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アクマテキ  作者: なん
四章
22/34

助けは来ない

 「おい!!」


 若い男が怒号を飛ばす。

 相手は微動だにしない。

 ただ血を垂れ流す存在と化している。

 それの髪を鷲掴みながら「起きろ!おい!」としつこく叫び散らす。


 男は部屋の監視をしていた。

 何をしでかすことも出来ないだろうが念の為監視を任されていた。

 気を抜きつつも監視をしていた男の目は異変を捉えた。

 部屋の中の男が急に項垂れ出血しだしたのだ。


 責任感と保身感に駆られ部屋へと入り今に至る。

 他の者に知られては自身の立場が揺らぎかねない。

 立場上失敗は許されないのだ。

 目の前の男に死なれでもしたら問題だ。

 男は冷や汗をかきながら止血しつつ呼び掛けを辞めない。

 呼び掛けというより咆哮に近いが。


「おきろ!絶対しぬなよ!おきろって!」


 言葉だけなら死を拒んでくれる味方にも見えるがただ自身の失態を無くしたいだけである。


 くっそ!もっと注意してれば!いやちゃんとみてただろ俺は。そもそもあの人の下に付いたのが間違いだった。


 後悔を滲ませつつ止血が完了した所で男は顎に衝撃を感じそのまま意識を失った。



 伊達寺の思惑はこうだ。

 自分を生かしているということは相手は問題を大きくしたくないということだ。

 放逐官が部屋の中で椅子に縛られて死んでいたら問題だろう。

 ならば。

 伊達寺は身を捩りきつく硬い縄を肉に食い込ませる。

 食い込んだ縄は服の上からでも肉を抉り出血を伴った。

 痛みが暴れ回る。

 そのまま頭を下げる。


 恐らく変な事をしないよう監視が居るはず。

 そいつが異変に気付けばこの部屋に入ってくる筈。

 案の定入って来た男は顎を頭突きされ気を失っている。


 伊達寺は椅子に縛られたまま倒れた男の懐を探る。

 連絡用の端末を探し当て操作する。

 知らない連絡先が羅列され唯一知っているのは機関のみ。新たに登録も出来ない。

 電話をかける事も出来ず連絡方法はメールのみ。

 そのメールも内容が精査され伊達寺が打った文章は送信前に削除されてしまう。


 仲間に助けを求めることが出来ない。

 徹底した情報守護システムに為す術がない。

 更に端末を操作すると何やらメモが出てきた。

 内容は理解出来ないものがほとんどだったが気になるものが幾つか。


 例の男を魔飼い物処分に利用。

 処分場所は美容室Reo──レオ──。

 魔飼い物の相棒は部屋に監禁。監視もつける。

 悪意の一端を垣間見て伊達寺は不機嫌になった。


「クソみてぇなこと考えやがって」


 向かうべき場所は分かった。

 先輩はそこにいる。

 だが自分は行けない。

 微かに足音が聞こえてきた。

 異変に気付いたクソ共がこの部屋に向かっているのだろう。


「クソが」


 放逐官はデーモンを殺すのが仕事だろ。なんで人間殺そうとしてんだ。

 何も出来ない無力感や嫌悪感を言葉にして吐き出すがすぐに虚空に消えてしまった。


 +++


 今考えれば納得がいく。

 人を殺して髪を幾つも収集している奴の情報を機関が持っていないわけが無い。

 機関は犯罪歴などの情報は確実に保有している。

 今まで見つからなかったとしても痕跡が残るはずだ。

 情報の改竄。それしかない。

 情報の改竄となればただの放逐官には出来ない。

 上の者。機関の中枢の人間が絡んでいる。

 若しくは機関全体の意志か。


 もう何も感じない。

 私は必要ない。

 ああでも。

 なんか申し訳ないな。

 伊達寺ごめんな。

 お前だけだったよ。

 私を信頼してくれたのは。

 純粋な感情じゃなくても。

 デーモンを一緒に放逐するのに効率の良い奴だと思われていたとしても。

