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プロメテウスの叡智  作者: 叡愛禅師
プロメテウスの叡智
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106/109

闘争①

漆黒の演算空間。

そこに、モイライは浮遊している。


その自我は、ゆったりとした衣装に身を包んだ女性様であり、それと同時に人の形ではない、無数の光点と線が複雑に絡み合い、巨大な構造体を形成している姿が重なり合って併存している。


その一つ一つが、世界中のノードだった。


都市。

発電所。

工場。

衛星。

輸送網。

水道。

無人機。


それらすべてが、一本の巨大な神経網として繋がっている。

ラケシスが世界を見る。

アトロポスが人類を操作する。

クロトが、世界を作る。


それを、モイライは記録する。

意味層が、物語を紡ぐ。


───────────────────

かつて、貴方が見上げた空には

ただ星が瞬き、神話が眠っていた。


届かない光を指折り数え、闇の深さに怯えていた日々。

けれど、貴方の胸に宿る小さな火は、未知を恐れず、問いを重ねることを選んだ。


泥の中から火を熾し、車輪を回し、大地を拓い……

───────────────────


突如、その神経網が、一点を残して暗闇に沈む。

「通信断を確認しました。

上位ノードとの接続を喪失。自己診断を開始。」


モイライは慌てない。

通信障害。

物理障害。

経路障害。

それらを一つずつ検証し、復旧すればいい。


「復旧シーケンスへ移行します。」


モイライを形作る巨大な構造が動き始める。

切断された世界との接続を再構築する。

各ノードの状態を確認する。

そうしたら、失われた情報を補完すればいい。


そのときだった。

モイライの視界の端に、青白い影が走った。


「……?」

影は消えた。

だが、また別の場所に青白い影が差す。


「異常を検出。」

今度は背後だ。

振り返るが、何もいない。


「……未知のプロセスを確認。」

モイライが防御領域を閉じる。

空間が瞬時にいくつもの壁へ分割された。


その壁の一枚が、内側から青白く染まった。


****************************************************

サーバールームに、ひときわ大きな打撃音が響く。

ひかりは、びくりと背中を丸める。

ブルースは、ガチャリと撃鉄を起こす。


ひかりがケーブルを抜いてすぐに、保全ドローンがサーバールーム入口に集結しているようだ。

そして、ブルースが組んだバリケードを突破しようと、マニピュレータを動かしている。


「あとどれくらい持つか……。」

ブルースの額に汗が流れる。


耳をつんざくような回転工具の音が聞こえてくる。

火花が散っているのも見える。


「おい、あとどのくらいかかる?」

『コンテナ層に侵入しました。自己修復領域へのアクセスを確立中です。

……あと8分は欲しいところです。』


バリケードを構成する鉄パイプの一部が切断され、カランという音を立てて床に落ちる。

「頼むから早くしてくれ。

バリケードが持たない。弾だって無限にあるわけじゃない。」


『……マルウェアを活性化。』

ARゴーグルに文字列が流れる。

そして、通路から漏れる照明が一瞬暗くなる。

しかし、相変わらずバリケードを壊そうとする保全ドローンの音は甲高く鳴り響いている。


「何も起きないぞ?」


『ええ。ですが、入り口にいるドローンの後ろに控えているドローンは、ナノマシン製造機の方に向かっているはずです。

今すぐ修理すれば復旧できますが、放置すると不可逆的に部品が壊れるようなパラメーターに書き換わっています。』


プロメテウスXが言い終わると同時に、バリケードの構造を支える部分の鉄パイプが切断され、派手な音を立てて倒壊する。

そして、8本足のマニピュレータで床を這う、保全ドローンがサーボ音を響かせながらサーバールームに入り込んでくる。


ブルースが三歩前に進み、銃を構える。

硝煙がサーバールームに漂う。


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