第4話 『愛が叶うダンジョン』の噂
『愛が叶うダンジョン』?
ダンジョンを研究しているラピスでも首を傾げる文言だ。意味が分からない。
ダンジョンは危険で、そもそもが意味不明のもの。人の手には余る。
それが魔術や錬金術に関わる者の大方の意見だ。
「何が『愛が叶うダンジョン』なのか……我ながら今回は、非常にくだらない情報しか集まらず不満ですよ」
確かにこれは、くだらないと言われても仕方ないかもしれない。
この文官は嫌味な男ではあるが、ラピスが要望するダンジョン情報を毎回律儀に持ってきてくれる。悪い奴ではない。真面目なのだろうとも思う。
「……ご苦労をおかけしました」
ラピスは文官の男に、労いとも、謝罪とも取れる言葉を向けた。
「ええ、まったく。新しく出来たダンジョンや、変わったダンジョンや、ダンジョントラップの話を集めてほしいなんて、それ自体がくだらないと思っていましたが、ここまでくだらないダンジョンの噂は初めてです。地元ではちょっとした恋人たちのパワースポットになっているそうですよ。本当になんなんでしょうね? そこ。意味が分からない」
「確かに意味は分からないね」
だが、意味は分からないが面白い。ラピスは適当に相槌を打ちながら報告書を読み進める。
「ああ、それと。直接的なダンジョンの情報というわけではありませんがこちらも。ダンジョンから迷い出た可能性があった死霊魔術師が討伐されたそうです」
「え? リッチ? 魔物か……物騒だね」
「ええ。塔から出ないあなたには関係ないでしょうが、国王陛下の戴冠式前に無事、討伐され何よりですよ」
「ええ。そうですね」
間髪いれずそう言うと、文官はムッとし眉をひそめたがラピスはただ微笑む。
おそらくあなたが敬愛し、お仕えする王の命令のせいで、私は塔から出る暇もないのだが? と、口には出せないので笑顔に込めてやった。伝わったようで何よりだ。
「ああ、一応ですが、そのダンジョンの調査依頼が出ています。リッチが出たダンジョンではなく、『愛が叶うダンジョン』のほうです」
「なんだ、そっちか」
リッチがいた疑いのあるダンジョンなら、強い呪いが掛かった何かが見つかるかもと思ったのに。
ラピスはそんなふうにがっかりした。
「そんな危険そうなダンジョンの調査依頼、塔に回ってくるわけがないじゃないですか。討伐した騎士団がとっくに調査に入ってますよ。ほら、王弟殿下の部隊です」
「ああ、魔物討伐隊か。それじゃあ跡形もなさそうだな……残念」
「何が残念なのかは聞きませんが、とにかく情報は渡しましたからね。では、忙しい僕はこれで」
「あ、はい。ごくろ……」
『ご苦労様です』と言い終える前に、文官はさっさと部屋を出ていった。
「相変わらずね、あの文官。それにしてもリッチねぇ……討伐しちゃうなんてやるわね。『黒狼殿下』」
「アレか! ラピスと一緒に、メテオリテ王国宮廷の二大『関わりたくない人物』とか言われてる奴だよな」
テティがラピスの左肩に乗って言い、セティは右肩に乗って「ニャシシ」と笑う。
「私は王弟殿下に会ったことすらないのに、勝手にひとまとめにしないでほしい……」
宮廷のあれこれに疎いラピスだが、『黒狼殿下』の呼び名が良い方向のものでないのは知っている。由来までは知らないが、ラピスの『魔女』と似たり寄ったりなのだろう。
王弟でありながら危険な魔物討伐隊の任に就く者を、感謝こそすれど貶める理由は分からないが。
「リッチの話を聞きたいなぁ。どこにいるんだろうね? 王弟殿下」
「さあなぁ。それよりくだらないって報告書、早く読もうぜ! ラピス」
セティが報告書に手を伸ばす。ちょいちょいと叩いて催促だ。
「セティ、くだらないって言わないでよ」
ラピスはピンクの鼻先を指でつつき、二匹と一緒に報告書を読み始めた。
〝愛が叶うダンジョン〟
〝『境界』の辺境、フィニスの噂。森のある大岩に、ダンジョンがいつの間にかできていた。発見者はフィニスの住人である男女〟
〝岩の表面に彫刻されたような扉があり、触れるとダンジョンの中に入れる。だがダンジョン内には一部屋しかない、行き止まり〟
〝二人曰く、ダンジョンに入った瞬間、|《何を願い、叶えるか》|《それを叶えたならば解放しよう》と、頭の中に謎の声が聞こえ、ダンジョン内に閉じ込められた。そして、お互いのことを思い浮かべた〟
「出られないダンジョンか……」
「全ての魔物を討伐するまで、扉が開かないモンスターハウスや、フロアボスの部屋に似ているわね」
「しっかし解放条件が妙だよな? 願いを叶えるってどういうことだよ?」
ラピスの独り言を補足するように、二匹も呟く。
〝結果から言うと、お互いに思いを寄せていた二人は、ダンジョンの中で結ばれ、翌朝ダンジョンから解放された〟
〝二人が願ったのは、『恋の成就』〟
〝その後、何組かの友達以上恋人未満な二人がダンジョンへ入ったが、毎回同じように閉じ込められ、『願いを叶えたなら解放』という声を聞き、愛を叶えたのだという〟
〝そこから『愛が叶うダンジョン』と呼ばれ、微妙な関係の二人に人気となっている〟
〝補足:ダンジョン内では快適に過ごせたそう。強く念じるだけで、ベッド、水、食事などが出現した。このダンジョンは、願いを叶えさせるための支援をするようだ〟
「引きこもったまま生活できる……!? なんて便利なダンジョン!!」




