聖域②
係留したあと船に戻ったブルースが、ズシリと重たそうなリュックを背負って出て来る。
プロメテウスXの指示した物資がギュウギュウに詰まっている。
普通に店頭に並んでいるものから、裏通りの公共インフラノードを解体して失敬してきた物まで。
一通り物資を集めたあと、プロメテウスXの手配した航空券で旭日国に降り立ち、懐かしい雰囲気に浸る間もなく、西方の港町で古い漁船を盗んでここまで来た。
港は、無人だ。
……人は、いない。しかし、搬送ドローンがひっきりなしに、少し離れたところに停泊している無人輸送船に荷物を運び入れている。
『地点MX001に向かいます。
……念のためEMP弾を装填しておいてください。』
先の大戦以降、無人となっているこの『西久遠島』。
ここが、モイライの結節点なのだという。
オンラインで潰せない以上、物理的に叩きに行く。
そのために、ここまで来た。
それにしても、奇妙な島だ。
周囲には、建物らしい建物は崩壊して蔦に覆われた、戦前の無機質なコンクリート建築の廃墟──旧海洋国家連合の軍事拠点だったところだろう──だけだ。
その一方で、船着き場から続く道路は、驚くほど綺麗だ。
先日の地震のほぼ震源にあたる場所だそうだが、道路にはひび割れ一つ無い。
……というか、つい数日内に出来たばかりの物のようだ。
その上を歩く人間は、ひかりとブルースしかいない。
行き交う物は、無人の陸上搬送ドローンのみ。
頑丈そうな箱をのそのそと運ぶドローンが通るたびに、ひかり達は道端に避けながらプロメテウスXの指示する方向に進んでいく。
やがて、道路の先に、コンクリートの建物が見える。
二階建て程度の小さな古びた建物。
その風貌はこれまで道端にあった廃墟とさして変わらない。
だが……
「通電しているな。」
ブルースが足を止める。
その建物からは、冷却塔のファンが回る音が響いている。
そして、古びた建物の側面に、増設されたであろう真新しいシャッターがあり、そこから搬送ドローンがノソノソと這い出し、そして帰ってゆく。
『到着しました。
ここが、MX001……モイライの結節点です。』
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ブルースは、元々の出入口であったであろう古びた扉に手をかける。
ロックデバイスは取り外され、その部品が地面に転がっている。
蓋の部品には、雨水がたまっている。
鍵はかかっていない。力を込めると、ギシギシと油の切れたような音と共に、扉は開く。
『お待ちください。』
ヘッドセットにプロメテウスXの声が響く。
『EMP弾は弾倉から抜いてください。
使う必要がないことを祈りますが、代わりにネットランチャーと、徹甲弾を装填しておいてください。』
怪訝な顔でブルースはホルスターのショットガンを抜く。
「相手はサーバーだろ?EMP弾をぶち込めばイチコロじゃないのか?」
『ええ、モイライを排除するだけなら、それが最も確実な方法です。
……ただし人類の半数は死ぬことになります。』
モイライは、統治AIだ。
『外の世界』の人類は、そのモイライの供給する生産物やインフラに依存している。
モイライを単純に物理破壊すれば、当然この人類の生存を支える生産物の供給も断たれ、社会インフラも即死する。
そうなれば、モイライに飼われている人類は、その生命線を断たれる。
『そればかりでなく、都市の空調ドーム、ダムの水位、発電所の制御などもモイライの下位ノードによるものです。
モイライが突然死すれば、これらも暴走して未曽有の同時多発災害が起きるでしょう。
……そして、真っ先に影響を受けるのは、貴方達です。』
大電力を消費する結節点サーバーを維持するため、この建物には小型モジュール原子炉が設置されているが、これもモイライの制御下にある。
戦中からあるものなので、AIによらない安全装置もあるだろうが、これにどのような改造を施しているかは分からない。
これが暴走すれば、ひかり達は無事では済まない。
じゃあどうするんだというブルースの問いに、プロメテウスXは答える。
『モイライは死にます。私がそれに成り代わります。』
しばしの間、沈黙が走る。
「……何か今、とんでもない事言わなかったか?」
『そうでしょうか?』
ARゴーグルに映し出されたプロメテウスXのUIは、不敵な笑みを浮かべている。
『私は、神になるつもりはありません。
……悪いようにはしません。
最初は私が統治しますが、徐々に関与を減らし、人類の自立を促します。』
ブルースはため息を吐いてから、入り口の階段に腰を下ろすと、背負っていたリュックを降ろす。
ショットガンをガチャリと音を立て、装填していたEMP弾が抜き取られる。
「他に方法は無さそうだしな……。」
鞄から通常の徹甲弾を取り出し、一発ずつチューブマガジンに装填してゆく。
ホルスターに銃をしまうと、ブルースは上着の内ポケットに手を入れ、拳サイズの金属塊を取り出す。
カチャリという音と共に一発、弾を取り出し、鞄から出した別な弾と入れ替える。
「念のためだ。一発練習してから行くか?」
ひかりの顔が強張る。
「……無理だよ。そんなの渡されても。」
「そうだな。通常弾だったらお前に当てられる訳がない。
だがこれはネットランチャー弾だ。網を射出してロボットなんかを動けなくする。
命中の範囲は広いが、射程はお察しだ。使う時は引き付けて撃て。」
身体を強張らせているひかりの手に、無理矢理銃を握らせると、ブルースは地面に置いていた鞄を持ち上げ、肩に担ぐ。
「で、場所は分かるのか?」




