかというと疑問だ。空間が拡張されていると見たほうが自然だとラピスは思う。


「空間かぁ……」


 ラピスの唇がニンマリと形を変える。

 空間魔術はラピスの専門だ。ダンジョンには空間魔術が関係していると睨んでの専攻だが、幼かったラピスの予想は当たっていたようだ。


「なあなあ、これ、外にも出られるのか?」

「ちょっと出てみなさいよ、セティ」


 うずうずと尻尾を振りつつ外を窺うセティに、耳を立て目を爛々とさせたテティが言う。

 どうなるか分からなくて自分がやるのは少し怖いが、面白そうだからやってみてほしい! そういう顔だ。


「行ってみるぜっ!」


 セティが意を決して窓から飛び出した。

 ラピスも慌てて窓に駆け寄ると、ドスッという少し重い音がして、セティが地面に足をついたことが分かった。

 

「出られた! 戻ってみるぞ!」


 そう言い跳ぶと、今度は窓際にタタン! 興奮から白い毛並みをブワッと膨らませたセティが戻ってきた。


「アタシたちは外に出られるみたいね、ラピス!」

「うん。嬉しい誤算かも」

 

 言葉を話せる二匹が外に出られるのは助かる。緊急事態でも安心だ。

 

「てことは『願いを叶えるまで出られないダンジョン』のルールが適用されるのは私だけ……?」


 ラピスは毎日見ていたものと同じ扉に手をかけ開けてみる。

 すると、そこは大岩がある森だ。


「外と繋がってるのか」


 塔ならここは、階段ホールに繋がっていた。


「外観は上もあるけど、中身は工房だけか」


 中途半端だが、外観はあるのだ。

 マギアバッグのように中身を広げることもできるかもしれない。


「研究のしがいがあるダンジョンだな! まずは検証……わ」


 試しに足を扉の外に出してみたら、予想通りラピスの足はバチン! と何かに弾かれてしまった。見えない壁があってラピスは出られないようだ。


《願いを叶えなければ、外へは出られない》


「ダンジョンの声だ」

「アタシにも聞こえたわ。このダンジョンの条件は、ラピスだけに適用されているようね」

「オレたちはラピスのおまけ扱いってことか?」


 ちなみにテティが試してみると、扉からも問題なく出入りできた。

 ラピス以外の者は『出られないダンジョン』のルール適用外なのか、使い魔という人外ゆえに例外なのかまでは分からないが。


「なるほどね」


 ラピスは見えない壁を見つめ、またニヤリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