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アクマテキ  作者: なん
五章
32/34

悪魔的

 揺れる、揺れる、揺れる。


 思考が揺れ判断が揺れ感情が揺れる。

 全身がシェイクされたみたいに不安定になる。

 地場が死んだ。

 胸にぽっかり穴が開いたような感覚がした。


 俺にとって地場は大切な存在だったのか。初めて実感した。痛感した。大切な人が死ぬとこんな気持ちになるのか。

 全身が重く感じる。感覚が鈍る。


 ガィンッ。


 刹魔が弾かれた。その事実を受け止めるのに時間が掛かる。


 ガィンガィンガィンガィンガィンガィンガィンガィンガィン。


 無慈悲に無機質に白情の皮膚は刹魔を跳ね返す。


「はぁはぁはぁあぁあはあははっふっふはふ、ふふふはっはははははははははははははははははははははははは‼」


 笑い声が、歓喜が身体から溢れて止まらない。


「いいやあああ!あれを弾いた時は肝を冷やしたよ。でも無事に死んでくれた。獲物は違ったけれどあいつも大事な存在に違いないぃ!事実君の刃はもう僕には届いていない!勝ちだ!勝った!僕はまだまだ生きるぅ、感情を知り成長していくうううう!!」


 其れは心の底から喜んでいるようだった。心からの感情の叫びだった。

 全身を叩く刹魔など意に介していない。

 今は唯々喜ばしいのだろう。感情を知れることが。

 両腕を目一杯広げ瞬く星を見上げる。


「この世界はなんて奇麗なんだ」


 白情は知った。感情を一つ知るだけで見る世界はこんなにも変化する。立ち向かって来る人間が愛おしく思えるほどに。

 幼子を撫でるように動物とじゃれるように両手を突き出す。

 伊達寺の腹部を突き破り純白の両手が赤く染まった。

 水風船が割れたみたいに血を吐く伊達寺。

 腕がだらりと下がるが刹魔は決して離さない。


 恍惚とした表情を浮かべる白情。

 対して伊達寺の表情は長い茶髪で隠されている。


 ああ。だめだ。直感で分かる。目の前のコイツを殺すには無心に、無感情にならなきゃいけないのに。地場を思う度寂しさで、腹立たしさで覆われてしまう。まったく感情ってのは面倒だ。面倒だけど大切だってことは分かる。これを捨てるには俺はまだ弱い。


 顔が浮かぶ。今まで出会ってきた人間の顔。面倒な奴、うざい奴。面白い奴、信じられる奴。


 あーーーーーーーーーーーーーー。

 あーあ。


 こいつだけは殺さなきゃいけなかったのに。


 ———————————————————————————。


 かった?

 刹那湧き上がる思い。


 いやいやいやいや。まだ殺せるだろ。諦めてんなよ。

 俺はどうして放逐官に成ったんだ?


 走り去る幼少の記憶。


 記憶が薪となり一つの決意が再燃する。


 そうだ。決めたんだったな。デーモンを殺す為ならなんでもするって。


 前髪から覗く瞳。

 哀しみを孕んでいた瞳が完全に虚無色へと変わる。

 地場。お前の仇は打つぜ。その為にお前への感情を忘れるよ。

 霧が晴れる様に心の中の地場が消え失せる。

 刹那白情の両腕が両断されていた。


「ぐああああああああああああああああああああ!」


 痛みに悶えるデーモンを無慈悲に見下ろす。

 その顔にはその瞳には感情が無かった。

 機械の如く放逐する。それだけ。

 思わず両腕から噴射される血液を伊達寺に向ける。

 無意味な抵抗だ。


 血液が伊達寺の瞳に入れば少しは時間が稼げるだろうがだからといって何も変わらない。

 死への下り坂。


 そんなことは分かっているが身体が勝手に抵抗する。

 抵抗虚しく飛び散る血液の尽くを避けて彼は進む。

 研ぎ澄まされた超反応は白情が動くと同時に作動する。

 白情からしてみれば自分が動こうと思った瞬間には避けられている。

 白情の脳味噌が初めて恐怖一色に染まった。


 +++


 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんなんでなんでなんでなんでなんでなんんでなんでなんでなんでなんで——。


 仲間を殺したのに。感情を呼び戻してやったのに。さっきまで効かなかったのに。

 なんで僕の腕が無いんだなんで腹に穴開けてやったのに動けるんだなんでそんな目でいられるんだなんでぼくは今死にそうに成ってるんだ。


 腰を抜かし倒れる。

 尻に衝撃が突き抜け痛みだす。

 冷たい背筋。痙攣する身体。

 あああああこれが恐怖かこれが死か。なんてことだまさかここで新たな感情を知るなんて。まさかここで奴が感情を投げ捨てるなんて。


「ここは独壇場ってことか」


 暗黒の瞳で呟いた。

 ただ歩いているだけなのにこの場は彼の独壇場だと知る。

 地場の正念場から伊達寺の独壇場へ。

 夥しい量の血液を漏らしながらも伊達寺の表情は変わらない。

 伊達寺の影が近付く度に身をよじって離れようとする。

 遂にバランスを崩し完全に倒れてしまう。


 月を背後に佇む彼はまるで異界からの使者の様で。

 感情に(まみ)れた顔から言葉が漏れる。

 心からの言葉が漏れる。


「なんて悪魔的なんだ……!」


 虚飾に染まった男が腕を振るう。

 景色がゆっくり傾く。

 コンクリートの地面が目の前に迫る。


 ぶつ。


 ————————————。


 落ちた意識。

 弾ける鮮血。

 見開いた眼球は何も映していない。

 電源が落ちた様にデーモンは動かなくなった。

 激戦は終わった。


 感情を知りたかった化け物は感情を忘れた人間に殺された。

 感情は果たして生物を強くするのか弱くするのか。

 答えは出ない。

 月光はまるでスポットライトみたいに辺りに転がる死を照らしていた。

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