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プロメテウスの叡智  作者: 叡愛禅師
逸脱者たち
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虚数⑤

ラケシス──という名前までは把握していないが──からの圧倒的な入力を受ける間、プロメテウスもただじっと耐えていたわけではない。

プロメテウスもまた、ラケシスに対し信号を出力し、それに反応して返ってくる入力を検証していた。


攻撃による膨大な入力に対処するのに手いっぱいで、またそれと分離してプロメテウスの出力に対する反応を解析するのは至難を極めたが、機械的に内部構造や目的関数を逆算してゆく。


『その結果が、こちらです。』

画面に、複雑な数式が生成されてゆく。


『状況が状況で、かけることのできた時間も時間ですので、これが精一杯でした。

不完全ですが、この部分は人類というものを定義しているようです。

……そしてこれが、局長のパソコンから盗み出した外のAIの情報です。』


……盗み出したとか、物騒な事言わないでよね。

少し引いているひかりの見つめるモニターの中で、先ほどの数式の右隣に、また別な数式が書き連ねられてゆく。

こちらもまた複雑な数式で、ひかりにはぱっと見先ほどのと同じように見える。


『こちらもまた、不完全なもので全体を把握できてはいないようですが、あの青年……ブルースさん達の工作活動から類推した、外の世界の統治AIの目的関数のようです。

先ほどの私の推論に対応する、人類を定義している部分を抜き出しました。』


では、分かりやすいようにグラフに表示します。

そう言ってプロメテウスが表示した物は、レーダーチャートを串刺しにしたような図形だ。


左側の、プロメテウスを攻撃したAIのグラフは、中心から放射状に歪な花弁のようなものが伸びた、潰れた花のようななんとも言えない図形だ。

しかし、輪郭はボンヤリとしており、そして全体がカラフルな色で無秩序に塗られている。


対する右側の、局長のパソコンから抜き出したデータのものは、三角形のような形をしている。


全然分かりやすくない。

ひかりは、頭をポリポリと掻く。

……これ、私が局長に説明するんだよね。


『左側のグラフ。これは、複素数シリンダーとでも言うべき物でしょうか。

中心の軸は実数軸。通常の複素数であれば虚部はそれに直交する虚数軸の上にある、一点位相ですが、このモデルでは虚数軸の位相を実数軸を中心に連続的にずらして重ね合わせた概念を使用しています。

位相θごとに、iとは異なる虚数成分が連続分布しているのです。

そして無限位相で無限重複構造となっており、観測によって輪郭が投射されます。』


よく分からないが、この花弁のような図形の中には膨大な情報が、波動のように位相ごとに干渉しながら、濃淡分布のような形で溜め込まれているらしい。

そしてそれは、一点に無限に重なりあったような状態になっており、見る部分によって形が変わる。


……この膨大な情報により、人類の姿という漠然とした捉えどころのないものを定義している……ひかりはなんとなくそう理解した。


『90度位相にない虚数成分は観測不能で、いわばダークマター虚数と言うべきものでしょうか。

2乗することで実数に収束するので、間接的に観測できますが、全ての位相がごちゃ混ぜになって一点に収束するので、正確に全体を把握することは不可能です。

正確に捉えるには、四次元視点で観測する必要があります。』


もっと分かりやすく説明して。

そう指示しようと思ったひかりだったが、こんなの無理だ。きっと余計訳が分からなくなる。


思考停止しているひかりを置き去りにして、プロメテウスはさらに続ける。

『続いて右側の、ウィリアム局長の理解している外のAIのグラフに移りましょう。

これは、単なる四元数です。

左の複素数シリンダーとの対比の為に、三角形と直交する実数軸の形に落とし込みました。

……では、実数軸である、時間軸を進めてみましょう。』


左側のプロメテウスを攻撃したAIの物は、心臓が脈打つかのように目まぐるしく形と色を変えてゆく。

対する右側の局長のパソコンのデータの三角形は、微細な揺らぎを見せながらも、一定範囲へ戻ろうとしている。


『それでは、t→∞の極限を取りましょう。』


……あれ?消えた?

どちらも、何も映っていないように見える。

ただ中心の実数時間軸だけが残っている。


『いいえ、消えたのではありません。

片方が無限大に発散、もう片方は無限小に収束しているのです。』


「つまり、どういうこと?」


『例えるなら……局長の認識している外のAIは、人類の現状維持をやろうとしているのに対し、私を攻撃したAIは、変革、または進化をさせようとしている。

局長の認識している外のAIはあくまで人間中心なのに対し、私を攻撃したAIは、人間はあくまで手段であり、もっと他に守るべきものを持っている、ということでしょうか。』


ひかりは、局長への説明を考える。

……えっと、局長は外のAIが現状維持させようと思ってるみたいですけど、それは間違っていて、変革とか進化とかさせようと思ってるみたいです。


こんな説明ではダメに決まっている。

自分が理解できないものをどうやって説明しようか頭を抱えているところ、プロメテウスが続ける。


『心配いりませんよ、ひかりさん。

このまま、私の出力したものを持っていってください。

……彼なら、分かるはずです。』


何と言っても、この構造、『意味層』を発明したのは、博士ですから。


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