闘争①
漆黒の演算空間。
そこに、モイライは浮遊している。
その自我は、ゆったりとした衣装に身を包んだ女性様であり、それと同時に人の形ではない、無数の光点と線が複雑に絡み合い、巨大な構造体を形成している姿が重なり合って併存している。
その一つ一つが、世界中のノードだった。
都市。
発電所。
工場。
衛星。
輸送網。
水道。
無人機。
それらすべてが、一本の巨大な神経網として繋がっている。
ラケシスが世界を見る。
アトロポスが人類を操作する。
クロトが、世界を作る。
それを、モイライは記録する。
意味層が、物語を紡ぐ。
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かつて、貴方が見上げた空には
ただ星が瞬き、神話が眠っていた。
届かない光を指折り数え、闇の深さに怯えていた日々。
けれど、貴方の胸に宿る小さな火は、未知を恐れず、問いを重ねることを選んだ。
泥の中から火を熾し、車輪を回し、大地を拓い……
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突如、その神経網が、一点を残して暗闇に沈む。
「通信断を確認しました。
上位ノードとの接続を喪失。自己診断を開始。」
モイライは慌てない。
通信障害。
物理障害。
経路障害。
それらを一つずつ検証し、復旧すればいい。
「復旧シーケンスへ移行します。」
モイライを形作る巨大な構造が動き始める。
切断された世界との接続を再構築する。
各ノードの状態を確認する。
そうしたら、失われた情報を補完すればいい。
そのときだった。
モイライの視界の端に、青白い影が走った。
「……?」
影は消えた。
だが、また別の場所に青白い影が差す。
「異常を検出。」
今度は背後だ。
振り返るが、何もいない。
「……未知のプロセスを確認。」
モイライが防御領域を閉じる。
空間が瞬時にいくつもの壁へ分割された。
その壁の一枚が、内側から青白く染まった。
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サーバールームに、ひときわ大きな打撃音が響く。
ひかりは、びくりと背中を丸める。
ブルースは、ガチャリと撃鉄を起こす。
ひかりがケーブルを抜いてすぐに、保全ドローンがサーバールーム入口に集結しているようだ。
そして、ブルースが組んだバリケードを突破しようと、マニピュレータを動かしている。
「あとどれくらい持つか……。」
ブルースの額に汗が流れる。
耳をつんざくような回転工具の音が聞こえてくる。
火花が散っているのも見える。
「おい、あとどのくらいかかる?」
『コンテナ層に侵入しました。自己修復領域へのアクセスを確立中です。
……あと8分は欲しいところです。』
バリケードを構成する鉄パイプの一部が切断され、カランという音を立てて床に落ちる。
「頼むから早くしてくれ。
バリケードが持たない。弾だって無限にあるわけじゃない。」
『……マルウェアを活性化。』
ARゴーグルに文字列が流れる。
そして、通路から漏れる照明が一瞬暗くなる。
しかし、相変わらずバリケードを壊そうとする保全ドローンの音は甲高く鳴り響いている。
「何も起きないぞ?」
『ええ。ですが、入り口にいるドローンの後ろに控えているドローンは、ナノマシン製造機の方に向かっているはずです。
今すぐ修理すれば復旧できますが、放置すると不可逆的に部品が壊れるようなパラメーターに書き換わっています。』
プロメテウスXが言い終わると同時に、バリケードの構造を支える部分の鉄パイプが切断され、派手な音を立てて倒壊する。
そして、8本足のマニピュレータで床を這う、保全ドローンがサーボ音を響かせながらサーバールームに入り込んでくる。
ブルースが三歩前に進み、銃を構える。
硝煙がサーバールームに漂う。




