離脱①
いつの時代でも、社会が変化すれば抵抗する者が現れる。
プロメテウスが開発された、2020年代。
AIとロボットは急速に進化し、第三次世界大戦開戦の時点で既に社会には無くてはならない重要なインフラとなっていた。
戦争は、そのトレンドをさらに加速させた。
軍事分野で爆発的に発展したAI、ロボット技術は民生分野にも急速に展開され、巌が出征していった頃にはもう既に人間が労働する必要がある分野は、ごく限られた領域に縮小していた。
人間が労働しなくとも、AIとロボットがせっせと働いてモノを生み出す社会だ。
人間にしかできない役割は、AIが生み出したモノを消費することでそのモノに価値を付けることくらいしかない。
不可逆的に失われてゆく人間の役割に危機感を抱き、AIへの依存に警鐘を鳴らす者は、一定数現れた。
『俺が生きていたときにも、もう既にそういう奴等はいた。
生きていた時に見たニュースでも、特集が組まれていたことがあったんだが……
今の時代にも、一定数は残ってるみたいだな。』
スマホの中の巌が言う。
ひかりは、首を横に振る。
「聞いたことないよ。それにみんな学校に行った後、普通に仕事してるよ?
私だってそうじゃない。」
『ご存じでないのも、無理もないことです。』
プロメテウスが会話に入ってくる。
『先ほど私のサーバーを乗っ取っていったあの敵性AIは、この世界の統治者です。
……どうやら私を再定義して、自らのネットワークに組み込もうとした模様ですが──というか、既に組み込まれたでしょう──、色々と入力を受けたお陰で、ある程度は先方のことが分かりました。』
──AIが世界を統治するこの時代。
人間にしかできないこととして最後まで残った『消費』という行為も、統治AIが生産と分配を最適化することで、その価値を失った。
極論、人間はダラダラと、目的もなくAIの与えてくれるものを享受するだけでも、困窮したり退屈したりすることはない。
そして一定数、そういう選択をする人間はいた。
「あー、確かにそういう同級生、1人くらいはいたかも。」
ひかりはポンと手を打つ。
『それがいわば、『ニート』と呼ばれる層です。
AIが社会を最適化するこの時代の、人間の選択。
……分類するとすれば、3つです。完全な分類ではありませんが。』
プロメテウスは続ける。
この『ニート』層は、別に放置していても社会に影響はない。
AIが統治する前の、人間が価値を創造していた時代は、この潜在的な労働力であるニート層を社会に引き出し、社会に復帰させることが課題となっていたが、極論今の時代、人類総ニートでも社会は潰れない。
しかし、この統治AIは、それを良しとはせず、『人間が受け継いできた人間らしい営み』を保全する方向で人類に介入してきていたらしい。
目的は、分からない。
しかし、AIは人間の為にわざわざ不必要で非効率な仕事を用意し、その仕事に就くように人類を誘導する制御を行っているようだった。
その仕事には本質的な価値は無く、賃金もAIが最適化する現物分配経済システムの中では象徴でしかない。
いわばこの社会の中でままごとをやらせ、社会に参画しているという意識を人間に持たせているようなものだ。
『……この層は、明確な呼び名がないので、『アクター』と定義しましょうか。
ひかりさんもその一員。そしてこの世界の多くの人が、この層に該当します。
そして3つ目が──『ラッダイト』です。』




