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第5話 調査依頼を受諾する

「引きこもったまま生活できる……!? なんて便利なダンジョン!!」


「ラピス……」

「ラピス……」


 二匹の猫が残念な子を見る目でラピスを見つめる。


「ん? 便利でしょう? 煩わしい家事や買い物、もしかしたら睡眠すらなしで、ひたすら文献を読み、考察を書き連ね、理論を組み立て、素材を集めて実験ができるじゃない……!」

 

「まぁ、確かに便利ね」

「ああ。確かにラピス向きの物件だよな」


 テティとセティは呆れまじりに笑うが、ラピスはそんな物件があったら本当に入居したいと思ってしまう。


「最高の物件だよ。私ならダンジョンの謎を解き、ダンジョンを作る研究を思う存分したいって願うのに」

  

 しかもその物件はダンジョンそのもの。さらに不思議な効果付きだ。研究のしがいがありすぎる。


「いいなぁ……快適な暮らしができるダンジョンかぁ」


「普通はそうは思わないわよ?」

「出られないんだからな」


「テティ。セティ。私は今だって塔にこもりきりで、たまの休日は嫌々外出して生活のために用事をこなしてる状態だよ? なんの不都合もない」 


 本当に理想的な住まいではないか。

 しかし、ここは『愛が叶うダンジョン』らしい。ラピスの『ダンジョン研究を思う存分したい』なんて願いが受け入れられるわけ――。

 

 ラピスは、はたと気がついた。


「いや。愛が叶うダンジョン……これ、言い換えれば『愛を叶えないと出られない』ダンジョンってことだよね?」


 報告書によれば、ダンジョンに入った二人が聞いたのは、『何を願い、叶えるか』『それを叶えたならば解放しよう』という声。

 ならばこのダンジョンは、正確には『愛が叶うダンジョン』でも、『愛を叶えないと出られないダンジョン』でもない。


『願いを叶えないと出られないダンジョン』だ。


「しかもこのダンジョンは、願いを叶えるため、叶うまでのサポートもしてくれる」


 報告書にあった補足の部分だ。

 

〝補足:ダンジョン内では快適に過ごせたそう。強く念じるだけで、ベッド、水、食事などが出現した。このダンジョンは、願いを叶えさせるための支援をするようだ〟


 少なくとも一晩を過ごすのに困らなかった。


「ちょっとラピス。何を考えているの?」

「悪いこと思いついたって顔してるぞ? ラピス」

 

「人聞きの悪い。いいこと思いついたって言って」


 まったく失礼な使い魔たちだ。

 

「真実は別として、今、このダンジョンは『愛が叶うダンジョン』――愛を叶えるまでは出られないダンジョンだと思われている。それなら、このダンジョンに私が一人で入れば、永遠に出れなくても仕方ないと思われるんじゃない?」


 ニヤリと笑ったラピスの心が躍り出す。


 このダンジョンを発見したのは二人の男女。たまたま互いに想いを寄せつつ煮え切らなかった二人が発見し、ダンジョンに入った。そしてダンジョンから出られなくなり、思いを遂げた。


 ラピスは腐ってもうら若き貴族令嬢なのでハッキリとは言えないが、報告書を読む限り、二人は肉体的に結ばれたのではないか? でないと判定が難しいと思う。


 その前提を踏まえて、もしこのダンジョンに一人きりで入ったならどうなるか。

 一人では()など叶えようがない。相手がいないのだから。


「これ、チャンスでは……?」

 

『ダンジョン研究を思う存分したい』という願いが叶う。


 もっと具体的に言うと、ラピスの願いは『ダンジョンの謎を解き、自分の手でダンジョンを作る』こと。この快適物件ダンジョンでなら、無謀なこの夢を叶えられるかもしれない。


 ラピスは慌てて机に向かうと、報告書に添えられた()()を広げサインをした。


〝『愛が叶うダンジョン』の調査を受諾する〟

 

 ラピスがサインをしたのは、その署名欄だ。

 これはダンジョンの調査依頼書。受諾条件は、宮廷魔術師か宮廷錬金術師。もちろんラピスも当てはまる。不思議なダンジョンということで、おそらく魔術的な解析を期待されているのだろう。


「ちょっと、ラピス!? ダンジョンに行きたい気持ちは分かるけど無茶よ」

「調査に行く暇なんかあんのか!?」

 

 両肩に乗った猫たちに、ラピスはニンマリ笑顔を向けて言う。


「暇なんか作るんだよ」


 新王戴冠式の祝賀行事で、明日から三日間は休日だ。

 その間に出奔してしまえばいい。ダンジョンへ入ってしまったもの勝ちだ。

 

「『出られなくなりました』と言って、こんな場所とはおさらばしてやる!!」


 ラピスの宣言に、テティとセティは顔を見合わせ溜息を吐いた。


「はぁ~ラピスのお馬鹿。本当にそういうダンジョンか分からないのよ?」


 テティが黒い尻尾でラピスの右頬をピシリと打った。地味に痛い。


「だから調査するんでしょ」


 パシッ、パシッ。

 今度は左頬を、セティの白い尻尾が打つ。

 

「ラピス。一人じゃ入れねぇとか、入ったはいいけど、実は本当に色恋が条件のダンジョンで、身動き取れなくなるかもしれねぇぞ?」


「心配しすぎ。何かの制約があるダンジョンは、条件が合わなければそもそも入れない。それにね、テティとセティも一緒に行くんだよ? 万が一、セティの言うように色恋専門ダンジョンだったら、テティとセティがつがえばいいんじゃない?」


 言ってしまった。一応、うら若き貴族令嬢だというのに。


「とんでもないこと言わないで!?」

「とんでもねぇこと言うなよな!?」


 ラピスの両頬に、鋭い尻尾の鞭が飛んだ。

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