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アクマテキ  作者: なん
五章
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やかましい

 「おいごらあ早うせえやあ!放逐官のみなちゃんが少ない今のうちにお偉いさんにうちのラーメン食べてもらおうやないか!うちのラーメン利用するんは新人の子か常連の子だから普段食べてない人にも食べてもらいたいでしょ?なあそうやろ!そう思うやろ!シャキッとしいやあああ!お偉いさんは無理に威張ってお高いもんたべとるだろうからたまにはガツンと身体に染みるラーメンでも振舞ってあげないと。わざわざ放逐官のお偉いさん達しか入れないフロアに無断侵入したんだから怒られる前にさっさと届けちゃいましょ。そおれにしても味気ない廊下ねえ学校みたい。そうおもわないぃ?なあ!懐かしいわあ学校。久しぶりに皆に会いたいわあ皆何してるかしらむっくん、ともちゃん、ようちゃん、ぽぅちゃん、のりつきー、さまくま、にょい、むんむんじゃー、そまこ、成金、せんし、てぃぶ、しょけしょけ、ごま、うんこ。皆元気かなあ?うんこだけ既婚者だもんねきっと大変だわ。子供が出来たらそりゃあもう大変よ。私たちの間には授からなかったけれど夫婦生活ってだけでも大変なのにはあああ会いたいわあ。正に会いたい子ちゃんよなんじゃそら。全く。もう秋。年々一年が早くなって困るわ。学生の頃は毎日がときめきで溢れてたのに。毎日の晩御飯が楽しみで好きな物を食べるだけで幸せって思えたのにね。大人になるって怖いわあ年取ると大人になりすぎちゃって勝手に結果想像して諦めたりしちゃうよねやっぱりそういうの良くないと思うのよ。何事もチャレンジ人生やったもん勝ちよ!」


