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アクマテキ  作者: なん
四章
23/34

もっと

「大丈夫ですか?手当しますね」


 細身だがしっかりと筋肉の付いた肢体には刹魔が装着されていた。

 関節部に歯車のような装飾が付いた真っ白な鎧。

 動きやすさと頑強さを両立させた地場の相棒。

 其の拳で人間を殴ったのだ。

 田代は最悪死んでいるかもしれない。


 それを歯牙にもかけずに拘束を外し手当をしてくれる。

 今は私の状態を確認することに全力を注いでくれている。

 良い友人を持ったな。伊達寺。


「他に異常はありますか?」


 優しさを孕んだ真剣な目に吸い込まれそうになる。

 昔は私もこんな顔をしてたのかな。


「田擦さん?大丈夫ですか?」


 っ。


「ああ。大丈夫。頭をやられてぼうっとしてしまっただけだ」


 立とうと地面を押す田擦を支えつつ周囲を警戒する。

 地場の目線の先には項垂れたままぴくりとも動かない田代。

 襤褸(ぼろ)雑巾のような姿に死んでしまったかと思ったが口から赤黒い血を吐き出した。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 廃れた状態でぶつぶつと何かを垂れ流す。

 その姿を見て同情のような哀愁のような感情が泡のように生まれる。

 ひどい仕打ちを受けても溶岩のような怒りを覚えることはない。

 唯々可哀そうだと、他の道はなかったのかと、どうしてこんな風に成ってしまったのかと思う。

 地場も同じことを思ったのか少し目を細める。


「僕は犯罪を犯す人を理解してあげたいと思ってます。人の選択には環境が伴ってる。人の悪意を受け続けた人は他人にも悪意を向けるように成る。救ってあげたいと思う。でもハッキリ云えます。この行動は間違ってる。正しさなんて人によって変わりますけどこの行動は正しくはない」


 地場の口から目から全身から爛々と正義が滲む。

 地場は目上の人には僕に一人称を変えるのか。

 真っ直ぐな信念に触れながらそんなことを考えた。

 今の私にはこれ程の信念は無い。

 私はこれからどうすれば良いだろうか。

 どうするのが正しいのか。


「ぐぶっごぽっ」


 洪水のように血液を吐き出す田代。

 デーモンと戦うための兵器をその身に浴びたのだ。無事なのが不思議なくらいである。

 様子を見るに直ぐに治療しなければ間に合わないだろう。

 一歩また一歩と接近する地場を呼び止める。

 地場はその意を察したのか少し立ち止まる。


「大丈夫です。殺しはしません。犯した罪は償うべきですから」


 ボロボロの田代を担ぎ上げる。


「帰りましょうか。機関に聞きたいこともありますし」



「匿名の通報を受けたんですよ。機関から」


 先刻の部屋は地下室だったようで階段を上がるとリッチな美容室になっていた。


「Reoって場所にデーモンが出たって云う通報だったんですけど。それ以上の情報が無いみたいで。近くにいる僕らに連絡が来たんですけどイタズラの可能性もあるから手が空いていれば向かって欲しいって言われまして。其の時デーモンの放逐中だったんですけど妙な違和感というか胸騒ぎがしたので僕だけこっちに来たんです。僕の班員はむしろ早く行けって言ってました。それでここに来たんですけど誰もいなくて。イタズラかと思ったらなんか刹魔が疼いたんですよ。部屋を詳しく調べたら地下室への扉を見つけまして。男の声が聞こえたんで直感で殴りました」


 田擦が質問するまでも無く地場はここに来た経緯を説明してくれる。


「でもおかしいですよね。イタズラなんてよくある事ですけど今回は放逐官が襲われてた訳じゃないですか。ましてや田擦さんという特別な存在が襲われてるのに機関が気付かない筈が無いんですよ。田擦さん。何があったか教えて貰えますか」


 外に出ると月光が二人を淡く照らす。

 そうだ。地場には言わねばなるまい。

 地場は数多の放逐官を引っ張って行く存在になるだろう。

 彼には知っておいて欲しい。

 魔的対策機関の中にも悪意があることを。

 悪魔がいることを。


 田擦はぽつぽつと話し始める。

 機関の中に私を殺そうとしている者がいること。

 その者たちが犯罪者を利用して私を殺そうとしたこと。

 その犯罪者の情報は改竄され機関のデータバンクを調べてもおかしな点が無かったこと。

 地場が担いでいるその男は常習的に殺人を行い自身の両親も手にかけたこと。

 殺人の動機は髪への執着であること。

 私はもう機関には居られないこと。


 くすんだ表情で話す田擦を地場は真剣に見詰める。

 その感情は憤怒か哀愁か。


「私を殺そうとしてるのは情報を改竄できるくらい上の人間だ。若しくは機関全体が私を殺したいのかもな。どちらにせよもう機関にはいられない。このままじゃ地場みたいな放逐官に迷惑がかかるしな」


 ああ。なんだろう。泣きそうだ。私は放逐官を続けたい。でももう無理だろ。私を殺そうとしている組織に居続けるなんて。それに地場の様な放逐官が巻き込まれるかもしれない。私の所為で誰かが傷つくなんて許せない。自分を許せない。正義が揺らぐなんて許せない。


 ぼろぼろと大粒の涙が溢れる。

 思いが溢れる。

 私は人助けをすべきだ。人助けをしたかった。もっと誰かの役に立ちたかった。でも機関に居ることで誰かの邪魔になるのなら。私はこれからどうしたらいい?戦うことしか知らない。戦うことしか価値がない私はどうしたらいい?


 私はもっと。もっともっと

 もっと

 もっともともっと   もっと

 もっともっともっともっともっと

 もっともっと

 もっともっと

 もともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともともっともっともっともっともっともっともっと。


 もっと伊達寺と一緒に放逐したかったなあ。

 溢れる涙を手で受け止めようとするが止まらない。

 無力感が、自身の存在価値の希薄さが心を突き刺す。

 私は何の為に生きてるの?

 悲しみの海に心を攫われる。


 私は。

 ほん。

 と温かい何かが頭に触れる。


「すみません。失礼ですよね。嫌だったらいってくださいね。田擦さんを見てると勝手に動いちゃったっていうか」


 地場の瞳は潤んでいる。

 地場の優しい心が、手が私に触れる。


「なんとかしますよ。あなたがここに居られるように。自分を少しでも好きになれる様に。あなたは一人じゃない。貴方の傍にはぶっ飛んでるけど頼りになる僕の友達がいます」


 元気を、勇気を分け与えてくれる。


「パートナーっていうのは一心同体。大切な片割れであり自分自身でもある。少しぐらい身を預けていい。少し困らせるくらいがちょうどいい」


 頭から手を放し微笑む。

 少しだけ前を向ける気がした。


「今の言葉は僕の彼女の受け売りなんですけどね」


 自分を照らす月の光がいつもより強い気がした。



「とりあえず僕の班員と合流しましょう。もう少し頑張れば病院の寝心地のいいベッドで寝れますよ」


 人殺しを担ぎながらも場が和むように振舞ってくれる。

 本当に良い友人をもったな。伊達寺。まあ私もいい相棒を持ったと云えるか。

 思わず口元が緩む。

 なんだかんだ伊達寺との放逐はやりやすい。

 息が合うと云うか。

 まあ真面目に仕事してくれればもっとやりやすいが。

 伊達寺、今お前は何処で何をしてる?

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