37. 由加ちゃんと三人
(由加ちゃんと三人)
「そんなこと、どうでもいいけど、お腹すかない?」
私は、思わず熱く語ったことで、お腹がすいていたことを思い出した。
「ごめんー、ご飯前だったからね。お腹すいたねー」
私は、さっそくリュックの中の遭難食を取り出した。
「私、食料もっているから、パーティーやりながら食べましょう!」
「凄いねー、やっぱり君は……」
「お兄さんのリュックにもたくさん入っているわよー、インスタントラーメンなんか、私、入れたから……、この時のために準備して、重い荷物を持ってきたんだから……」
「君には、最初から分かっていたみたいだね……」
昇さんもリュックを広げた。
「もちろんよー、そう何度でも言ったでしょう。分かっていなければ絶対にこないわよー」
彼は、ストーブ(コンロ)を出して、まずは、お湯を沸かした。
「これで温かいものを食べて、体を温めよう。でも、分かっていて来るなんて怖くなかった?」
「そうなのよねー、不思議と怖くないのよー、今は楽しいくらいよ。ちょっと空元気……、でも、どうして怖くないのか、その理由も分かっているから……」
「え、どうして……?」
昇さんは不思議そうに訊いた。
「由加ちゃんと一緒だから!」
でも、彼のリアクションはなかった。
「由加ちゃんて、あのペンションの子……」
「そうよー、今日の遭難も由加ちゃんに言われて……、お兄さんを助けて欲しいって、ここまで連れられてきたのよー、一人でこんな雷で、強風で、土砂降りの雨の中、来られるわけないでしょう!」
私は心配そうなお兄さんの顔とは反対に明るく言った。
「でも、由加ちゃんは、……?」
昇さんは、私の精神状態を心配したらしく、私に諭すように疑い深くあたりを見回した。
彼の言いたいことは分かっていた。
この極限状態で気がおかしくなったのではないかと、でも……
「いるわよー、ここに……」
そして、私の言葉に驚いた。
「私のこと呼んだ!」
由加ちゃんが私の横で、さっちゃんを抱きかかえながら笑って返事をした。
「え、え、見えないけど……」
お兄さんのきょとんとした顔……
「見えない、分からないー、それはよかった。だから、もう彼方は死なないってこと……」
「え、どういうこと?」
お兄さんは、ぜんぜん話が見えないようだ。
せめて私が正気なことくらいは分かってほしい。
「由加ちゃんが見える人は、もうじき死ぬ人。それと死んだ人。由加ちゃんには、死んでいく人の運命が分かるの……」
「由加ちゃん、死神……」
「あ、怒るわよー、今ここにいるんだからー」
私は低い声で、恨めしく声を震わせた。
「ただの、お化けさんよ!」
「お化けって、幽霊……、またまた、こんな嵐の中、怖がらせようと思って……」
「信じられないと思うけど、でも、そういう話って、あるのよ、本当に……」
私は、自分で言いながら身震いした。
「もう、女の子はそういう話が好きだからね。トイレの花子さんとか……」
彼は、まだ信じてない。
「でも、由加ちゃんはちょっと違うけどね。由加ちゃんはちょうど一ヶ月前、病院で死んだの。ずうっとベッドに寝ていて苦しかったみたいなの。だから今死んで始めて、生きているときしたかった事を元気にやっているわけ。飛んだり跳ねたり、走ったり、もちろん遊びも山登りもね。それで今、私の横にいるの……」
由加ちゃんは、私の言葉に大きく頷いて……
「そうよ、私、嬉しい―、お姉さんとお兄さんと一緒で、こんな山までこられて楽しい……」
由加ちゃんは、本当に楽しそうだった。
由加ちゃんの笑顔を見ていると、激しくテントを打ち続ける嵐のことも忘れてしまいそうだ。
「由加ちゃんも、楽しいって!」
私は、由加ちゃんの言葉を訳して伝えた。
「ちょっと信じられないけど、どうにもならない嵐の中だから楽しくやろう。お湯沸いたんじゃないかな?インスタントラーメンとコーンスープでも作って温まろうー」
お兄さんはリュックの中から、ラーメンを出した。
「あとで、食後のデザートもコーヒーもあるからね。インスタントだけどねー」
私も、プチケーキやチョコレート、インスタントコーヒーを出して並べた。
「君は、本当に凄い子だねー」
「凄い凄いって、ゴジラじゃないんだから、他に褒め方ないの?」
「よく持ってきたねー」
「そうよー、これ、重かったのよー」
「少し、嵐も治まって来たかなー?」
その時、トランシーバーがなった。
「おーい、大丈夫か? 雨も風もだいぶ治まったから、救助に行かなくていいか?」
それでも、テントをたたく雨はやんでいなかったが、ゴーゴーという風は少し治まったようだ。
「あーあ、大丈夫だー、取り敢えずテントもあるし食料もあるから、明け方でいいよ。こちらは崖の下だから、装備も頼む。もしかすると、足を挫いて登れないかもしれないから……」
昇さんは、哀れみをこうような声で訴えた。
「本当に大丈夫かー? 他に痛いところないか?」
「あ、あー、大丈夫じゃないよー、体中が痛いよー」
本当か嘘か、私には分からないが、私の前にいる昇さんは、声で訴えているよりは元気に見えた。
「それは良かった。彼女に悪さもできんなー、でも雨に濡れたままでは風邪ひくぞー」
「大丈夫、二人で抱き合って寝るから……」
「三人よ!」その時、由加ちゃんが叫んだ。
「由加ちゃん……」
私は、唇に人差し指を当てた。
「三人って、おいおい、なにやっているんだ!」
由加の声は、昇さんには聞こえなかったが、トランシーバーの向こうがわには聴こえたみたいだ。
「あれ、私の声、聞こえたみたい……」
「違うわよー、私よ。大丈夫だから……」
私は、由加ちゃんの声をごまかすように叫んだ。
「そうだ、三人いる、女子二人と俺でにぎやかにやっている。じゃあー何かあったら、また連絡する……」
昇さんは、早々と無線を切った。
「三人だって、君の言っていることは本当みたいだ」
「だから言ったでしょう」
「由加ちゃんにも、君にも感謝するよ。本当に助かったよ。あのまま気絶していたら、おそらく低体温症で死んでいたよ。命の恩人だー」
今ごろ分かってくれても遅いと思ったが、由加ちゃんは、この結果に満足していたようだ。
「ちょっと違うけどね。その原因を作ったのは私だから……」
由加ちゃんは、お兄さんには聴こえないけど付け加えて言った。
「そんなことはないって、お兄さんは悪くないって、由加ちゃんが……」
私はまた由加ちゃんが言ったことを訳して伝えた。
「そう、……」
お兄さんは、多分話の意味が分からないまま頷いて微笑んだ。
「ラーメンできたよー」
そして一人前のラーメンを二つのアルミの食器に移して、そこにドライソーセージを斜めに薄く切って入れて、私に手渡してくれた。
ソーセージはチャーシューの代わりかもしれない。




