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アクマテキ  作者: なん
六章
33/34

特種放逐官

「つまり魔飼い物である彼女がいることで機関全体の士気を落とすことを危惧した。そして彼女の戦力より暴走時の被害を恐れ排除することで機関果ては世の中がより良くなるという考えの元一連の行動を起こしたと。成程理解しました」


 荘厳で高級感のある部屋。

 本来シックな雰囲気を纏う筈のその部屋をぶち壊しているのは無数の土偶。

 所々に様々な土偶が配置され持ち主の手元にもしっかり陳列されている。


「処分は後程決めますので。其れ迄拘束させて頂きます」


 落ち着いた声音で淡々と述べる彼は年の割に若く見える。

 そこそこ年は重ねているが年齢通りに見えない顔立ちに丸眼鏡と黒髪。

 柔らかい言動は好感を抱かせる。

 しかしその瞳だけは穴が開いたように暗い。

 土偶のような無機質な瞳には底なしの怒りが伺える。


「はい」


 張った低い声で返事するのは伊達寺を呼び出し監禁した中年の男。

 緊張で固まった身体は微動だにしない。

 秘密裏に魔飼い物を処分する為に汚れ仕事が得意な者達を組織した。

 立場を利用し機関のデータバンクを改竄させ殺人鬼を使い魔飼い物を殺すよう仕向けた。

 横暴な行為ができる程彼の地位は高いがその彼でも目の前の男には頭が上がらない。


 目を合わせるだけで精一杯。声を出すだけで全力。

 震えで歯がガチガチ鳴るのを必死に抑える。

 汗のこそばゆさなど気にならない。


「あなたが利用した殺人犯、田代が最後に殺した一家の名前を知っていますか?」


「いえ」


 乾いた喉で絞り出す。


「土溺って云うんですよ。従妹なんですよ。田代は唯夫婦を殺したつもりでしょうが妻のほうには子供がいた。人生初の姪っ子でした。あなたが関わったから従妹達が死んだわけじゃない。田代個人の判断です。でもね。そんな屑を利用したあなたも僕は許せないんですよ」


 吸い込まれそうになるほどの空洞の瞳がこちらに向いている。

 言葉の意味を理解し戦慄する。全身が干上がる。


「っ———————————」


 喉がきゅっと絞まり言葉が出ない。

 呼吸がうまくできない。

 まさか彼の従妹を殺していたのかあいつ。今思えば名字が一緒だった。迂闊だった。終わりだ。おわりだ。


「もういいですガジェット、連れて行って」


 ガジェットと呼ばれた女は無表情に頷いた。同時に短い金髪が揺れる。

 上品で健康的な肢体は歩くだけで見惚れる程だ。

 何か云おうとした男を素早く連れ出す。

 最後の抵抗とばかりに発した声は扉が閉まる音によって塗りつぶされた。



 部屋に一人残った男は少し経って机に突っ伏した。

 両手で土偶の縫い包みを弄ぶ。


「嗚呼~まじきめえ。くそうっぜえ。カスの分際でなめ腐りやがって」


 先刻の態度とは一変して粗暴な言葉を吐き出す。


「なんであんな奴が生きてんだよもっと生きるべき奴いるだろ。なんでいい奴が損しなきゃいけないんだよもお!」


 机に拳を振り下ろす。土偶たちが一斉に揺れ動いた。


「ちっ」


 舌を打ち拳に痛みを感じながら項垂れる。

 ガチャガチャガチャガチャ。


「その扉生体認証だよ!」


 ガチャガチャガチャ。シュー。


 重い扉が開かれ先刻の金髪美女が姿を現す。

 引き締まった肢体に豊満な双丘を実らせた彼女は無表情なまま近付いて来る。

 視界から消え背後から抱きしめてくる。

 背中に柔らかいものを感じた。


「んだよ」


 不機嫌な様子を歯牙にもかけず頭を撫でてきた。

 優しく軟らかく。


「不岐さん。よく頑張ってますよ。辛いですよね。苦しいですよね。いつでも私を使って下さい。私は貴方の全てを肯定しますから」


 頬に温かいものが触れる。

 頬どうしをくっつけているのだ。


「よしよし。赤ちゃんみたいに柔らかいほっぺ。好きですよ」


「……どうもこの仕事をしてると死に触れすぎる。もう疲れたよ」


「でも貴方が居るから効率のいい放逐活動が出来ているし貴方が居るから大規模作戦が上手くいくし貴方が居るから死ぬ人が少ない。貴方が居るから私も生きてゆける」


 耳元で囁く声は哀愁を孕んでいた。


 ふーーーーー。


 耳に息を掛けられ咄嗟に跳ね起きる。


「そうだな。僕がしっかりしないと」


 顔色を変える彼を見てやっと彼女は微笑む。


「うん。えらいえらい」


 ガジェット・プラップ。第一種放逐官。

 土溺不岐——つちおぼれ ふき——。特種放逐官。

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