36 恋愛狂時代
「ねえ、チョットマ。好きな人、いる?」
イペが聞いてくる。
「そうねえ。いないわねえ。イペは?」
イペと二人、市民局の下部組織NPUサービスに勤めている。
ンドペキが社長。
まさか、社長が好きだとは、言えない。
NPUサービスは物流会社。
市民に物資を届けたり、資材庫の管理を任されたりしている。
チョットマは市民局の無役の幹部、兼NPUサービス配達員で、イペは管理部門。
今のところたいして流通というものがなく忙しくもないが、重要な仕事ではある。
「いるともいないとも。どちらとも言えないわね」
つまり、いるってことね。
イペの瞳に優しさが籠る。
「へえ! 誰? お相手」
イペは、ニューキーツの住人でマト。
年齢は三十過ぎだと聞いているが、かなり若々しく見える。
まつ毛が異常に長いが、再生時のミスなのかもしれない。
少し浅黒い顔に、整った目鼻立ち。
今日の巻き髪はふんわりと、いつもにも増してエレガントにセットされている。
ラメ糸の入った赤いリボンと共に巻かれていて、おしゃれだ。
「さあ」
イペは、自分から話題を振っておいて、じれったい。
そして、
「ハハハ!」
ここで笑うか、というタイミングだが、とにかくよく笑う女性。
笑うと瞼から目尻、口元にかけて大きな皺ができる。つる植物が這っているような模様の皺だ。
「不思議よねえ」
「何が?」
「だって、何百年も、恋だの愛だの、忘れてしまってたわけでしょ、私たち。でも、急に思い出したようにみんな、恋し始めたって感じじゃない?」
「……そうね」
「まるで恋愛狂時代」




