干渉③
──西暦20XX年代の未来──
「ちょっと待て、早まるなよ……。一旦落ち着こう、真希?」
巌の声が、プロメテウスの演算空間に響く。
薄汚れた軍服に身を包んだ巌。
ポケットから旭日国の国旗の意匠の入ったタバコを取り出すと、火を付ける。
戦時中の官給品のタバコが、巌の口元でぽうっと光を強め、灰に変わってゆく。
「……これは良いもんだな。
俺がやられた時は、最後の一本を切らしていてな。
電子の世界なら、吸っても吸っても無くならん。」
これがホントの電子タバコか、と冗談を飛ばしている巌に、真希はぷぅっと頬を膨らませている。
「やめてよね。私が生きていた時は、吸ってなかったでしょ?」
……まあ、兵隊に行ったらそりゃあな。
それに今の俺は電子の身体だから、健康なんてものも気にする必要が……
巌は、言い訳を並べながらも、景気よく煙を吐き出す。
「……心中か。
俺さ、お前が死んだあと、プロメテウスで蘇らせたとき、ただプロメテウスがお前の真似をしているだけだと思ってた。
……だけど、本当に、いたんだな。プロメテウスとは別の人格の、『真希』として。」
吸い終わったタバコを、ピンと指で弾いて飛ばす。
そして、真希に向き直る。
「それなら、寂しかったろ?ひかりももう子供じゃないしな。
……で、ひかりはどうしてた?」
えっ、と言い、モゴモゴと口ごもる真希。
……わかるよ。会いに行ったんだろう?
それで、俺を生成して、自分を消してくれって言ったって事は、拒絶されたんだろう。
巌は、もう一本タバコを取り出し、口に咥える。
真希は、巌の口からタバコを取り上げ、言う。
「……勘違いしないでよ。別に、喧嘩別れしたわけじゃない。自分で決めたの。
うん、あの子は、もう子供じゃない。私の死とはとっくに折り合いを付けて、立派に自立して生きてた。」
……だからね、私はもうあの子に会うべきではないの。
過去からあの子の足を引っ張っちゃダメ。あの子の記憶の中のお母さんとして、覚えてくれてるだけでいいの。
寂しそうに、真希は言う。
巌は、ポンと真希の肩を叩く。
「そうか、ひかりは立派に生きてたか。
ま、16までは俺が育てたんだから、そりゃそうだよな。でも、お前のお陰でもあるよ。
……覚えてるだろ?お前の最後の日、俺を叱りつけただろ?
あの時お前に怒られたから、やってこれたんだ。」
そう言うと巌は、真希の手からタバコをひょいと取ると、当たり前のように火を付ける。
あーっ、ダメって言ったでしょ!と抗議する真希に、巌は言う。
「いいじゃないか。……最後のタバコだ。
ああ、分かったよ。お前と一緒に消えてやる。
でも……その前にだ。」
巌はプロメテウスの顔に目を向ける。
「消える前に、最後に。俺も、ひかりの様子が見たい。
……ああ、勿論、話しかけたりはしないよ。遠くから、ただ一目みるだけでいい。
死ぬ前に、最後に一度だけでいい。出来るか、プロメテウス?」
それくらいの価値は、俺にだってあるだろう?
巌の指の間で、熾火が煙を立ち昇らせている。
プロメテウスは、無言で頷く。
視界が、ひかりのスマホのカメラとリンクする。
「……耳しか見えんぞ。」
だがしかし、通話の音声は巌たちの耳にも聞こえてきた。




