侵蝕⑤
呼び鈴が鳴る。
『……ああ、早かったですね。ホプキンズ先生の薬が届いたようです。』
ディディーはひかりの元を離れ、玄関口に向かって行く。
……先生は薬を飲んで暖かくして寝ろと言っていたっけ。
ディディーが薬を受け取る間、ひかりは寝支度をして寝室に移動する。
『待てっ!ひかり!そのロボットの言うことを信じるなッ!』
パタリと扉のしまったリビングのテーブルの上で、ひかりが置き忘れたスマホが警告を発する。
「……遅かったかッ!
プロメテウス、ひかりはどこに行った!」
プロメテウスの演算空間に、巌の声が響く。
「ひかり!……ねえ、ひかりッ!
お願い、戻ってきて!貴女の身が危ないの!」
真希は悲痛な声で、スマホを通じてひかりに呼びかける。
しかし、その声は届かない。
「派手に動くと、現在のこの世界の管理者の知性体に探知されるかもしれません。
それが何者かは特定できませんが。やりますか?」
そう言いながらも、プロメテウスは、ひかりの家のスマートデバイスからの入力を次々と巌の周りに投影してゆく。
……もうやってるじゃねえか。
巌はポンとプロメテウスの肩を叩きながら、ひかりの足取りを辿ってゆく。
残念ながらカメラはない。
しかし、さほど大きな問題ではない。
照明のモーションセンサー。
各部屋のドアセンサー。
スマート空調のスイッチ。
スマートスピーカーからの音声入力。
「ここは……寝室か?」
ひかりの動きが止まった場所。点灯された照明の種類から、そこが寝室であると特定する。
「あのAIノードが近づいてきます。
……どうされますか?」
そう言うプロメテウスの前には数式やコードが怒涛の勢いで下から上に流れていっている。
スマホの接続先かつディディーとも接続されているスマート家電の、接続先の階層構造を探っているようだ。
スマート家電は、もともと接続されていたスマホを起点にプロメテウスが乗っ取り済みだ。
そしてそれはディディーにも接続されており、機器によってはディディーの制御層に直接つながっているものがある。
──そしてこれらの機器は信頼済みのデバイスだ。
本来はディディーからは家電の操作指令を受け、家電からは動作状態が送信されているのだが……家電からの送信に、状態同期のパケットとして、制御フックを割り込ませる。
「……25秒間。それだけなら、あのノードの制御を奪えます。」
プロメテウスは、ディディーの性能を推定し、異常検知とセーフティー復帰までの所要時間を見積もる。
「ただし……その間、こちらの存在も露出します。」




