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アクマテキ  作者: なん
六章
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進む私は

 魔的対策機関本部。通称黒塔。


 漆黒の塔を遠くに眺めながら伊達寺削鍬は息を吐く。

 季節は移ろいすっかり寒くなった。

 痛いほどの寒さを顔に感じつつ白い息を吐く。

 踏みしめる度雪の感触が足に伝う。

 雪が降り積もりモノクロみたいな情景をぼーとしながら見詰める。

 白銀とはよく云ったものだが何方かと云えば白灰に見える。


 純黒の塔も雪に覆われてくすんで見えた。

 息を吸う度に鼻が冷たくなる。


「伊達寺」


 呼ぶ声の方を向く。

 暖かい服を着込んだ田擦が近付いてきた。

 田代に切られて乱れた髪を整えたので短くなっている。

 隣に立ってくすんだ黒塔を一緒に見詰める。

 田擦の吐く白い息が目の前を通過した。


「いいのか?手合わせなくて」


 目線でその場所を訴える。

 地場念正の眠る、放逐官達の眠る場所。

 黒塔からは距離がある。其れは生き残った放逐官達が仲間の死に囚われず前を向く為だとか。


「いーです。手を合わせても地場は生き返らないんで」


 辛辣な発言だが彼には彼の念いが在る。

 悟った田擦は大仰に肩を竦めて見せた。


「そーだな」



 伊達寺の顔は無表情で感情が読めない。

 そんな伊達寺が居たからこそ自分はこうして立っている。

 白情の放逐が終わってすぐ田擦と伊達寺は機関を抜けた。


 田擦を狙う人間が未だ機関にいるかもしれないからだ。其れに田擦は戦う理由を見失っていた。

 人を救う為に戦ってきた。でもその人に殺されそうになった。自分は人にとって必要のない存在なのかも知れない。私が生きることで誰かが不利益を被っている。耐えられない。

 研究員を皆殺しにしてしまってから人を救おうと躍起になってきた。其れがそもそもの間違いだったのかも知れない。速やかに自死すべきだったのかも知れない。


 芯を失った田擦。抜け落ちた様に唯生きるだけ。死んだ方がいいのかな。

 創り出した刃を自身の首筋に当てた。

 そして。


 『立て。あなたがいなきゃデーモンが殺し辛い。手を失っただけで戦えない訳じゃない。ここで止まったら今までのあなたは死ぬ。あなたが守りたい人間もたくさん死ぬ。辛いことなんて無視しろ。唯見詰めろ。あなたの思い描くお前を。自分の正しさから決して目を離すな』


 頭の中で以前云われたある言葉が反芻していた。

 生きる意味を失って私は思い出した。

 何故放逐官に成ったのか。


 償う為だ。報いるためだ。

 自分が殺した研究員の死に。失った仲間の死に。失われていく人々の死に。

 人を救う為に自分は生まれてきたのだから。

 今私は何をしている?唯生きているだけじゃないか。それではだめだ。

 人を救う。死ぬまで救う。死んでも救う。


 こんなところで止まっていられない。進まなければ。

 ぶん殴られた様な気がした。殴られるより凄惨だったかもしれない。

 でも立ち上がれた。今はデーモンを放逐する。それだけ。邪魔なものは見ない。理想の自分に近付く為に。


 どれだけ傷付こうとどれだけ凄惨な目に遭おうとどれだけ自死を願おうと死ぬまで人を救い続ける。

 それが生きる意味。


 出来の悪い両手を見詰める。

 傷は塞がった。

 腕を変成して手の形は取り戻した。だが本来の手は失った。

 変成して武器に変えることは出来るが能力は落ちている。

 これから色々なものを失っていくだろう。欠けがえのないものを失うかも知れない。


 構わない。唯前進するだけだ。

 伊達寺が動く。

 田擦も動く。

 きっと伊達寺にもはっきりした目的地は無い。けれど彼は進む。ならば私も進もう。


「そういえば獣辺はどうなったんです?」


「え?ああ、獣辺は仲間を失って相当堪えているみたいだ。今は養成学校で様子を見つつ学び直しているらしい」


 相棒のらしくない言動に面食らう。

 こいつが他人の心配するなんて。


「ふーん。大変そうですね」


 伊達寺なりに気を使っているのだろう。

 友が守った放逐官。その様子。


「なんか変わったな。伊達寺」


「いやいや?何も変わってないですよ。俺はただデーモンを殺せれば良いだけです」


 思わず苦笑した。


「放逐、な!」


 これから間違った選択をするかも知れない。

 私の存在は正しくないかも知れない。

 だけど。

 進む私はきっと正しい。

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