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アクマテキ  作者: なん
五章
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悪魔

 ヤバイヤバイやばいやばい!デーモンの焦りが脳味噌を支配する。

 さっきまであんなに敵意ビンビンだったくせにと内心舌を打つ。

 肉と一緒に精神が削られる。

 今は無感情で打ってきやがる。情緒どうなってんだよ!


 白情の特性は人間の感情が無ければ発動しない。


 感情に伴う力の吸収。其れが白情の特性。

 主に悪感情に対する吸収効率が高い。つまり敵意を抱くほど白情への攻撃は通らなくなる。

 地場の一撃で致命傷を負ってしまったのは彼が敵意ではなく仲間への感謝の気持ちで殴ってきたから。

 感謝などの明るい感情は力を吸収し辛い。もし地場が何の感情も抱いていなければ白情は死んでいた。しかし地場の力は感情が在るからこそ成り立つ力だ。白情は其れを知らない。

 無感情の攻撃はモロに食らう。だが無感情の攻撃など受けたことがなかった。攻撃には感情が伴うものだ。


 伊達寺は感情の機微が鈍く今の状態は無心に成っているというより限りなく無感情に成っている。つまり白情の天敵。

 このままやられ続けたらまずい。確実に死ぬ。

 絶命の予感によって焦りや不安や緊張が湧き出る。

 白情はおよそ感情と呼べるものを持っておらず感情の真似をすることで本物の感情の獲得を目論んでいた。


 人間を襲う度、反撃とともに吸収される感情を羨ましく思っていた。

 感情に伴う力を好ましく思っていた。

 自分も感情を手に入れればもっと成長できる。進化できる。

 一枚壁を隔てた向こう側の世界にいつか自分も。

 そしてようやく感情の端っこを掴みかけている。

 やっと感情を知れたんだ。

 やっと少し感じられたんだ。

 お前らには些細な感情かもしれないけど僕にとってはとっても大きな感情なんだ。


 痛みの奔流を受けながら痛いとは思わない。

 感情はいつだって単純だ。


 こんなとこで死んでたまるか。

 吸収した力には限りがある。ストックは僅か。人一人ギリ殺せる分。

 辛うじて伸ばした腕。

 その先には両手を失った田擦が。


 傷の大きさで云えば地場の方が遥かに大きい。

 両腕を殆ど失い身体中ズタズタだ。

 地場に力の塊を直撃させれば死ぬかもしれない。

 だが地場には刹魔の鎧があった。

 剥がれかけているその鎧は出血を最小限に抑えている。

 鎧の強度は予測が付かず地場を殺すことが出来ないかも知れない。それではダメだ。

 白情にとって地場の力量は未知数だった。


 傍らの女の方を見ると両手から大量の血液が噴射している。

 止血しようにも焦りや痛みや後悔や無力感がごちゃ混ぜになって両腕の変成が上手く行えていない。

 血液が流出し続け意識が曖昧になっている様だった。

 女は避けられない。誰も助けられない。コイツなら即殺せる。


 今は無感情だが先刻の伊達寺は確実にキレていた。つまり仲間を傷付けられれば感情が動く。

 今直ぐに仲間の放逐官を殺せば伊達寺は感情を取り戻すのではないか。怒りを取り戻すのではないか。

 取り戻した感情は激しい怒りだろう。つまり伊達寺の攻撃はもう効かなくなる。


 白情の掌から渾身の力の塊が発射された。

 最後の最後の振り絞った力。

 其れは真っ直ぐ田擦にめがけ突進する。

 強い意志を体現したように加速し突き進む。


 白情の選択は正しかった。

 伊達寺にとって地場も田擦も重要な人間だ。

 失えば何かしらの感情を覚えるだろう。

 特に田擦に対しては何か特別な感情を覚えている。

 感情を取り戻させるには田擦を殺す方が有効だ。

 デーモンは凶悪に嗤った。


 +++


 ここで終わりか。

 私で良かった。

 純粋にそう思う。

 傍らの地場と獣辺に直撃すれば確実に死んでしまう。

 二人は死んではダメな存在だ。必要としている人間がいるから。


 目の前に迫る死。

 朦朧とする意識の中何処か安心している。

 目の前のデーモンと戦っている時、自分は何故戦っているのか分からなかった。

 自分はデーモンを放逐する以外の生き方を知らない。でも機関の人間に殺されそうになった。


 もう放逐官ではいられない。もう放逐を続けていくことは出来ないのか。

 私は正義を執行出来る様な、人を救える様な人間では無かったんだ。

 後は託したよ。伊達寺。

 白情の選択は確かに正しかった。


 しかし。

 他人の為だからこそ動ける人間が此処には居た。

 もし自分が狙われていたら力の塊に引き裂かれて死んでいただろう。

 だが他者が狙われているからこそ彼は動いた。

 いつだって誰かの為に戦ってきたのだから。

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