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アクマテキ  作者: なん
五章
25/34

決着と

 夥しい量の血液が発射されている。

 蹲る地場に駆け寄ろうとするが堪える。

 いま注視すべきは目の前のデーモンだ。

 幸い静止している。


「俺は……大丈夫です。刹魔で覆って何とか止血しました。……利き手をやられましたが……。それよりあのデーモンの動き見えましたか」


 痛みに喘ぎながら田擦に呼び掛ける。


「いや、見えなかった。動く予兆さえ感じなかった」


 冷や汗が頬を伝う。

 このデーモン、甘く見積って第二種級。片腕の地場の手に余る。私がやるしかない!

 頭蓋を殴打された余波は残っているが戦えない程では無い。

 即座に両腕を刃へと編み変える。

 ばきばきと腕が波打ち膨張して刃と化す。


 集中しろ。些細な動きも逃すな。

 眼球のみに意識を集める。

 デーモンは両手両足を備えているが頭が無かった。

 代わりに股の間に歪な球がある。

 そこに逆さに付いた顔がある。


 倒立をしている人の様に見えるが正真正銘化け物だ。

 その口が僅かに動く。

 !地面を蹴り横に飛ぶ。

 同時に地面が穿たれた。

 一瞬遅れていれば身体と命を持っていかれていただろう。


「口だ!股にある顔の口部分が少し動いた!」


「はい!」


 デーモンの口が動くと同時に二人は動き接近する。

 デーモンは二人と距離を取ろうとするが田擦の腕が刃から縄へ変成しデーモンを絡め取る。

 自由に動けないデーモンの懐へ地場が潜り込み万力を込めて拳を突き刺す。


 ドゴォ!


 正義の左拳が炸裂しデーモンは住宅街を突き抜けながら吹き飛ぶ。

 追い討ちをかけようと二人は脚に力を込める。

 瓦礫の山を蹴って住宅を飛び移りデーモンを放逐せんと向かう。

 田擦は両腕で大太刀を形成し起き上がろうとするデーモンに振り抜いた。

 鋭利な刃が股に付いた首を撥ね


 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!


 絶叫。絶唱。絶倒。

 地球を包むほどの絶叫が木霊し辺りの瓦礫を全て吹き飛ばす。

 二人も空気の波動を受け圧し飛ばされた。

 高速で流れる景色が身体を強張らせる。

 両腕を布のように変成させ全身を覆う。

 そのまま家屋に激突した。


 衝撃が全身を貫くが大した傷を負わずに済んだ。

 両腕を元の形に戻すとリビングでテレビを観ていた子供と目が合う。

 片手に掴んでいた沢山のチョコレートをぼろぼろと落とす。


「逃げて!」


 云うと同時に走り出す。

 安全な場所へ連れて行きたかったが今は一刻も早くデーモンを放逐せねば。

 デーモンを放置すれば被害が拡大してしまう。

 逡巡の後そう判断した。

 子供が握っていたチョコの最後の一粒も当たり前みたいに落っこちた。



 デーモンの元へ駆け寄ると辺りは更地と化していた。

 幸い瓦礫の山が圧し出されただけで人の住処は被害に遭っていない。

 もしかしたら瓦礫の一部が何処かの家に突き刺さって誰かが圧し潰されているかもしれない。

 そう考えると気が気ではない。


 だが目の前のデーモンに対処できるのは今は自分だけ。

 地場の安否も気になるが今は脅威に集中せねばなるまい。

 ぐらつく思考を抑えて瞳に熱を灯す。

 今の広範囲波動は危険だ。でも直前に溜めがあった。

 実際広範囲波動を行う前と行った今では股の顔の大きさが違う。

 あれは顔であり空気を溜め込む貯蔵庫。ならあれに穴を空ければあるいは……。


 田擦は右腕を掴み力を込める。

 想像しろ。創造しろ。

 鋭く、尖り、細く、頑丈で、長く。

 右腕は繊維状に変成し渦を巻きながら絡み合う。

 イメージを明確にしろ。身体を支配しろ。

 確信しろ。

 私の腕は。

 捻じれながら伸びた其れは先端にとがった刃を備えている。

 槍。


 全てを貫かんとする意思が具現化した。

 敵を見据える。

 今は唯あいつを貫く。それだけ。

 田擦は疾駆した。


 広範囲波動を撃つ直前に右腕を叩き込む。

 今厄介なのはほぼモーション無しの局所的波動。

 範囲は小さいが当たれば必死。

 口の動きを捉えつつ接近し溜めの瞬間で懐に入り込む!


