第21話 死の呪い
「呪い……!」
セティが白い体を流線型にして、瞬時にリュカに駆け寄った。
光属性を持つセティは呪いに強い。そして、闇属性の黒猫テティは呪いに親和性が高い。この場で一番、呪いへの理解度が高いのもテティだ。
「テティ、それはどんな……」
「ラピス。さすがにどうかと思うわ?」
見えない壁に張り付きリュカを見つめるラピスを、テティはじとりとした目で見上げた。
人が目の前で倒れたのに、興味が上回るのは如何なものか? と。
「いや、心配はしているけど、ほら、セティが様子を見てるし!」
「ハァ。まぁね。でも、私たちだけじゃ太刀打ちできなそうな呪いよ」
その言葉にラピスは目を瞬き、一体どんな呪いかとリュカを見つめる。
「あ、あの! 私が何かしてしまったのでしょうか!? それともダンジョンのせいでしょうか、精霊様!」
倒れたリュカに駆け寄ったセティに、町長がオロオロと縋る。
領主であり、王弟であるリュカに何かあったら大事だ。
しかもここは町長が案内した怪しげなダンジョンの目の前。リュカを心配する気持ちはあるが、責任問題に発展するのでは……と、気が気でないのだろう。
「ああ、すぐに町から薬師を呼んで……」
「薬師はいらねぇよ。ラピスがいるから大丈夫だ」
「錬金術師様……です、か?」
町長が両眉を下げに下げた、不安げな表情でラピスを振り向いた。
ダンジョンから出てこられない、魔女と呼ばれる魔女で大丈夫か? そんな顔だ。
「町長。強い呪いは周囲にいる者にも降りかかる。殿下はひとまず預かるので、町へ帰り口を噤むことをおすすめするよ」
「ひっ……は、はい。りょ、領主様をよろしくお願いいたします」
町長はラピスに一礼すると、青い顔で森から去っていった。
「あの町長、悪いヤツじゃねぇな」
「そうね。それに引き換えラピスは……言い方が悪すぎるのよ」
わざと脅すようなことを言ったラピスに、使い魔たちは呆れた顔を見せる。
「でも、呪いが周囲に影響を及ぼすのも、王族に対する流言が危険なのも本当でしょう? 町長のためを思ったのに」
解せぬ。
ラピスは言葉は難しいな? とコテリと首を傾げた。
◆
「それで、どう? テティ。セティ」
ラピスは見えない壁に張り付き、リュカを観察する二匹に問いかけた。
使い魔たちは魔力でリュカを塔の入口ギリギリまで運び、仰向けに寝かせ様子を窺っている。
リュカの額には脂汗が滲み、顔色も悪い。しかし呼吸に問題なさそうだ。
今、ラピスの目に映るリュカは、悪夢にうなされ目覚められない、そんな感じに見える。
「そうね……死の匂いがするわ」
呪いを探るテティが呟いた。
「死の呪い……! 呪われたアイテムを持っているの? それとも殿下自身にかけられているの!?」
ラピスは青い瞳を輝かせ言った。
『死の呪い』は、ラピスが探し求める、ダンジョンの核となりうるものだ。
呪物はそれなりの数が存在するが、『死の呪い』となると極端に少なくなる。
神殿で厳重に保管されているか、宝物庫でほこりを被っているか。もしくは持ち主が死に、知らずうちに転売され誰かの手に渡っているか。
探してもなかなか巡り会えないものなのだ。
「ラピスったら本当に……」
「ラピスが友達いないのがよくわかるぜ……」
「今はいいから! で、どうなの? テティ」
「――心臓ね。銀の杭が刺さっているわ。ああ、銀って言っても概念よ?」
「銀の杭!! 強そうな呪いだ……でも銀か。普通、銀って魔除けになったり、光属性を帯びたりするものだけど……どういう呪いなのかな」
「さあ? 詳しくはリュカに聞かないと分からなそうね」
「そうだね。兄が即位したばかりの黒狼殿下が、『境界』の領主になったことも関係しているかな……」
ラピスは目一杯に身を乗り出しリュカを見つめる。
「なあ、ひとまず回復させてやらねぇと! ラピス、なんか強力な回復ポーションをくれ!」
「うん」
セティの言葉に、ラピスはマギアバッグに手を突っ込んだ。この中には、ラピスが作ったありとあらゆる薬が入っている。
だがラピスは、ポーションを探る手をピタリと止めた。
「そういえば、ダンジョンに私の能力を見せなきゃいけないだったか」
塔に変わったこのダンジョンで、ラピスの願いを叶えるには素材がまだ足りない。
採取地に繋がる扉を増やしてほしいのなら、ラピスの能力を見せよと言った。そして、ラピスにその価値があるとダンジョンが認めたなら、望みを叶えると言ったのだ。
「見せるか」
ラピスはローブをひるがえし工房の奥へ向かった。
ちょっと短めですがひとまず更新しました!
そしてお知らせです。
しばらく不定期更新になります。ちょっとスケジュールが詰まってしまい…!
来月中には定期更新を再開する予定です!フォローして続きをお待ちいただければ幸いです。★での応援もありがとうございます!嬉しいです。




