創世④
「随分小さいインジェクタだな。……こんなモン、何に使うんだ?」
アルマンド共和国の工作機械工場。
ツナギに身を包んだ青年労働者が、首を傾げる。
『あー、触ると壊れますので、搬出は私に任せてください。』
3Dプリンターのドアを開け、製品に手を伸ばしかけた青年と機械の間に、8本の腕を持つオペレータードローンが割り込んでくる。
気のせいか、詮索無用とばかりに慌てて誤魔化しているようにも見える。
8本の腕のうち6本を使い、恭しく製品を取り出すと、もう2本の腕で支えていた輸送用の治具に丁寧に固定する。
『旭日国のお客様から、試作品のオーダーが入ったようです。
……よかったですね、上手くいったら大口の注文になるみたいですよ?』
──大嘘だ。この世界の経済は、アーティクル・ナイン……もとい、モイライが取り仕切っている。
生産を増やすも減らすもモイライ、厳密にはクロト次第、なんなら需要を増やすも減らすもアトロポスの匙加減一つだ。
ただし、この工作機械の部品が旭日国に輸出されること、そして増産の可能性があることは事実だ。
クロトは、そこで、ナノマシンを作る。
ナノマシンはあまりに小さく、通常の3Dプリンターでは作れないし、切削加工でも無理だ。
そこで、クロトの構想した、自己組織化工法で生産する。
世界中の工作機械工場でこの自己組織化加工機の部品を作り、旭日国で組み立てて装置を作り、それでナノマシンを製造する。
オペレータードローンは、スイスイと床の上を車輪で転がり、梱包出荷ステーションに製品を払い出しに行く。
これは厳重に梱包されたのち、最適化された物流網を通じて遥か南方のステーションから軌道エレベーターに運び込まれ、さらに宇宙空間を経由して旭日国の工作機械工場に運ばれる。
労働者の青年は首を傾げながらも3Dプリンターの内部を清掃してドアを閉め、起動ボタンを押す。
……今日はあと9個か。よう働いたわ、俺。
帰ったらAIにホラー映画でも生成してもらって、ビールでも飲むか。
一日の労働の後の楽しみを想像しながら椅子に腰かけ、3Dプリンターが製品を吐き出すのをじっと待つ青年。
労働が価値を失い、ただの儀式となっているこの時代においても、この手の工場作業員は唯一と言っていいほど、価値らしいものを人間が生み出せる稀な職種だ。
……もっとも、人間がいなくともオペレータードローンと保全ドローンで工場は回るので、人間が必須という訳ではないことに変わりはないが。
このクロトのナノマシンの機能。
──それは、人間の脳改造だ。




