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アクマテキ  作者: なん
三章
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獣辺一土について

 獣辺一土──けもべ かづち──は己の手を見詰めていた。小さなその手。

 獣辺は歯噛みした。


 自分は巨大デーモンの脚を両断できなかった。

 悔しい。地場さんの役に立てなかった。

 見上げるとそのデーモンは斃れている。

 斃れてなお巨大な影は獣边を覆う。

 周囲は太陽によって照らされているのに自分だけ暗い何かに取り残されたように感じた。


「地場さん……」


 思わず地場の元へと向かう。

 自分の力不足により負担をかけてしまった。

 謝らなきゃ。

 謝ってどうにかなる問題では無いことは承知している。

 班長に命を賭けさせたのだから。

 だが謝罪以外に贖罪の方法を知らないしそれをしなければ罪の意識で潰されそうだった。


「地場さん……私」


 こちらを向いた地場は酷く辛そうな顔をした。

 なんでそんな顔するの?

 今思えば自分が相当酷い顔をしていたのだろう。

 自分の実力不足を痛感していた。

 実力不足を痛むほど感じていたのだ。其れが顔に出ていた。


「────」


 私が何か云うのを遮って地場さんはこう云った。


「ありがとうな。一土のおかげでデーモンが放逐できた。助かった」


 ああ。

 ああ、なんだろう。この人は。


 私を労いながら頭を撫でてくれる。

 この人は本当に。

 まるで快晴のように。

 地場念正は本当に、どうしようもなく善人なのだ。

 この状況で感謝の言葉を紡げるなんて。

 胸がじんわり熱くなる。


 本当に。

 どうしょうもなく。

 どうしようもなく。


 私はこの人を愛している。


 恋人がいることは知っている。

 でも。

 地場念正を本当に愛してしまっている。

 私はそれを痛感していた。


 +++


 傍らに生物の死体があるにもかかわらず伊達寺の心は澄んでいた。

 覆いかぶさった澄んだ空を伊達寺は見詰める。

 空を見ると距離感が分からず思わず吸い込まれそうになる。

 このまま見つめ続けていれば空になれるのではないかと思っていた時期もあったような。

 血が溢れ続ける手を押さえつつ田擦が居るであろう方向に体を向ける。

 体質的に無事だろうが恐らく無傷ではあるまい。

 ズキズキと痛みが駆け回る身体を叱咤し歩みを進め────。


 どっ。


 黒い影が伊達寺に覆いかぶさった。

 急に暗くなる視界は違和感より危機感をもたらした。


「がちかよ( ˙-˙ )」


 先刻放逐したデーモンは家のドアを突き破った。

 今度は家の屋根を突き破り巨大な腹を持つデーモンが姿を現す。

 屋根の破片が伊達寺の傍らに落ち地面に突き刺さる。


「~~~~~~~~~~~~!!」


 体に見合う巨大な咆哮が辺りに響き渡る。

 その咆哮はまるで怒りを吐き出しているようだった。


「おっきなデーモン」


 疲れや痛みを飛び越して純粋な感想が漏れた。

 一体どこから現れたのか。まあ別にいい。


「これはあれだろ、アイツみたいなパワータイプが相手にするやつだろ」


 伊達寺の頭に浮かぶのは友人である地場念正。

 その地場がちょうど先刻巨大デーモンを放逐したことを伊達寺は知らない。


「これだから社会人は」


 迫り来る手を見つつ怠そうに呟く。

 壊れた身体に壊れた刹魔。

 一体何が出来る?

 せいぜい時間稼ぎしか出来ないだろう。

 突き出された巨掌を軽々と避け伊達寺はちょこまかと逃げ回る。

 デーモンによって軽々と抉られた地面。


 破片がその手から零れる。

 その手が今度は薙ぎ払わんと迫る。

 あまりの圧力に普通ならば気圧されるだろうが伊達寺はそうならない。

 振るわれた腕と地面の隙間に身体を潜り込ませすれ違いざまに刹魔をぶつけた。


 ガィン。


 と硬い音が響いただけで効果はナシである。


「まあそうだよな」


 先のデーモンの首を撥ねたみたく機能拡張+再起動しても良いがあの巨体と硬さである。効果は薄いだろう。

 手詰まりである。

 今の伊達寺では視界を覆うデーモンを放逐することは出来ない。


「あーーーーー殺したかった」


 押し潰さんと両手が迫る。

 伊達寺は動かなかった。

 避けようと思えば避けられるが自らの意思で動かない。

 このままではペースト状になって死ぬ。

 そんな状況でポツリと。


「お願いします先輩」


 何かがデーモンに向かって跳躍し


 斬!


 唐突にデーモンの体がズレた。

 真っ直ぐ縦に切断された巨体は左右で分かたれ地面に激突した。

 弾け出る鮮血が周囲を赤く染める。

 着地したその人は真っ直ぐ伊達寺に駆け寄った。


「無事か?伊達寺」


 全く無事では無いのだがその真剣で綺麗な顔は正真正銘、先輩である田擦日田向である。


「先輩、デーモンて人間がサルの頃からいるんですよね。何食ったらこんなでかくなるんですかね」


 急にそんなことを云う相棒に呆れて左手で頭を掻く。

 そしてその右腕には刃。

 刃を携えているわけではない。

 正真正銘右腕が刃と化していた。

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