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アクマテキ  作者: なん
五章
31/34

命はまるで雫みたいに

 閉じてしまいそうな意識。

 限界の先の先まで追いやられた身体。

 だからどうした。


 意思の、意志の、遺志の力だけで立ち上がる。

 身体の感覚などとうに無い。

 暴れまわる痛みだけを感じている。

 力が入らないから感情のみで立ち上がる。


 一歩、また一歩。

 進む度に全身が激しく痛み血を吐き出す。

 構わす一歩。

 襲い来る死の塊に立ち向かう。


「助けます。何度だって」


 どっ‼


 力が激突する。

 受け止める両腕は最早機能していない。

 顔で、胸で、腕で、腹で、脚で、全身で力を、死を受け止める。

 少しでも気を抜けば全身が砕けてしまいそうだった。


 歯を食いしばって耐える。守る。

 物理的な力と精神的な力が凌ぎ合う。

 身体から剥がれ落ちていく刹魔。

 戦闘中唯一つきっきりで自分を守ってくれる存在。

 其れに別れを告げ前を向く。


 圧倒的力は弱まることを知らずじりじりと立ち向かう者を押し退ける。

 皮膚が剝げ落ち肉が弾け飛び遂に地場は大きく仰け反った。

 このままでは圧し負けてみんな死ぬ。

 分かっているのに立て直せない。

 意識諸共吹き飛ばされそうになる。


 限界。窮極。


 その背中に。


 そっと何かが触れる。

 温かくて柔らかくて優しくて力強い。

 この場には存在しないが確かに此処に在る。

 朗子——。


 恋人と過ごした時間が、創った記憶が押し寄せる。

 胸の奥に存在する其れは温かな手となって地場をそっと押す。

 背中に当たる熱がどんどん増えていく。


 感じる。才人。和紗。皆の熱。

 ぼろぼろの身体が淡い何かに包まれる。

 今だけは全てを守れる気がした。


「ここが正念場ってことだな」


 全身から爆発的な力が湧き出し受け止めている死を前に押し出す。


「—————————————————————————‼」


 無音の絶叫が響く。

 渾身の力の塊を渾身の力で投げ飛ばした。

 揺れながら進む死の塊は白情の手前で激突し四散した。


 絶句する白情。

 揺れる伊達寺。

 戦慄する田擦。

 絶望する獣辺。

 辛うじて人の形を留めている地場。


「       」


 焼け崩れた唇を動かす。

 彼が何を発したのか今となっては分からない。

 唯安心したように彼は目を閉じた。

 そして彼の焦げた上半身だけが静かに零れ落ちた。

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