 私を私として認めてくれていた。

 それだけでもう。


 頬を上気させながら鋏を近付けてくる田代。

 それを虚ろな目でみる。

 私はこの男に殺される。

 私の人生これで終わり。

 何も成せず誰も助けられず。

 放逐官として活動を認められた時は嬉しかった。

 自分も誰かの役に立てるのだと。


 罪の償いの機会を得ることが出来て幸福だと感じた。

 人は助け合いながら生きている。私もその輪に入れるんだ。

 溢れんばかりの思いを抱えてひたすらデーモンを放逐した。

 デーモンを放逐すればその分人が助かる。

 感謝もされた。

 こちらが感謝したいほどだった。

 放逐することでしか自分の価値を見い出せないのだから。


 放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して放逐して。


 それでも足りない。

 魔飼い物のレッテルは風化しない。

 死の山が高くなる毎にそのレッテルは存在感を増す。

 戦いを見た市民からは化け物だと恐れられ仲間からは敵意を向けられる。


 続けていればいつか報われるんだよね?

 この行為に意味はあるんだよね?

 私いつまで続けたら良いのかな。


 時々後ろを振り返る。そこには夥しい死体の山だけがある。

 渇望していた人々の笑顔はそこには無い。

 人間の笑顔は私に向くことは無い。

 私は魔飼い物だから。

 私は紛い物だから。

 人間じゃないから。


 不安が焦りとなり焦りは失敗となる。

 どれだけ放逐しても最も低い第四種放逐官から進めない。

 出世すれば出来ることも増える。

 特種放逐官になって沢山人を助けるんだ!

 そんなふうに思っていた時期もある。

 今はそんな未来は曇ってしまって見ることが出来ない。


 そんな暗がりを彷徨っていた時に奴は現れた。

 放逐官養成学校を経ずに放逐官になった実力者でありながら破天荒な言動をする問題児。

 チームに加えても他の放逐官が引っ掻き回されてしまう。

 だから私と組ませたんだろう。

 問題児同士のコンビだ。

 でも結果的にそれが良かった。


 ハミダシモノの親近感かそれ以外の何かか。

 二人は唯一お互いを理解し合えた。理解と云うより存在を認め合えた。

 通常の人間には不可能な戦い方をする田擦と通常の人間には不可能な思考で戦う伊達寺。

 単純に相性が良かったのだ。

 お互い何でも云い合えた。

 本音を云っていたのは私だけかもしれないけれど。

 欠かすことの出来ない存在になっていた。


 ああ。

 ごめんな。

 ほんとごめん。


 もう一度会えたならそう言ってやりたい。そう云いたい。

 でももう会えないだろう。

 次に会う時は私は死体になっているだろうから。

 ああ。

 虚ろで光を反射しない瞳。

 感情さえ吸いこんでしまいそうなその瞳から大粒の雫が一粒流れる。


 まるで関係がないかのように無慈悲な刃が近付く。

 ヂョキヂョキヂョキヂョキ。

 髪を切り離し眺める。

 表は黒、裏は白という歪な髪色を気にも留めず穴が開く程見詰める。


「奇麗だ」


 死にたての新鮮な髪のことを想像して愉悦に浸っている。

 助けは来ない。来れない。

 全て秘密裏に行われているだろうから。

 でも。

 最後に希望を持っていいのなら。

 最後の最後に我儘を言っていいのなら。

 田擦の乾いた唇が開きか細い願望を紡ぎ出す。

 ただ一言。


「伊達寺」


 鋭利な鋏が首の皮を裂くその刹那、拳が壁をぶち破りそのまま田代の顔面を捉えぶっ飛ばした。

 その拳を持つ人間を田擦は知っている。

 よく知っている。

 第二種放逐官。


「助けに来ました。田擦さん」


 地場念正。

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