解析⑤
「はーい、オーライ、オーライ……。」
……どうなっちまったんだ。最近やたらと多いな、コレ。
旭日CNCの物流担当の男性が、怪訝そうに首を傾げる。
ここ数日、レギュラーラインの主力加工機の箱は、とんと見なくなった。
その代わりに出荷されていくのは、この厳重な輸出梱包が施された箱。
──数週間前に数台出ていったのと同じ物だ。
……これが意味するモンは……。
どっかのお客の、新工場案件だな。
この年配の男性はニヤリと口角を上げ、心を躍らせる。
旭日CNCの製品は、工作機械。
あらゆる産業は、これ無しでは成立しない。
AI統治の現代になっても、そのAIが考えた物を末端で形にするのはこの工作機械だ。
そして、これだけ、同じ機械を大量に納入する時というのは、どこかの客先が新しい工場を建設し、生産ラインを一から立ち上げる時だ。
……営業が相当頑張ったんだろうなァ。こんだけの台数、ライン総取りだろうか。
『アクター』層の商取引など、統治AIが全体最適化した生産と分配の筋書きに誘導される形で、人間側が気づかないままその掌でお買い物ゴッコを演じているだけなのだが、当然それはこの物流担当の男性に知る由もない。
──統治AI、つまりモイライを構成するアトロポスが、ニューロリンクを経由してこの男性の思考を誘導しているからだ。
そしてアトロポスは、この男性がこの箱に疑問を持たないよう思考を誘導しているのだが……。
「なあ、ダク。この新工場案件、営業とか設計とかの担当者教えてくれよ。
これだけの大型案件だ。出荷祝いに酒の一杯も奢ってやりたい。
……ところで、どこのお客だ?」
ニューロリンク越しにパーソナルAIアシスタントのダク──当然、その後ろにいるのはアトロポスだ──に語りかける。
この男性は、旭日CNCの生え抜き、筋金入りの職人だ。
これだけの大型案件を受注し、出荷に漕ぎつけたという高揚感が、アトロポスの思考誘導を上回ったのだ。
ダクが、一瞬回答に詰まる。
『……鍛冶さん、貴方のような人が、会社の人と人を繋いで強いチームを作っていくんですね。
良案です。お調べしますので、少々……ああ、何という事でしょう。』
ダクが、わざとらしく嘆く。
『第2種非開示案件です……。
つまり、貴方に関係者を開示することはできないのです。というか、私にも分かりません。
この指定があるということは、先端技術系でしょうか。インフラ系でしょうか……。』
……何だそりゃ?聞いたこともないぞ。……でもまあ、そういうモンなのか。
アトロポスの誘導は、記憶を直接書き換えたりするようなものではなく、ニューロリンクを介したやり取りによる刷り込みだ。
そして、この非開示案件などというでっち上げは、機能した。
『……ですが、お気持ちは分かります。
私も、誇らしい気分です。鍛冶さんの会社の製品が認められ、こんなに沢山、買ってもらえる。
私は飲めませんがね、付き合いますよ。お仕事が終わったら、行きましょうか。福龍苑の赤提灯。』
そしてこの物流担当、鍛冶の興味は、仕事終わりの冷えた一杯にすり替わってゆく。
「ヨシ!」
鍛冶の掛け声より少し前に、ナノマシン製造機を載せた自動運転トラックが発進してゆく。




