干渉⑤
『お疲れのようですね、ひかりさん。
少し、体調を見させていただけますか?』
ディディーが、ひかりに話しかける。
……お節介だなぁ、ディディーは。
ひかりはテーブルの上の瓶に立てかけたスマホから目を離し、ディディーに向き直る。
「えーっ、いいよ、ディディー。そんなに疲れてないよ。
そんなに私が心配なの?」
クスリと笑いながら、ディディーを追い払おうとする。
先ほどの晶子氏との意味不明の会話を忘れようと、極力明るくふるまう。
ディディーは軽口で応える。
『ええ、心配ですとも。もしひかりさんの身に何かあったら、誰が私を充電してくれるんですか。
……ひかりさん、貴方の自覚症状以上に、症状は深刻なようです。
体温37.8℃、血中酸素濃度も低下しています。
──対処療法以外存在しない難病、『風邪』が疑われます。』
テーブルの上に立てかけられたスマホは、静粛を保っている。
しかし、その裏ではプロメテウスが、警戒のレベルを一段階引き上げている。
……このAIの言うことは、偽だ。
スマホのセンサーが示す限り、ひかりの体温は正常。
風邪が疑われる症状は、存在しない。
ひかりは、クスクスと笑う。
「大袈裟だなぁ、ディディー。
でも、貴方の薬は飲まないよ。そうやってたまに変な薬盛るような悪いAIの言うことなんか、信じないんだから。」
『なんということでしょう。私は貴方の執事。主人からの信を失ってしまっては、私はどうしたらよいのでしょう……?』
ディディーは、嘆くような仕草で大袈裟に言う。
『──でもひかりさん、貴方のバイタルサインに異常がみられるのは事実です。
私を信じてくれなくとも構いませんが、ドクター・ホプキンズのことは信じていただけませんか?
これからドクターに繋ぎますね。何かあってもいけませんから、診察だけは受けてください。』
ディディーは、人間の医者の姿を映し出す。
──先日、ひかりが事故に遭った際に診察した医者だ。
『ひかりさん、こんにちは。本日はどうされましたか?』
そして、先日の事故の時と同じ声で、ひかりに話しかける。
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「……生成動画だな。」
巌の発言に、プロメテウスは頷く。
「ええ。少なくとも、あのAIの接続先は人間の医者ではありません。」
プロメテウスは、ディディーの通信の中身まで読めているわけではない。
だが、通信先くらいはある程度特定できる。
繋がっている先が人間ではないにもかかわらず、ひかりの向き合う画面の中に人間の姿があるということは、それはフェイクということだ。
「それと、もう一つ。
……この建物の玄関のドアの向こうで、何者かが待機しています。
配達ドローンのようです。」
巌と真希は、顔を見合わせる。
その顔には、警戒の表情が浮かぶ。
プロメテウスの演算空間に映し出された、スマホのカメラの映像中で、ディディーの映す医者の偽映像が診断を下す。
『ええ、これは初期のインフルエンザですな。
貴方のAIは、風邪と言いましたか。とんでもない、再定義が必要ですな。』
先生、それだけはご勘弁を、とディディーの素の声が入る。
ひかりは、クスリと噴き出す。
『……ああ、これは丁度良いです。
丁度、ご自宅の近くに薬の在庫を抱えたメディックドローンがおりますな。
ええ、流行りの季節ですので、在庫は多めに持たせてるんです。
──5分ほどお待ちいただければ、お届けしますよ。』
その言葉に、巌は迷いのない声で言い放つ。
「プロメテウス。介入するぞ。」