 微細な口の動きを感知し横に跳ぶ。

 刹那地面が抉れる。

 ギリ反応できる。

 勢いを殺さず駆ける。

 体勢は低く、腕を構えつつ。

 口が動く度に跳び、転がり、止まり、進む。

 連続で発射される波動を走りながら避ける。

 当たらないことに苛立ったのか股の顔が大きく膨れる。


 今!!


 大きく踏み込み地面を蹴り込む。

 全身の力を一転に集中し全力を以て腕を発射する。

 空を穿ち迫る槍先。

 其れが届


 ぼっ。


 目の前からデーモンが消失した。

 いや移動した。

 どこへ?

 上空だ。

 広範囲波動の範囲を絞り地面に発射した。


 結果大きな跳躍を可能にした。

 其れだけでなく波動を連続で行うことで空中移動も可能にしている。

 空を泳ぎ回るデーモンは悠々とこちらを見ている。

 まるで子供の様に無邪気な笑顔を向けてくる。


 軌道が捉えられない。

 決死の一撃を躱され体勢を整えるのに時間を要する。

 其の隙を怪物は見逃さない。

 波動の勢いで接近し田擦の顔面に波動をぶつけるその刹那、拳が危機をぶち破りそのままデーモンの顔面を捉えぶっ飛ばした。


「遅れました。田擦さん」


 其の拳を持つ男は禍々しい純白の鎧を身に纏っていた。


「地場……その姿」


「ええ。右腕から溢れる血液を刹魔に与えて強化しました。ここまで血を与えるのは初めてなのでリスクは大きいでしょう。なので最短で放逐します」


 禍々しい兜に覆われて顔が見えない。

 その目にあたる部分が爛々と赤く輝く。

 初めて見た地場の『血発』。

 鎧の所々も紅蓮に染まり鬼を彷彿とさせた。


「ああ、そうだな。ここで確実に放逐する……!」


 腕を編み直す田擦も瞳に熱を灯す。

 デーモンは怒り狂ったように口から唾液を撒き散らし地団駄を踏む。

 地面に波動を当て跳躍。

 空中で波動を連射し移動する。

 羽虫の様に空を我が物にする。

 お互いに背中を合わせ死角を補う放逐官。


「私があいつの移動範囲を制限する。そこを叩いてくれ」


 田擦は広範囲波動を受けて身を守った時の腕を思い出す。

 帯状に腕を変成させ其れを細かく。

 攻撃のタイミング探す二人を囲うようにデーモンは飛び回る。

 五、十、足りない、二十。

 思考する。細かく且つ強く。

 左右それぞれ十、合計二十の帯が完成する。


「大人しく落とされろ!」


 帯を一気に展開する。

 飛び回る獲物を蛇の様に四方から追う。

 流星の様に舞うデーモンを捕える為帯は加速する。

 高速で避けるデーモンに絡みつくような軌道で追う。


 デーモンはさらに加速し逃れようとする。

 速度に追いつけない帯が幾つも空を切る。

 だが先回りした帯が足に巻き付き次々に帯が絡めとる。

 ミイラの様に絡んだ帯が風船の様に膨れ上がり四散する。

 広範囲波動。


「ぐっ」


 幾つかの帯が破れ血が滲む。

 皮膚が焼けたような痛みを覚える。

 帯を鬱陶しく感じたのか真っ直ぐ田擦に向かって来る。


「来いよ」


 余りの速さに姿がぶれる。

 だが来ると分かっていれば反応できる。

 裏返すように放逐官達は位置を入れ替えた。

 目の前に迫るデーモンに構えた左拳を叩き込む。

 そのまま地面に叩きつける。


 ドゴオ!