 どすどすと大股に歩く奥地減羅子。

 夫の奥地堅——おくち かたし——は対して慎ましく歩いている。

 彼は両手と頭の上に岡持ちを乗せるという冗談みたいな恰好で減羅子の後を追う。小柄ながら力は有るらしい。

 大きな図体を揺らす減羅子はふと曲がり角の先を見


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 獣じみた咆哮を上げる減羅子。

 堅が覗くとそこには黒と赤の川が出来ていた。

 黒服を着た男たちが血を流して倒れて居る。

 大きな傷はなさそうだが一体誰にやられたのか。

 様子を伺う為顔を覗き込む。


「この人……」


 堅は記憶の隅にある情報を引っ張り出す。

 見たことがある。偉そうな中年の近くにいつもいる目つきの悪い男だ。

 目線を上げると黒の中心に何かが在る。


「椅子……」


 重そうな金属製の椅子。その下に血のへばり付いた縄が落ちている。


「いったい何が」


「ギャアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ——」


 雄叫びに包まれながら答えの出ない問いを感じていた。


 +++


「ふっ」


 思わず吹き出す。


「殺す?殺すかあ。君は少し毛色が違うね。いやはや面白い」


 クスリともせずに伊達寺を見る。


「ぼろぼろじゃないか。君のお仲間とおなじだね」


 張り付けた嘲笑は崩れた顔と相まって不気味な不快感を醸している。

 目線を移すと重傷を負った放逐官達。

 仲間の死体にショックを受けて放心している獣辺。

 両腕の出血により朦朧としている田擦。

 無力感からか瞳を虚無色に染めた地場。

 転がる二つの死体。


 目に映る全てが戦いの凄惨さを物語っている。

 放逐に時間を掛ければ田擦は死んでしまうだろう。

 空っぽの器が熱いもので満たされていく。

 脳みそが熱いもので支配される。

 なんだろう。こいつをどうしても殺さなきゃ。初めての経験だ。


 感情との遭遇に思考が止まる。

 不思議と全身に力が入る。

 取り敢えずこの濁流に身を任せてみるか。

 吹き出す感情を爆発させデーモンへ突進する。


「ぐちゃぐちゃにしたげる」


 ぐちゃぐちゃの顔から言葉を発し両手を振るう。

 伏せた伊達寺の髪を掠め真後ろで塊が爆発する。


 地面を蹴り両腕で全身を持ち上げ倒立の姿勢のまま捻りを加えた踵落としを見舞う。

 不意に鼻先に踵を落とされぐらつく白情。

 白情に攻撃自体は効いていないが地場の一撃の余波が残っている。

 伊達寺は全身を持ち上げたまま両腕で地面を押す。

 空中で体を捻り刹魔を叩き付ける。


 いまいち手応えが無い。

 着地し屈んだまま身を回し一閃。

 硬い感触が手を伝う。

 柄で喉を突き上げ浮いた鳩尾と股間に二撃ずつ打ち込む。

 槍を回転させくの字に折れた身体に刃を叩き込む。

 吹き飛んだ白情は受け身を取りそのまま腕を振り回す。


 力の激流が伊達寺を飲み込み引き裂く——前に懐に潜り込み刹魔を突き刺す。

 刃先が硬い皮膚を押し込み火花が散る。

 体を回転させ柄で脚を搦め崩れた上半身に槍先を突き落とす。

 純白の背中が地面と激突し鈍い音を奏でた。

 瞬間に力の塊が爆発し辺りを飲み込む。

 間一髪で飛び退いた伊達寺は槍型刹魔を構える。


 頬から血が滴る。

 痒いような熱いような痛いような感じがした。

 頬を這う赤い雫を無視して敵を注視する。

 デーモンは大したことが無いような雰囲気でゆっくり立ち上がる。初めて感じた『面白い』は薄まりすっかり訝しんでいる。


 伊達寺は考える。全然効いてねえ。あの丸めた雑巾みたいな顔になるくらいでかい一撃が必要か?地場みたいなバカ力はこの刹魔には出せねえ。


 魔的対策機関製造課修理班。刹魔の修理、強化を担い機関の中で最も多くの費用を必要とする。其処で修理、強化した伊達寺の刹魔は槍のような形状で魚の鰭のような刃を持つ。

 殺傷能力は高い筈だがデーモンが傷を負った様子が無い。


 チラッと地場の方を見る。

 欠損した右腕にひしゃげた左腕。割れたガラスの様に剥がれた鎧。虚ろな瞳が崩れた兜から覗く。満身創痍の彼を見て何を思う。

 視線を戻した伊達寺は一つの行動を選択した。

 見たところ大きな力を与えれば効果はあるようだ。

 この刹魔ではでかい一撃は無理でも高速の一撃を積み重ねたらダメージは狙えるか?


「一旦無心で撃ってみるか」


 思考を捨てることで行動速度を上げようとした。

 人間離れした反応速度を持つ伊達寺だからこそ選択できる行動だ。

 スッと瞳の色を変え疾駆する。

 発射された力の激流が距離を押し退け接近する。

 咄嗟に避けた伊達寺の鼻先をゆっくりと掠めた。


 スローモーションの世界から舞い戻った伊達寺に白情は仕掛けた。


 正面に手を翳し力の塊を放出すると見せかけ地面を踏みこ込むと同時に脚から力を放出する。

 白情の攻撃を紙一重で避けている伊達寺。

 伊達寺の足場が崩れれば攻撃が避けれず直撃する筈だと白情は考えた。


 一連の行動は流れるように一瞬だった。

 だが地面を踏み割るはずの足が消失していた。


「?」


 手から力を放出するとみせかけ足から放出する。手のフェイントと足の動き。その二つに反応し足を断った。


 人間の限界を超えた反応速度。超反応。

 反射的に行なった行動に感情は存在しない。

 だからこそ効果があったのだ。

 ただの落下物と化した足を見ながら驚愕する。

 本能が警鐘を鳴らすがもう遅い。


 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!


 高速で踊る伊達寺と刹魔。

 巻き込まれる様に皮膚が裂かれ肉が抉れ骨が削られる。

 反撃を行う隙も与えられずただ攻撃の激流に流される。

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