7 六百年経っても、そういうところは変わらん
本当は、少し疲れてもいた。
会議は、選挙方法について持たれたものだったが、なにしろ多様な人間で構成される小さな社会である。
生まれも、本当の年齢も、身体の組成までもがバラバラ。
ホメムはただ一人、レイチェルのみだが、マト、メルキト、アギ、パリサイド、アギからパリサイドになった者、そしてクローン、人造人間アンドロまでいる混成社会。
簡単に、結論が出るはずもない。
いくつもの分科会に分かれて議論しているが、今のところ、どこもむやみに紛糾するばかりで、不毛に時間を空費している。
「レイチェルはどんなことがあってもやる気やぞ」
「そうやね。彼女、自分が唯一のホメムって意識、捨て去りたいみたいやしね」
「いいねんけどな、それでも。あいつがそう思うんやったら」
「へえ? ノブは反対なん? 選挙」
「いや、やるべきやろ。僕が言いたいのは、レイチェルの、その、なんというか」
レイチェル自身、ホメムとはいえ、ベータディメンジョンを経由して若返って戻ってきた人間である。
元は、キャリーというニューキーツ長官。
すでにかなり高齢だったキャリーが子供を産める年齢に戻るために。
「あいつも大変な、その、苦労というか、悩みというか」
「まあねえ」
ふう、とユウが溜息をついた。
レイチェルには、悔悟の念とまではいわないが、少しばかり後ろめたい気持ちがあるのだ。
自分がそこまでしようとしたことに。
そして、禁止された技術、クローンを作ってまで、己が子供を宿すための相手を探そうとしたことに。
いわば恋人探し、などと自分でも言っていたが、生粋の人類を残すことにもう意味がないことを悟った今、自分が長官としていかに無能で、結果として人類の本当の危機を招いてしまったことに、責任を感じているのだ。
ことあるごとに、レイチェルは口走っている。
ねえ、ンドペキ、長官を代わって欲しい、と。
「何なん、相変わらず、はっきりせえへんな、ノブは」
六百年前の容姿のまま、ユウは長い黒髪を揺らせた。
家族だけでいるときは大阪弁。これはイコマ家の不文律である。
「まあな。六百年経っても、そういうところは変わらんよな」
「そんなに若い体になっても?」
「この身体か? これなあ……。まだ馴染めんよな、完全には」
「そう? 前から思っててんけど、なかなかいい男やん」
「は! 微妙な気分になるで、そう言われると。以前よりいい、ってことかいな」
「いえいえ、決してそういう意味ではございません!」
ユウは笑ったが、まだこの体に他人を感じてしまうのは、本当のことだった。
何しろ、肉体を持たない記憶の人アギとして、六百年を生きてきたのだ。
はい、今からこの身体でやってください、といわれても、高々二年やそこらでしっくりくるはずがない。
ユウは、ずっと自分の身体というか、容姿だけは維持してきた。
四百年ほど前、神の国巡礼教団の無謀な航海にスパイとして送り込まれ、結果、遠い星パリサイド星で、パリサイドの肉体を得た。
パリサイドの肉体。
見かけはオットセイのような黒いずんぐりしたものだが、非常に高度な組成をしている。
古代宇宙生命体から与えられた身体で、空を飛ぶ、海底で暮らすことはもちろん、宇宙線があふれる宇宙空間を生身で移動することもできる。
しかも、十数キロに及ぶ羽を広げて、宇宙線からもエネルギーを得ることができ、いわば無敵のパワーを有している。
熟練したパリサイドとなれば、人らしい姿をまとうことも可能だ。
今、並んで歩くユウの姿は六百年前、大阪で恋人同士として過ごしていたあの頃のもの。
前を行くンドペキやスゥも、一時は記憶をなくしていたとはいえ、マトとして自分の身体を再生させ続けてきた。
六百年前、イコマは記憶を維持することを優先し、肉体は捨てた。つい二年前にパリサイドの身体を与えられ、そのわずかひと月後には誰か知らない人の身体を持つことになったが、一度は捨てた身体。
違和感はあるが、どうということはない。