 コンクリートの地面がガラスの様に放射状に砕け振動する。

 衝撃と土煙が走り回る。

 吹き飛んだ田擦は直ぐに体勢を立て直した。

 衝撃の余波で髪が靡く。


 強化された刹魔の威力は想像を絶するものだった。

 それでも力が強い分使用者のリターンも大きいはずだ。

 地場とデーモン、両方を注視する。

 地場の拳が敵の顔に減り込んでいた。

 拳を引き抜くと腕から血が噴き出す。

 超力の代償は軽くないようだった。


 車に轢かれた虫の様に潰れたデーモンは微動だにしない。

 ひしゃげた異形を前に鎧を纏った男は片膝をつく。

 決着だ。



 痛みが突き抜けて体の中を駆け巡る。

 骨が軋み肉が千切れ皮膚が破れる。

 全身から血が漏れる。

 反動がでかい。地場の視界がぐらつく。

 目を閉じて深呼吸をする。

 空気の行き来にのみ意識を向ける。

 駆け寄った田擦が背中を摩ってくれる。


「田擦さん……腕が」


 見ると田擦の腕は皮膚が剥がれ肉が剝き出しに成っていた。


「大丈夫だ。私はこれくらいで済んだが地場は重症だろう」


 心配一色の瞳をこちらに向けてくる。


「まあ少し休みたいところですね。ああ痛えなくそ」


「地場……」


「大丈夫です。少し休んだら仲間のところへ行きましょう」



 優しい声音で語っているが相当堪えている筈だ。

 鎧の中の傷んだ姿を想像し胸が締め付けられる。

 私があの時デーモンを貫けていれば。

 私がもっと強ければ。


「あーあ」


 突如鼓膜を揺らした声に全身が警戒する。


「こんなんなっちゃって。可哀そうとか思わないのかあ?」


 突如として現れたそれ。

 声の主を捉えて戦慄した。


「全く以てひどいぜ。この感情、どうしてやろうか」


 驚愕に頭が支配される。

 唐突な出来事が連続して頭が追いつかない。

 声の主は全身が白くデーモンにしか見えない。

 そしてその姿かたちは肌が白いだけの人間にしか見えなかった。


「お、びっくりしてる?その感情はびっくりだよね?」


 全身が警鐘を鳴らす。

 身体が強張る。


「僕は紛れもないデーモンだよ。皆とはちょっと違うかもだけど」


 デーモンとは人間が猿の頃から存在している異形だ。異形なんだ。

 其の形は様々で人型に近い個体も存在する。

 だが目の前のこいつは明らかに人間の形をしている。

 まして人語を操るなんて。今まで聞いたこともない。

 衣服も纏い完全に人間の格好だ。

 警戒と不可解がぐちゃぐちゃになり頭の中を埋め尽くす。


「なんなんだお前……!」


 自然と出た言葉。


「僕は白情——ハクジョウ——。以後お見知りおきをっ。あ、でも君ら二人は死ぬんだけども」

 云いながら手を(かざ)す。


「近くにいた放逐官どもを狩っといてよかった」


 其の言葉に地場が反応する。


「まさか……俺の班員を……!」


 力を込め立ち上がろうとするが全身が悲鳴を上げる。

 攻撃するには遠い!避けるには地場を抱えなきゃならん!

 傷ついた手で盾を変成するが。


「それじゃ無理でしょ」


 翳した手を思い切り振るう。

 見えない力の塊が突進し放逐官を襲う。


 ドォ!


 力の塊が破裂し放逐官に直撃する。

 衝撃が拡散し土煙が生まれる。


「はい。おしまい。なんだか虚しい感情だな」


 大仰に肩を竦めて見せるがその行動に感情は伴っていないように見える。

 土煙が晴れ、死体を確認しようと目を凝らす。


「ったくうちの班長はよー」


 怠そうな声を吐き出すそいつは。そいつらは。


「お前ら!」


 地場の歓喜の声が響いた。

 刹魔を合わせて盾代わりにすることで二名の放逐官を守ったのは。

 地場の班員である三名の放逐官だった。

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