第12話 薬草スライム
「やっぱり! これ、薬草スライムだ!」
ゼリー状の体をよく見ると、キラキラと細かなラメが散っている。
これは凝結した魔力の輝き。『薬草スライム』の特徴だ。
薬草スライムとは、様々な薬草を食べ、薬草の力を体内に取り込んだスライムをそう呼ぶ。体色によって持っている傾向が違い、緑は体力回復系。青は魔力回復系。珍しい紫は、毒を帯びている。
新鮮な薬草スライムは、一匹で薬草百本から数百本分程度が濃縮されている。それだけでもありがたいのに、鍋で煮詰めたものより品質が均一で高め。薬の材料として最高の素材だ。
だが流通している薬草スライムは、ほとんどが乾燥薬草スライム。 乾燥薬草スライムは、ゼリー状のものに比べ品質が低い。ゼリーに含まれていた薬効も、乾燥と一緒に多くが消えてしまう。
「すごい。こんなに新鮮で、魔力たっぷりの薬草スライム初めて見た……!」
ラピスが手に入れることができた薬草スライムは、乾燥したものがほとんどだった。
スライムは、核を破壊されるとすぐに体――スライムゼリーの崩壊が始まる。ゼリーとして使う場合には、すぐに【状態保存】が付与された容器か、マギアバッグに入れる必要がある。
とはいえ【状態保存】付きの容器は安価ではない。【状態保存】付きのマギアバッグはさらに高価なものだ。
冒険者や採取人の多くが持てるのは、【拡張収納】という、大容量になったマギアバッグ。もしくは容量が小さな【状態保存】付きマギアバッグだ。
それに加えて薬草スライムは、魔物のくせに穢れた場所を嫌う不思議な生態をしていて、人里離れた清浄な場所にしかいない。
だから採取地がどこも僻地なうえに、その生息数は少ない。ある程度いい値段が付く素材と言っても、採取用の器材を大量に揃えてまで採取する旨味は少ない。
となると、素材として流通する薬草スライムは乾燥したものが多くなり、新鮮な薬草スライムは貴重品なのだ。
「あっ! 早くマギアバッグにしまわないと……! もったいない!」
「んにゃ? これ、いっぱいいるにゃよ?」
メメルルはきょとんとした顔で、慌てるラピスを不思議そうに見つめた。
「ほら。この辺から先にいっぱいいるにゃ。どこもかしこもキラキラにゃ」
メメルルが指さす先の草むらが、確かに淡く光っている。
「最高だね!? メメルル、スライム狩りしてもいい!?」
「いいにゃよ~」
よしきた快諾だ!
「テティ、セティ、手伝って!」
「任せなさい!」
「任せろ!」
スライムの弱点は炎だが、ゼリーが消滅してしまうので炎は使えない。ゼリーが欲しい時は、先程のメメルルのように核だけを破壊するのが正解だ。
ラピスは杖を持ち、猫二匹は鋭い爪の前脚を掲げた。
ラピスはメメルルが指さしたあたりに魔力で作った魔弾を打ち込み、テティとセティはその鋭い感覚で、草むらに隠れる薬草スライムを見つけ飛びかかる。
「やったわ! 綺麗な緑色よ」
「オレのも! すごい薬草の匂いだな~」
「私のは……すごい! これ青のスライム! 魔力回復系だ!」
王都では手に入れることが難しい素材を、自らの手で採取できる喜び! ああ、堪らない!
「テティ、セティ、狩ったスライムは私のバッグに放り込んで!」
ラピスはマギアバッグを地面に投げ、その口を開けっぱなしにした。
「あにゃ。そんなに欲しいのにゃ? メメルルも狩るにゃ?」
「あ、メメルルはどこに薬草スライムがいるか教えて!」
「お安いご用にゃ~!」
ラピスはメメルルが指さす場所に魔弾を打ち込み、使い魔二匹は草むらに飛び込んでは狩り、そのままマギアバッグに放り込むを繰り返した。
大漁だ!!
「――こんにゃもんかにゃ? もうこの辺に薬草スライムはいにゃいにゃ」
メメルルがヒゲをそよがせ匂いを嗅ぐ。
どうやらケットシーのメメルルは、魔力を匂いで関知するようだ。これは面白い! それに魔力を探るその姿がなんとも可愛い。
耳を立て、背伸びで周囲の匂いを探るメメルルの後ろ姿を、ラピスは幸せな気持ちで眺める。
「それにしてもいっぱい狩ったにゃね? メメルルびっくりしたにゃ」
「うふふ。王都じゃこんな高品質の薬草スライムは手に入らないからね」
ラピスは大量の薬草スライムが入ったバッグを撫でながら歩く。
それに採取のお許しを得るため、ケットシーの郷へ行く途中なのにまた採取をしてしまった。何をしているんだ……とラピスは反省して、ハッと気がついた。
「あっ。ていうか私、狩りすぎ……た?」
採取場でのマナー違反までしてしまったかもしれない。
ラピスの顔から一瞬で笑顔が消えた。
「にゃっにゃっにゃっ、心配いらにゃいにゃ! 増え過ぎちゃってるから、あのくらいじゃ森の薬草スライムは減らにゃいにゃ。本当にウヨウヨいるんにゃよ」
「よかった……」
ラピスはホッと胸をなで下ろした。
それに、まずい行為だったらメメルルが止めていただろう。
「でも、薬草スライムって、森の外では貴重にゃんにゃね?」
「それはもう! ケットシーの郷はいいね。こんな森が近くにあって羨ましい」
「にゃ~……でも、メメルルたちは薬草スライムはあんまり採らにゃいにゃ」
「えっ、どうして?」
メメルルは足を止め、ラピスに向かってバッと両手を伸ばし。手のひらを見せた。
ぷにぷにしていそうなピンクの肉球の手だ。テティやセティより大きくて、ぷにぷに度も高そうでなんとも可愛い。
ラピスにこりと微笑み頷く。
「やっぱり分かるにゃね。メメルルたちのこの手は、人間の錬金術師みたいに器用じゃにゃいにゃ」
「……ああ、なるほど」
ラピスの呟きに、メメルルは「あにゃ?」と首を傾げた。ラピスは手を見て察したのではなかったのか? と思ったからだ。
「すれ違ってるわね」
「ごめんな、メメルル。さっきのラピスの頷きは、『可愛い肉球を見せてくれてありがとう』の頷きだ」
「にゃんにゃ、それ?」
メメルルは縞模様の眉間に少しの皺を寄せ、さらに首を傾げた。




