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アクマテキ  作者: なん
五章
27/34

オカエシ

 自分の班長は本当に凄い。他の放逐官は心底どうでもいいが地場念正だけは尊敬できる。

 真っ直ぐな信念と圧倒的な力。

 其の拳は数多の怪物を沈めてきた。

 地場念正、こいつについていけば俺はもっと強くなれる。もっとデーモンを狩れる。

 自然と気持ちが高揚する。


 だが地場の姿を見て気持ちが切り替わる。

 地場の左腕はあらぬ方向へ折れ曲がっている。

 右腕も欠損している。

 このままではデーモンと戦うことが出来ないのでは無いか?

 引退?うちの班長が?一緒に戦えなくなる?

 焦りが自然と身体を動かす。

 他の皆も地場に駆け寄っていた。


「地場さん地場さん地場さんああ地場さんそんな」


 震えながらも声をかけている獣辺。


「班長……君はいっつも無理をする」


 悲しむように誉めるように云う荒狼。


「地場、よく頑張ったな」


 悔やむように呟く田擦。

 おいおいウソだろ。こんなの。まるで班長がもう戦えないみたいじゃん。

 実際地場の身体は限界を超えていた。


 鎧で隠れているが夥しい量の出血と身体が破壊されるほどの力を二度も行使した反動が地場の身体に刻まれている。

 生きているのがやっと。瀕死。死の淵。

 正にそんな状態だ。


 思わず涙を滲ませる天上。

 いやだよ。しなないでよ。まだ一緒に戦いたいよ。

 人生を放逐に捧げてきた。

 自分の家は特殊で幼少期から訓練を行う。

 中学生の時初めてデーモンを放逐した。


 将来は特種放逐官に成る。其の考えが当たり前。

 プレッシャーに潰れそうに成ったこともある。

 でもやるしかない。

 そうしないと生きていけないから。

 褒められたことなどなかった。


 だが班長は俺を褒めてくれた。

 すごいな。頑張ったな。えらいな。才人のお陰だ。有難う。

 なんてない言葉だ。

 でもなんてない言葉が実は堪らなく嬉しかった。

 戦闘マシーンの様に育てられてきたとしても中身はまだ子供なのだ。

 だめだよ。しんじゃだめだよ。もっとほめてくれなきゃだめだよ。


 ぽろぽろと涙が零れる。


「はんちょう」




 現実は甘くないという言葉は誰もが知っているだろう。

 そんな言葉を一体誰が最初に云い出したのだろう。

 確かに生きていくことは大変だ。

 人間には悪意が在る。

 人間の集合体である社会にも悪意が在る。

 悪意の奔流が甘いわけが無い。苦くって辛くって酸っぱくって臭くって痛い。

 そんなことはわかっているんだ。

 言葉には力が在る。

 どうせなら前を向ける言葉をくれよ。

 甘くない現実に立ち向かう人を讃えてくれよ。

 どんな言葉を貰っても現実からは逃げられないのは分かってる。

 今もそうだ。

 甘くない現実は放逐官達に襲い掛かる。


 +++


 眼の光が弱まっていく地場に仲間たちは声を掛け続ける。

 荒狼さんが既に機関に連絡した。

 最速で救援が来る筈だ。

 地場さんは助かる。

 大丈夫だ。


「大丈夫だ」


 獣辺は半ば自分に云い聞かせながら地場に語り掛ける。


 ざっ。


 突如音が聞こえた。


 ざっ。


 絶望の底の底の底まで突き落とす足音が。


 ざっ。


 ゆっくりと音の方向へ眼を向ける。


 ざっ。


「まさkあssおういうほうkkk㋔うでくるtぅあね」


 其の顔面は見るも無残に崩れている。

 全身が湾曲し出来の悪い人形の様だった。

 特に顔面は潰れて跡形も無くなっていた。

 それでもまだ奴は生きている。


「dddddもいいちかrあだtったよ」


 潰れた言葉を吐きながらとぼとぼと近付いてくる。


「っこれオカエシ」


 戦闘態勢に入るのと同時。

 超大な力の塊が放逐官達に直撃した。

 地場の一撃と同等かそれ以上を思わせる衝撃の嵐。

 力の激流に弄ばれる。


 先頭で天上が刹魔を掲げ、後ろで荒狼が刹魔を構え、その後ろで田擦が盾を突き出し、地場の前で庇う様に獣辺が刹魔を握る。

 衝撃と痛みが全身を突き抜ける。

 身体の軸が壊れるような感覚がして背筋が凍った。

 衝撃が晴れ獣辺は瞑っていた目を開ける。

 出血はしているが致命傷は負っていない。

 前に三人が立ってくれたお陰だ。

 様子を確かめようと前を覗く。


「え?」


 その事実は認識は出来るが理解ができなかった。

 天上と荒狼の上半身と田擦の手が消し飛んでいたから。


「————」

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