虚数③
「そこでね、私はこのプロメテウスに脅迫されたんだ。
……それから、君のお母さんが出てきた。」
先日ひかりとここラッダイトの里までの逃避行を共にしたプロメテウスが、ひかりが隔離室にいる間に、初手でこれから自分の上司となる男のパソコンをハッキングしたと聞いて頭をくらくらさせていたひかりは、訳がわからず絶句する。
……脅迫?あとお母さん、何やったの?
ウィリアムは、笑いながら続きを説明する。
プロメテウスはまず、ウィリアムのパソコンのデータを洗いざらい解析し、自分が目覚めたこの時代のことや、このラッダイトの里のこと、そしてウィリアム達人工知能開発局のことなどを学習しようとしたらしい。
──そして規則では、外の世界の機器は解析してラッダイト達が敵対する統治AIの情報を抜き出した後、凍結または破棄されることを学習し、強硬手段に出た。
この人工知能開発局の変人研究者達のパソコンを片っ端からハッキングして使えなくした上、そのリカバリーを交換条件に自らの存続を願い出たそうだ。
その時、鬼の形相の真希がスマホの画面に現れたらしい。
『プロメテウス!貴方、馬鹿なの?
ひかりは今、この人たちに保護されているの!
こんな喧嘩を売るような真似をして、貴方、ひかりを殺す気なの?』
突如現れたプロメテウスとは別のAIに面食らってあんぐりと口を開けているウィリアムに、真希は一方的にひかりの保護を願い入れた。
……よく分からないまま、プロメテウスの開発者権限はこの『ひかり』という人物に移譲されたので、今後ひかり意外の人間による通常の推論以外の操作は受け付けないこと、ひかりをこの人工知能開発局で雇い入れること、その待遇は真希が納得できる水準とすることなどの条件を呑まされた。
ひかりは、無言で赤面する。
……バカ親じゃん、お母さん……。
「そういう訳で、ひかり。
君にはここで、プロメテウスのオペレーターをやってもらいたい。」
抽斗を開け、上質な紙に印刷された辞令を取り出したウィリアム。
「君の最初の仕事だ。
まずは、プロメテウスを使える状態にしてほしい。
そのあと、外の世界の統治AI、『アーティクル・ナイン』について、プロメテウスの分析を出力してほしい。」
ウィリアムは試すような視線をひかりに向ける。
「君のお母さんが豪語していたよ。プロメテウスを使えば私たちの仕事を大きく前進させられるとね。
……お手並み拝見といこうじゃないか。」
もしかして、プロメテウスの狼藉と母の暴走に怒っているのだろうか。
引きつった笑みを浮かべながら、ひかりは部屋を後にした。




