第20話 呪い
『誓約の錬金術師』が仕えると誓う、女王はいない。
ラピスのその言葉に、リュカは目を瞬く。
「そんな言葉の綾のようなことが……あるのか?」
「ある。私が王の命令に背いた状態で、ここでこうしているのが証拠だと思いません?」
ラピスは両手を広げ、元気だと笑ってみせる。
「魔術契約は、殿下の言う『言葉の綾』を使って縛るものです。結ぶ契約の一言一句に意味がある。そもそも最初から違和感があったんですよね。縛られた感覚が妙に薄くて……」
ラピスが最初に違和感を覚えたのは、『誓約の錬金術師』の名を継いだ、その瞬間だった。
『死の呪い』にも匹敵する強さとされる契約を受け入れるのだ。契約で縛られる感覚も相当だろう……と思っていたのに、ほとんど変わりがなくてラピスはがっかりしたのだ。
ダンジョンを作るには、強い力を持つ核が必要になる。
その候補が『死の呪い』だ。
それに匹敵すると言われる契約を結ぶことは、ダンジョン研究にも役立つだろう。そんな思いもあり、ラピスはわくわくしながら名を継承したというのに、こんなに弱いとは!? と驚愕した。
これでは『死の呪い』が持つ力も大したことはなく、ダンジョン作りなどできないのではないか?
自身の仮定が間違っているかもしれない。そう思ったラピスは、まずは誓約の違和感の正体を探ることにした。
そして、誓約の錬金術師が誓うのは女王だということに気が付いた。
「私は今も『誓約の錬金術師』ですが、仕える女王のいない野良『誓約の錬金術師』ってとこですね」
「野良……」
「あの……あのぉ、領主様!」
後ろに控えていた町長だ。しばらく黙っていたので、ラピスはその存在を忘れかけていたが、その町長が急に大きな声を出した。
「あのー! 聞こえますでしょうかー!?」
一歩程度しか離れていないというのに、一体なんだ? ラピスだけでなく、リュカも怪訝な顔を見せる。と、セティが白い尻尾でラピスの脚を叩いた。
「ラピス、オレが結界を張ったんだ! 町長にゃあんま聞かせたくない話だったんだろ? えーっと、リュカか?」
「ああ、なるほど。さすが誓約の錬金術師殿の使い魔だな」
リュカが声をひそめたあたりで、セティは町長には声が届かないよう結界を張ったのだ。
町長にしてみれば、突然周囲の音が聞こえなくなり恐ろしかっただろう。今も泣きそうな顔で大声を上げている。
「領主様ー!?」
「あはは、かわいそう」
「結界はリュカが町長に触れてやれば崩れるぞ」
リュカはクスリと笑って、町長の肩をポンと叩いた――が、リュカはその場に膝を突き、倒れた。
「りょ、領主様!? あのっ、錬金術師様!? 何が!!」
「私が聞きたい! 殿下! どうされました!?」
リュカはピクリとも動かない。一体何が起こったのか。
駆け寄ってやりたいが、ラピスはダンジョンに阻まれ扉をくぐることができない。
「ラピス。呪いのせいよ」
トトン、と黒猫のテティが肩に乗り、ラピスの耳元で言った。




