93 もう騙されない
よし、出発ね。
チョットマは、一歩踏み出そうとした。
さあ。
ンドペキが手を出した。
えっ。
手を?
私に?
踏み出しかけた足を止めた。
なにこれ!
本当のンドペキじゃない!
ンドペキがそんなことするはずがない!
こいつは偽物だ!
危ない。
危ない。
危ない。
意識して周りを見回した。
ふう!
レイチェルのシェルタの中だ。暗闇の中だ!
ニューキーツの街のンドペキは、穴の向こうで微笑んで、相変わらず手を差し伸べている。
くっ。
やばいやばい。
こんな仕掛けに危うく騙されるところだった!
消えろ!
この外道め!
ふざけたことを!
消え失せろ!
握っていた金貨を投げつけた。
と、穴はみるみる小さくなり、ンドペキの顔がこわばった。
ふん!
偽物ンドペキ、残念でした!
ニューキーツの街はたちまちぷっつり消えた。
そこにひときわ暗い穴倉の入り口があった。
じっとりと汗をかいていることに気づいた。
危ないところだった……。
いったい、なんだっていうのよ……。
幻想?
時々見える青空とかといっしょ?
でも、声まで聞こえたし……。
それに、偽物ンドペキは、私の言葉に反応してたし……。
というより、会話してたし……。
単なる幻想とは違うみたい……。
穴倉から離れ、しばらく息が静まるのを待った。
さっきは、あんなに怒り狂ったのに、怒りは全くなかった。
むしろ、穏やかな気持ちに溢れていた。
変な気分だった。
それにしても、あんなリアルな幻なんて……。
私の心を映し出したとか……。
チョットマは自分の手の平を見つめた。
さっきまで握りしめていた金貨の名残が残っている。
あれが……。
もしか……。
あの金貨があれを見せた?




