干渉①
──第三次世界大戦期──
『……続きまして、昨日の戦況をお伝えします。
国防海軍省は本日未明、蒼海島周辺海域において大同人民国軍の無人艦隊に対する迎撃作戦が実施され、これをほぼ無力化したと発表しました。
発表によりますと……』
リビングのテレビの向こうで、スーツ姿のナレーターがニュースを読み上げる。
「流れ変わったよな……。」
巌がボソリと呟く。
この戦争が始まって、一年が経とうとしている。
つい二月ほど前までは、巌の住む旭日国の地方都市も、酷い有様だった。
と言っても、市街地に爆弾が落とされたり、上陸してきた敵兵が民間人に銃弾の雨を降らせた訳ではない。
当然前線ではそのような状況だけでなく、新兵器のAI自律兵器が猛威を振るい、死体の山を築いていたとの聞くが、何も前線で兵士が血を流すことだけがこの時代の戦争ではない。
──目に見えない、サイバー空間での戦闘。
これにより、敵国のインフラを混乱させ、偽情報で世論を叩き、経済や物流を窒息させる。
こうして、敵の戦争継続を不可能にしてやることが、勝敗に大きく影響することを、旭日国は血の代償をもって学習した。
『……本件につきましては、現在も作戦が継続中であり、個別具体の手法や内容について、つまびらかにすることは差し控えたいと思います。
しかしながら、申し上げたいことは明確であります。』
画面が、国防サイバー軍大臣の会見に切り替わる。
「お父さん、あの人最近よく見るね。兵隊さんなの?」
迷彩服姿の中年のサイバー軍大臣を指さし、ひかりが首を傾げる。
「ああ、その親分だよ。」
ひかりの頭を撫でてやる。
外では何が起きるか分からず、外出を控えていたこともあり、髪がすっかり伸びている。
……そろそろ美容院に連れて行っても大丈夫かな?
そんなことを思いながら巌は画面を見つめる。
大臣の談話に熱が入る。
『……我が国は、サイバー空間および情報空間において、着実に態勢を立て直し、主導権を回復しつつあります。
我が国は、もはや受け身ではありません。
引き続き、国民の皆様には、落ち着いて日常生活を送っていただきたい。』
……頼むぞ、大臣。もうあんなのは御免だ。
巌は、二カ月前までの惨状を思い出す。
突如町全体が停電するどころか、あちこちで火を噴く変電所。
港にはコンテナが山積みになり、貨物船が列を為しているその一方、物資が無く稼働できない工場、空っぽのスーパー。
乱高下する銀行口座の残高、使えなくなった電子決済。銀行に行っても下ろすこともできず、底を突く現金。
当然仕事どころではなく、困窮する国民。
これらは、敵のハッキングによって引き起こされた不具合なのだという。
これらのサイバー攻撃で、旭日国の経済や産業は壊滅的被害を受けたし、巌のような市民の生活も破綻させた。
そしてさらに、敵による世論操作は苛烈を極めた。
ハッキングされ、突如切り替わる番組、一斉配信される真偽不明の警報。
拡散され、世間に溢れかえる陰謀論、そして敵を持ち上げ、旭日国を貶めるナラティブ。
社会は、疑心暗鬼と恐怖に包まれ、厭戦気分が蔓延していた。
……二カ月前までは。
ボロボロだった旭日国の状況は、二カ月前、一変した。
一夜にして、戦前のような秩序と安定を取り戻したのだ。
人々は、国防軍が何やら人智を超越したAIを導入したのではないかと噂したが、政府はノーコメントを貫いている。
画面の向こうで、サイバー軍大臣が自信に溢れた笑みを浮かべ、会見を終えていた。




