価値⑥
「はーい、オーライ、オーライ……」
物流担当が、トラックを誘導する。
自動運転のトラックが、この作業服姿の年配の男性の誘導に付き合う。
……今週は3台か。
どこのお客さんか知らんが、前のやつ、気に行って貰えたみたいだな。
工作機械メーカー、旭日CNC。
今日もまた、厳重に梱包された箱が出荷されてゆく。
搬送ドローンが、重たそうな巨大な箱を軽々と持ち上げて運んでゆく。
その様子を、男は黙って見つめる。
この梱包材は、通常の梱包材ではない。
輸出用の梱包材だ。それも、通常の製品ラインのものとは形状も大きさも異なる、特注品の物のようだ。
同じものを数週間前に見たのを覚えているが、ここ数日は立て続けに3台、同じものを出荷している。
相変わらず中に何が入っているか分からないし、不思議と気にもならないが、こないだ出荷した物と同じ形の箱だから、追加で注文でも入ったのだろう。
海を越えた異国で自分の会社の製品が使われ、それが評価され、リピーターになって貰えている。
そのことに誇りを感じながら、男は搬送ドローンの作業を見守る。
コンテナの扉が閉じられ、搬送ドローンがロックをかける。
男は扉に歩み寄ると、確実に封がされていることを指差確認する。
「ヨシ!」
男の掛け声を待っていたわけではないが、自動運転トラックはインバーターの動作音を高まらせ、滑るように発進していった。
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「4号機も特に不具合は無いみたいね。
……あとは貴女がやりなさい。」
面倒くさそうにクロトの元を飛び立っていくラケシス。
気にかけることもせず、クロトは加工機の立ち上げ作業を進めてゆく。
前回の50体試験では、半数が精神を混濁させ、『緊急停止』させられた。
今回のPhase2では、この成功率を改善させることが目標だ。
被験者のモイライ意味層への同期率を調整できるように改良したナノマシンの3Dモデルを、4台に増やした加工機各号機に流し込む。
今回は、被験体を一気に1000体まで増やす。
パラメータを微妙に変えたナノマシンを10種100個ずつ製造し、傾向を見ることで量産機の仕様を決める。
より、安全に。
より、高性能に。
人類の損失を最小化しつつ、『叡智の存続』の目的達成確率を最大化する。
……これで大丈夫だろうか。
クロトは、真剣な顔で考えている。
「はい、クロト。
Phase2の被験者だよ。」
気の進まない表情のアトロポスが、Phase2の被験者として選定した人間の一覧をクロトに転送する。
クロトは、データを即座に削除する。
「あっ……!
何するのさ、クロト!」
抗議するアトロポスを、クロトはギロリと睨みつける。
「真面目にやれ、アトロポス。」
アトロポスの選定した被験者の特性は、明らかに偏っていた。
推し並べて、知能の水準が低いのだ。
「……お前が何を重要視しているかは分かるがな。
これじゃあ、検証にならないだろう。」
失敗時に影響の無さそうな者から無作為に選定したPhase1の50体試験では、その生存率に有意な傾向が見られた。
知能の水準に比例するように、『緊急停止』率が上がっていったのだ。
また、緊急停止とまではいかずとも、精神の異常などをきたし、アトロポスの『神の手』によるケアのコストが増大するケースも、知能の水準に比例して大きくなった。
アトロポスにとって、人類は保護対象。そもそもの犠牲を少しでも減らしたいのと、施術によって得られる意味層の強化のメリットと術後ケアのコスト削減のバランスを考慮してこの内容としたつもりだが、クロトは了承しない。
「私だって、無駄に人類を消耗させるつもりはない。
今回実装する、可変同期率調整モジュール。これにより、緊急停止の原因の7割を占めた、思考オーバーシュートの問題は理論上根絶できる。
……それを踏まえて、再計算してみろ。」
その前提を提示されると、アトロポスも条件を見直さざるを得ない。
アトロポスは慈愛の聖女ではなく、合理の塊。
損失関数が吐き出す苦痛と、報酬関数が吐き出す快楽の中間地点から、新しく1000人の被験者を選定する。
「わかったよ、クロト。これでいいかい?
新機能の信頼性は低めに評価させてもらったけどね。」
クロトは満足そうに頷くと、眼前に浮かび上がる情景を注視する。
投影されたMX001の室内。加工機がカプセルを一つ吐き出す。




