第10話 採取もできる!!
「あああ、最高……」
ラピスはしゃがみ込み薬草を採取していった。
まずは基本調合液を作ろうと思っているので、ポーションの基本素材である『日輪草』『白兎花』『青兎花』を採取する。
この三つは根を残し採取する。使うのは主に葉や花だ。
「瑞々しいね。すごく品質がいい!」
「ラピス! 水も美味いぞ!!」
「この泉、光属性を帯びているわ」
水を飲んだテティが目をまん丸にして言った。
黒猫のテティは闇属性を持っている。そのせいで敏感に反応したようだ。白猫で光属性を持つセティは気付いていないようだから、本当に微弱な光属性なのだろう。
テティが持つ闇属性は、悪いものばかりではない。
闇には『静』と『邪』の二面性があり、安静、睡眠、夜などを司るのが『静』。魔物や呪いと言った負の側面が『邪』だ。
セティの光属性はその反対で、『動』。活動、覚醒、昼などを司り、魔に対抗できる『聖』の側面もある。
「光属性か。貴重だね! 汲んでいこう!」
ラピスは小さなマギアバッグから、薄く保冷効果のある『氷硝子』で出来た水容器とバケツを取り出すと、バケツを泉にそっと沈め、水を汲んでは容器に移し入れていった。
「綺麗な水」
透き通った水は、ラピスの背丈ほどある泉の底まで見えるほど。湧き水の噴出口あたりで踊る砂まではっきり見える。
「そうだ、砂も採取していこうかな」
「アタシたちは手伝えないわよ?」
「濡れたくねぇからな!」
「ふふ、分かってる」
二匹はやっぱり猫なのだ。特に長毛のセティは濡れることを嫌がる。風呂も大嫌いだ。
ラピスも濡れると面倒だなと思い、ローブを脱ぎ腕まくりをして水汲みを続けた。
「っあ~! 疲れた! やっぱり水汲みを楽にする魔道具作ろうかな」
腰を曲げ、水を汲んでは移し替えを繰り返したラピスは大きく伸びをした。
水汲みの魔道具なら、魔石を空間魔術で加工したり、マギアバッグの応用でイケる気がする。
というか、マギアバッグをそのまま水に沈めれば大量に採取はできる。問題は水に形がないことだ。
バッグの中に広がる空間がどのようなものかは長年の謎だが、水や火はそのまま入れてはいけないとされている。なぜなら取り出すのが困難だからだ。
ラピスのマギアバッグには【状態保存】の機能が付いている。
この【状態保存】とは、バッグに入れた時の状態をそのままにする効果だ。その物が周囲に及ぼす影響も、バッグの中で広がることはない。
だから水や火をそのまま入れたとして、他の収納物が水に濡れたり、火で燃えたりはしない。しかし、取り出す際には、バッグに魔力登録した者の手で取り出さなければならない。
バッグに手を入れると、頭の中に収納物リストが展開する。そこから物と数を選び、手で触れることで取り出せる。
水や火は個数で把握できない。それに水はともかく、火を手で触れるのは無理。だから水を収納するには容器を使う。
「でも手持ちの素材だけじゃ、空間魔術を使うものを作るのは厳しそうだな……」
空間魔術系の錬成に使う素材は、少々特殊なものが多いのだ。
「ラピス~! 美味そうな木イチゴ見つけたぜ! 少し採ってきた!」
「ラピス! スグリの花が咲いてたわ! 採りにきましょう!」
森を探検していたセティとテティが、実の付いた枝と、花の付いた枝を咥えて走ってきた。
久しぶりに広々とした森を散策したのが楽しかったようだ。
木イチゴもスグリも、錬金術の素材としてはあまり使わないが、二匹が楽しそうなのでラピスは頷く。
「うん、本当にいい森だね。これだけいい森なら、もっと採取に来る冒険者がいてもおかしくなさそうなのにね?」
「そうね。でもここ、魔力が相当濃厚よ? ラピスくらい魔力があって、魔力耐性もないと長時間はいられないんじゃないかしら」
「ああ、そうか。だからフィニス産の薬草は少量だったのか」
フィニスは国の端。街道は通っているが、大きな街からは少し離れたのどかな場所だ。
短時間しか入れない森のために訪れるほどの旨味がないだろう。
地元の人間だけが短時間森に入り、少量を採取する。この豊かな森は、そうして守られてきたのか。
「そのおかげで私がこうして採取できる……この幸運に感謝……!」
ラピスは思わず胸の前で腕を交差し、森に感謝の祈りを捧げた。
◆
「さて。そろそろ帰ろうか。早く調合して、ダンジョンに私の能力と価値を量ってもらわないとね!」
ラピスは軽い足取りで『扉』に戻る。
あの扉、面白いことに森の中に赤い扉だけが立っているので、すごく目立つのだ。
「いや、メシにしようぜ? 木イチゴもあるし」
「そうよ。アタシたちはここの魔力だけでもまあいいけど、ラピスは馬車の中でパンを囓っただけでしょう? 駄 目 よ 」
「え。私はまだ食べなくても……」
ラピスが食事より調合がしたいと言うと、足下の二匹がそれぞれラピスの足に猫パンチをした。
「ごめんなさい! 食べるから……ん?」
間近の赤い扉。その裏側に何かがいる。
黒い縞模様のある、明るい茶色の尻尾が見える。動物? まさか魔物か? ラピスは腰に差した杖を抜く。
「テティ、セティ。一応、警戒して」
ラピスの言葉に、二匹はニュッと立ち上がり背を伸ばして茶色の影を窺う。だが二匹は、顔を見合わせた。
「あら。珍しい」
「なあ! そこのオマエ」
何を思ったのか、セティがそう声を掛けた。
「にゃっ!? 誰にゃっ!」
尻尾がブワッと広がり、その本体がビョン! と扉の上部まで跳び上った。
そして、シタッと着地し姿を見せたのは、オレンジ寄りの茶色い毛並みで、顔に少しの縞模様がある大きな猫――いや、ケットシーだった。




